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詰んだ…。

 ――そして決戦に敗れたレナルド。


「レナルド様にはもっとふさわしいご令嬢がいらっしゃると思います。申し訳ございません。」


 アネットの言葉でその場は凍りつき、私の「な、んで⋯?」という、つい出てしまった小さな問いかけに、アネットは誠実に答え始めた。


「何故⋯と言われれましても、私とレナルド様の階級も違いますし、何より⋯⋯女性に対しての()()()さ。甘い言葉で沢山の方にお声を掛けるのに、距離を詰められると拒絶する。しかも、ご令嬢が別の方と仲良くするのは許さない…。おまけに、成績は上位で武術も出来るからと、男性への当たりは強く煽り散らす姿には怒りが湧きます。自分の顔に自信があるのは良いですが、それをひけらかす程()鹿()に見えるものはありませんわ。皆が貴方に賛同しているのではなく、呆れていると分からないその神経の()()()には()()します。あと、()()から来る()()()()喋り方。それから⋯⋯」



 “それから”の続きは記憶に無い。

 嗚呼⋯こんな形で人生初の告白を終えるなんて…。そりゃあ、チャラ男に対してフルボッコにしたくなるのは分かる⋯け・ど!!なんで私がそこまで言われなきゃいけないの!?

 ちょっと恥じらいつつも『えっ///嬉しいです///』ってはにかんでくれれば良かったのに!YESともNOとも決定的に言わなくたって、その場を収めることは幾らでも出来た筈なのに!



 クロエがアネットの口から放たれるマシンガンを、宥めてくれた気がする。そして、ぽんぽんっと背中をアルフレッドに叩かれ、「ま、まぁ⋯頑張れ⋯!」と励まされた。


 ―――


 どうやってレナルドの実家まで帰ってきたのか……記憶が曖昧だ。

 ぼすっと布団に倒れ込むと、パーティースーツの硬い装飾が肩に刺さる。

「⋯んっ!ん゙~〜痛い。はぁ~辛い…。」


 どうして私がこんなに悲しいのか分からない。別に好きな人に告白したわけでも、自分が女の子を弄んだわけでもない。そもそもチャラ男を演じたのは私じゃないし!!あゝ、濡れ衣を着せられたようで釈然としない。しかも途中からただの悪口だったよね!?


 ベッドの天蓋を見つめ、意識はぼんやりとしてくる。慣れない人達に囲まれて気が張っていた疲れと、フラれた後ヤケ酒したのも相まって悶々としたまま、私は眠りに落ちた―。




 翌朝、バーン!と自室のドアが開くと、妹のアメリーが上機嫌で部屋へ入って来た。


「お兄様!何をなさっているんですか?今日お休みなのでしょう?早く起きてください!

 もうっ!フラれたからっていつものことでしょう?当たり前に自分が受け入れてもらえると思っているから、お兄様は嫌われるのです!!こんなお兄様に告白されるなど、アネット嬢も気の毒ですわ。」


「ぅんん〜⋯昨日からHP、ゼロなんだ…傷口抉らないでくれ。⋯何だか楽しそうだな。アメリー。」

「エイチ⋯ピー⋯?フンッ!いい気味ですわ!!取っ替え引っ替え女性を弄ぶ、ツケが回ってきたんです!私の身にもなってみてください!お兄様のせいで、私まで軽く見られたり、お兄様がフッたご令嬢からは嫌われているのですよ!」

「すまない…。今まで嫌な思いをさせてしまって。。。」

「ひぃっ!気持ち悪いこと言わないでください!お兄様はこれしきの事、慣れっこではないですか。フラれながら、“あの子は怒った顔も可愛い♡”って言ってたじゃないですか。そんな落ち込むお兄様は、お兄様らしくないですわ!」

「昔の俺、タフ過ぎるだろ…。」

「さっ!!お兄様にお仕事ですわ!!行きますわよ!!」


 ベッドに突っ伏した私の腕をぐい〜っと引っ張り、仰向けになったの私の顔に着替えを投げつけるアメリー。


「ゴフォッッ」


 これが兄妹か…。学生時代の会話を思い出す。

 ○*゜。○*゜。

『きょうだい、良いな〜。』

 ポロリと言ったその台詞で、教室が荒れる。


『いや、いない方が良いと思う。私、お兄ちゃん嫌いだもん。だらしないし、優しくもないもん。どうせなら妹が良いなぁ。』

『妹〜!?生意気で馬鹿にしてくるんだぞ?可愛くもない。俺ひとりっ子憧れる。良いな〜お前。』


『⋯そんなに良いかな?』


『喧嘩もしないだろ?』『お姉ちゃんのお下がり着ないでしょ?』『お兄ちゃんなんだからとか言われないだろ?』『お兄ちゃんの友達で家が荒らされる事無いでしょ?』


『⋯無いね。』


【良いなぁ〜ひとりっ子。】

 この一言で終わる。

 ○*゜。○*゜。


 確かにひとりっ子であるが故、比べられる対象が居ないから、褒められる時も怒られる時も私だけ。自分的には、コミュ力は育たなかったし、マイペースだと自覚しているし、基本受け身な性格に嫌気が差していた。


 だけど今、ひとりっ子に憧れる人の気持ちが少し分かった。雑に扱われる兄の気持ち⋯コレかぁ。



 着替えて居間へと向かうと、母上とアメリーが待ち構えていた。


「お兄様は付いてくるだけで十分ですわ!誘うだけ有り難いと思って下さい。」

「アメリー!全く口の減らない娘なんだから。レナルド、疲れているのに悪いわね。では行きましょうか。」

「はい。⋯って何処へ?」


 母上とアメリーと共に馬車へ乗り込み、街の中心街で様々な店が建ち並ぶマーケットへとやって来た。


「わぁーい!お買い物!」

「アメリー、離れないでくださいね。」

「は~い!あっ!コレ綺麗ですよ!お母様!」

「言った傍から…。先に仕立て屋に行きますよ!!」


 以前言っていた、アメリーの服を仕立て屋に依頼しに来たらしい。私の服を母上が仕立ててくれたのを、相当羨ましがっていたからな。でも、私を連れてきた理由は何だろう?


「ここ最近、貴族を狙った盗みが増えてるみたいよ。」

「やっぱり“持ってる人”は狙われるのねぇ。」

「少しでも質素な服装で出かけるようにしてるんですって。」


 すれ違う奥様方の会話で何となく理解した。護衛として従者も一人連れてきてはいるが、心配なのだろう。街なかで買い物にぞろぞろと護衛を付けるわけにもいかないしな。だったらわざわざ街で仕立てなくても、屋敷の中に服飾専門の職人が居たはず…。


「ここよ。」

 着いた仕立て屋は大通りを1本入った、路面に面した石造りのお店。扉を開けるとカランカランッと重めのベルの音。


「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。」

 小綺麗な女性ですっきりとした顔立ち。顔馴染みのようで、母上とは話が弾んでいる。


「お嬢様、此方へどうぞ。採寸させて頂きますね。」

 奥の部屋へとアメリーが連れられて行くと、狭い店内に母上と二人っきり……気まずい…。

 幾つか掛けてある服を見ている母上。何か喋ったほうが良いかな?此処は静かに待つのが正解?私は手持ち無沙汰で、そっとカウンターに置いてある布に手を伸ばした。


「今度はそちらで仕立ててもらいましょうか?」

「あっ、いえ、見てただけで⋯」

「遠慮はいりませんよ。此処の品は王宮に献上される事もある一級品。あまり多くは注文出来ないでしょうけど、滅多にない機会ですよ。」

「そんなにお褒めに預かり光栄です。ブルシュバル侯爵夫人。」


 奥から採寸を終えたアメリーと、先程の女性が出てきた。恭しく挨拶をするが、にやりと笑う女主人。


「畏まる間柄でもないでしょう?カミーユ。」

「そうは言っても、侯爵夫人ですし昔とは違うわ。」

「ふふ。懐かしいわ。昔から貴方の裁縫はやっぱり綺麗なのよね。」

「そう言ってくれたお陰で、ここまで来れたようなものよ。」

「それは貴方の実力でしょう?」


 笑い合うカミーユと母上は、旧友なのだろう。いい関係だなぁ。大人になってからも時折会って、昔話や近況報告に花を咲かせる。

 自分が学生の時は、大人になっても仲のいい友達が居るものだと思ってた。成長と共にそれは稀なんだと分かったけど、小さな憧れはずっとあった。


「あともう一着頼んでもいいかしら?」

「少し後のお届けになりますが?」

「結構よ。この子のを。」

 私の背にそっと添えられた手は華奢で小さく、懐かしい感じがした。


「お、俺のは大丈夫です。以前仕立てて頂きましたし。」

「あら?服は何着あっても欲しがっていたのに。」


 レナルドぉおおお!そんな簡単に欲しがって、我儘かッ!金持ちかッ!


 ⋯⋯我儘で金持ちだったわ。。。


「いえ、母上の仕立ててくれた服、、気に入っているんです。折角仕立てていただけるなら、季節が変わったらお願い出来ますか?」


 少し驚いた顔をして、優しい声色で言葉を続ける母上。


「⋯そう。では今日はやめておくわ。カミーユ、また来るわ。」

「仕上がりましたらご連絡致します。これからもどうぞご贔屓に。」


 カランカランッとベルを響かせ店を出る。


「⋯どこで覚えたのかしらね。」

「どうされたのですか?お母様。」

「いいえ、なんでもないわ。行きましょう。」


 アメリーと母上の後ろを付いて歩く。石畳の街並みは、異国なんだと実感するには十分すぎる。服やアクセサリー、香辛料、食材、食堂、土産物まで様々な店に目を奪われる。


「お母様〜!これ!かわいい〜」

「良いわねぇ。少し見ていこうかしら。」


 アメリーが興味のまま、毛皮や宝飾品を売っているお店へと入って行く。それに母上もついて行くが、自分はどうしようかと足が止まる。周りに見えている姿は男。変に見えるだろうか?でもショーケース奥の可愛らしいバレッタと目が合う⋯⋯あゝかわいい!!やっぱり見たい!

 店に並ぶのは、綺麗なイヤリングやネックレス、ふわふわの毛皮はとても暖かそう。商品に夢中なアメリーは兄など目に入っていない。今のうちにさっきのバレッタを⋯⋯⋯あった!!やっぱり可愛い。男である以上眺めるだけで満足しなきゃ。


「お兄様、またプレゼントですか?」

「ヒッ!?」

「なんですか?⋯へぇ、髪飾り良いですね!!私それにしようかしら。」

「やめなさい!レナルドがプレゼントするんでしょう?これはどう?これも美しいわよ。」

「お兄様だけズルい〜!」

「ダメよ。人のプレゼントを欲しがるなんて、はしたないわよ!それに、アメリーにはこちらの色が良いと思うわ。」

「は〜い。。。」


 ビックリした〜!急に声を掛けられて変な声出た…。然しどうしよう。買うことになった上、誰かにあげることになってしまった…。



「お買い上げありがとうございました~!」



 買ってしまったぁあああ!アメリーも母上もそれぞれ買った物をお付きに預け、再びショッピングを楽しむ。


 少しお腹が空いてきた。時間もお昼時で、そこかしこから良い匂いがしている。


「お腹空きませんか?」

 母上に小さく問い掛けると、そうねと呟き近くの食堂に入った。


「何にしようかなぁ⋯私ビーフシチュー!」

「そんなもんはないよ!あんた達、見かけない顔だねぇ。」

 荒っぽい女性がテーブルへと近付いてきた。


「そうですか。では、お任せしますので3人分お願いします。」

「ちょっと待ってな!」

 母上の言葉にニッと笑い奥へと入っていた。


「お母様⋯ちょっと怖い⋯です。」

「大丈夫ですよ。料理を待ちましょう。」


 今日一緒にいてずっと感じていた。母上は上流階級特有の高飛車さは無くて、誰に対しても礼節を持って接する。アメリーの我儘も嗜めるし、常に穏やかだ。ザ・大人の女性で憧れるなぁ。


 そうこうしていると、丸パンと大皿には緑色のポタージュが入っていて、硬いパンを皿にして少しの肉が乗っていた。


「はい、お待ち。」

「ありがとう。頂きましょう。」


 ポタージュにパンを浸し、一口食べたアメリーは明らかに表情が曇る。嫌いなのか?と聞くと小声で嫌い…。と返って来た。ほうれん草は好き嫌い分かれるよな〜。

 アメリーには肉を勧めて、ポタージュは自分が食べていた。すると、奥に座っていたガラの悪そうな人達が近付いてきた。


「おやおや〜?上流階級の方はこんなところでお食事苦手でしょう!?」

「俺等の飯を嘲笑う為にお金を使うなんて、上流階級の方達はさぞ暇なんですね〜?」


 ムカつく〜!!コイツら何なんだ!?わざわざ近づいて来て、悪態つくなんてお前らのが暇人かよ!!黙って我慢していたが、アメリーに近づいて煽り始めた。


「お嬢様には緑のポタージュは食べられないんですね。さっきから一口も召し上がってないようで。」

「あぁ~!肉しか食べないかぁ~!俺等には出してくれない肉を食べてますもんねぇ〜!?」


 アメリーの顔は強張り青ざめ、手は震えていた。いつしか店主にも矛先が向かう。


「あんた達!食べたんならサッサと帰んな!」

「ぼったくっといてよく言うぜ!!こんなもん食えたもんじゃねぇ!」


 ガシャーンとテーブルの上の皿を落とされてしまった。

 私のご飯がぁぁぁ!流石に我慢出来ずに立ち上がると、母上も立ち上がった。


「ご迷惑になりますし、私達は行きましょう。ご馳走様。これで足りるかしら?」

「こんなに⋯!?」

「あの方達の分もあるかしら?」

「十分です!!有難うございます。」


 母上と店主とのやり取りを聞いていた、ならず者達は怒りのまま手を上げた。


「チッ!施しなんざ要らねぇんだよ!上流階級ぶってんじゃねぇぞ!」


 母上に振り下ろされる手を、私は寸前で掴んだ。


「ぶってるんじゃねぇ、上流階級なんだよ。とっとと失せろ。」


 捨て台詞に『クソ野郎』か『クズ共が』で迷って、そこまでしか言えなかった。



 直ぐにアメリーの手を引き、母上と共に店を出て大通りまで早足で歩いた。


「ここまで来れば大丈夫だろう。怖かったな。怪我はないか?」

 アメリーの顔を見ると、今にも泣きそうだった。


「驚いたわ。レナルド、あの言い方は…危なっかしいわね。」

「すみません、つい…。でも母上に怪我がなくて良かったです。」

「ヒクッ⋯ヒクッ⋯⋯怖かった⋯お兄様なんてキライ!」

「なんで!?」


 ホッとしたのか涙をポロポロ流すアメリーには、余計に嫌われたらしい。



 日が傾き始め、華やかな影が石畳に伸びる。

「そろそろ、帰りましょうか。」

「はい。お母様。」


 馬車へアメリーと母上が乗り込む。自分は気掛かりなことがあった。


「レナルド?いかがなさったのですか?」

「俺は少し買いたい物があって⋯先に帰っていてください。」

「危ないわ。それなら従者に⋯」

「いえ、暗くなる前にアメリーと戻っていてください。俺なら大丈夫です。」



 馬車を見送り、私はアクセサリーのお店へと向かった。



「いらっしゃいませ。あら?先程の。何かお探しの物が?」

「アメリーが見ていた、、俺と一緒にいた妹が見ていた物ってまだありますか?」

「あ~!此方の品を見ていらしたわ。」


 出してくれたのは小さなピンクの石がついたネックレス。アメリーは最後まで悩み、買わなかった。


「これください。」

「有難うございます。またお待ちしております。」


 今日怖がらせちゃったからなぁ。私が食事に誘わなければ⋯あの店でなければ⋯。楽しい買い物を嫌な思い出にして欲しくないから。



 店を出ると、嫌な顔触れが待ち構えていた。


「よぅ兄ちゃん。さっきはどーも。ちょっと面貸せよ。」



 詰んだ…。

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