秘密工作大作戦
わたくしブノワ・バトンと申します。オクレール家の執事をしております。お仕えしてかれこれ30年でしょうか。
只今、レナルド様が通われている学園主催のダンスパーティーへお供させていただいております。記憶障害がありながらよく今日まで⋯ううぅぅぅ。。最近涙脆くて…いけませんね。わたくしも、随分と年を取りました。坊ちゃん、レナルド様の成長が何よりも嬉しいのです。
「本日は我々従者も同行致しますので、なんなりとお申し付け下さい。」
「そうか、ありがとう。ブノワ。」
わたくし、小さな時からずっとレナルド様を見てまいりましたが、記憶障害を患ってから感謝をよく言葉になさるようになりました。とても良い事ですし嬉しい限りですが、少し淋しいような気もします。以前のレナルド様は言葉にはせずとも気遣って下さいました。
「これ使え。破れてるぞ。」
そう言って渡して下さった手袋は、わたくしの宝物の一つでございます。
さて、今日のパーティーのメインは社交ダンスですが、わたくし達従者には仕事がございます。
1.提供される食事のチェック。
万が一…も有りますが、苦手な物などは口になさらないようにしなくては。
2.上級貴族の方々への挨拶回り。
レナルド様は記憶障害になられて名前や役職など分からない為、事前のリスト作成と挨拶時の仲介。
3.見守る。
これが一番大事です!出来るだけ陰からレナルド様の記憶が戻る様サポートせねば!!
実は⋯レナルド様には内緒で、、、学園へも潜入しておりまして……。
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「ここからは、わたくしは入館が許可されておりませんので、レナルド様お一人でお進み下さい。」
記憶を戻す為学園へ向かわれたその日、こうは言ったものの⋯
「記憶無いんです!!本当なんですって!!」
あぁ!ご友人のアベル様、ジル様、レオナール様にお会いできたのですね!!
ブノワは校内の2階から女子生徒に混じってレナルド達を見つめていた。
「記憶障害とは何と悲しい再会なのでしょうぅぉぅぉぅ。。。」
女子生徒達はブノワのすすり泣きに驚くばかりだった。
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「いざ、大浴場〜!!」ジル様!それは名案でございます!陰ながらわたくしもッ!!
ブノワは大浴場の端、湯口から大量に流れる湯に隠れレナルド達を見守る。
レナルド様もご友人達と裸の付き合いで、思い出すかもしれません。そろそろレナルド様と鉢合わせするかもしれません。出なくては……アレ!?レナルド様!?何方へ⋯!?
その頃レナルドは、サウナでヘロヘロになっていた。
「レナルドとジルとアベルが倒れたー!!」
「サウナで気を失ったんだ!!」
(レナルド様ーーー!/////ソコは隠さねば!!)
大勢集まった男子生徒に交じり、ブノワはレナルドを部屋へと運んだのだった。
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レナルド様はなんとか馴染めているようで良かった。ただ、女性関係はまだ安心はできません…。乗馬へと向かうレナルドとアネットを追いかけ、ブノワも馬舎に向かった。
何やら話しているレナルドと騎乗したアネット。何を話しているのか馬舎内にいるブノワには聞こえない。
アネットの乗る馬が徐々にスピードに乗って走る。
「ストップ!」の言葉と共にレナルドが大きく手を広げ、馬の前に飛び出した。馬が大きく嘶き、跨がったアネットの体が浮き上がる。
「危ない!」と思わず叫んだブノワは間に合わなかった。いつの間にか集まった令嬢達に踏み潰されて、ブノワはその場に倒れたのだった…。
「レ⋯レナルド⋯様⋯⋯」
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今、わたくしは校内食堂で給仕に扮しております。あれからレナルド様の姿がイマイチ掴めず、ココならば!!とお手伝いをさせて頂いております。ですが今日はお食事の時間は過ぎてしまっていますし、また徒労でしょうか…。
「すみません!お湯を出来るだけ沢山貰えますか?」
「えっ??」
「あ、いや…。そ、それに入れて下さい!!」
驚きました!レナルド様はわたくしに気付いていないようで、釜を指差しお湯を入れてと仰っている…。何に使われるのでしょう?然し、主人のご命令とあらば!
ブノワは釜へ湯を淹れ蓋をしレナルドへ手渡す。
「ありがとうございます!!これ、後で返します!」
走り去るレナルドをブノワはキッチンの中から見送った。
「レナルド様⋯わたくしはお役に立てたのでしょうか⋯?」
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数日経ち、食堂でのアネット嬢のいじめを目にしたレナルドが手を差し出したその時、ブノワは清掃担当の使用人に扮していた。
直ぐ様駆け寄ったブノワは涙ぐみながら掃除をした。
「ありがとうございます。」と声を掛けて下さるなんてッッ!お優しく育たれてッッ!!
割れた皿に涙が溜まる。
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レナルドとアルフレッドが深夜食堂へと忍び込んでいたその頃、ブノワは夜の学園で警備員をしていた。
「今日の見回り、わたくしが代わりますよ!」
「いいのか?悪いなぁ!」
コツンコツンと静まり返った校内に響く革靴の音。食堂へと続く廊下に差し掛かるとなんだかいい香りがして、ブノワはそっと扉を開けた。
「なんの匂いだ?⋯誰か居るのかー⋯?いないな。食堂は良い匂いだなぁ!」
揚げ油と芳醇な赤ワインの香りに、思わず声が出てしまった。誰も居ない事を確認して、再び警備へと戻ったのだった。
―――――
ダンスパーティー会場は令息令嬢達で、まるで綺羅びやかな花畑の様だ。
挨拶も一通り終えましたし、レナルド様はご友人との会話にも花が咲いているようで、笑顔が咲き誇っている姿が見れてわたくしはもう…満足ですぅぅ。。。レナルド様の順番もまだのご様子。踊っている姿を見たらわたくし⋯泣いてしまうかもしれません〜!!
レナルドは少し慌てた様子でブノワに近付いてきた。
「ちょっと出てくる。ブノワ、札を持っていてくれ。呼ばれたら⋯なんとかしておいて!!」
「レナルド様!そんな事言われましても⋯!何方に行かれるのですか!?」
レナルド様〜!会場を出ていってしまわれました。札の番号は9番。今呼ばれた中にこの番号は無かった⋯という事は、次の抽選までにレナルド様がお戻りになら無くてはいけないのですよ!!わたくしにどうしろと言うのですかぁああ!?!?
と、取り敢えず、待ちましょう…。
⋯⋯⋯お戻りになりません!!!
どうしましょう。もう少しで次の抽選が始まってしまいます…。こうなったら、レナルド様がお戻りになるまで番号を呼ばれないよう、手を打つしか⋯悩んでいる場合ではありません!!!このブノワ・バトン!レナルド様の為とあらば!
司会者へとそっと近付くブノワ。
「すみません。内密にお願いがございます。」
「な、なんですか?」
「男性9番を最後にして頂けますか?」
「それは、、不正になります。出来ません。」
「そこを何とか!!」
「いや~そう言われても⋯ねぇ。何もなしじゃ…」
ゴニョモニョ言葉を濁しつつ、それはブノワに伝わった。
「分かりました。コチラでお願いします。」
ブノワが手渡したのは小さな巾着。隠れて司会者が中身を見ると、コインが!!日当の倍はある!!
「コホンッッ。良いでしょう。」
「では、交渉成立ですね。」
ブノワはほっと胸を撫で下ろした。あとはレナルド様がお戻りになるのを待つだけです。レナルド様〜!早く戻って下さいませ!!!
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チャリッチャリッと音を立てる巾着を、不敵な笑みを浮かべながら覗き込む男。
「ふぁあああ!やっっっっったぁあああ!こんな所まで小遣い稼ぎに来た甲斐があったぜ!!」
俺は貴族ではない。仕えている男爵家に来た仕事を押し付けられただけの召使いだ。ホントは騎士見習いなんだが…。だから、何があっても俺には関係ない。今日はただ言われた司会者という仕事を遂行するのみ。それ以外の報酬は俺の金だ~!
⋯然しこの9番の男、モテモテだな。抽選を終えて直ぐだったか?
凛とした声がして振り向くとそこにはクロエの姿。
「突然失礼しますわ。私のお願い⋯聞いて頂けるかしら?」
王太子殿下の婚約者クロエ様/////!
あんな美人にペアにしてほしいなんて言わせる男は、何処のどいつなんだ!?クロエ様には順番は「お任せいたしますわ。ふふっ。あっ、これくらいしか無いのだけれど、いいかしら?」って小さな指輪をそっと外して⋯/////手なんか添えられちまってよぉ〜/////聞くっきゃ無いぜ!!!
―――――
その頃、身ぐるみ剥がされたアネットは応急処置としてメイド服を着ていた。
「俺様にメイド服を着せるとは良い度胸だな!」
「眼鏡にメイド服⋯尊い/////」
「何言ってるんだ?」
「取り敢えず、服が出来上がるまでそのままでいて下さい。」
「少し出てくる。」
「その格好で!?」
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アネットは優雅なバイオリンの音が響くパーティー会場で、アルフレッドを探していた。
「何処にいる?⋯あ゙ぁ〜身長が低くて見つけられん!」
人だかりをすり抜けた先に、アルフレッドがいた。
「少し…宜しいでしょうか?」
「!?⋯アネット嬢⋯?」
「こんな格好で失礼します。場所を変えても?」
「ああ。」
テラスへと出た2人。風が吹くと会場内の音は聞こえない。
「何かあったのか?」
「これは、、何でもありません。お気になさらず。それよりも、お願いがありまして。」
「お願い⋯?」
「はい。こちらを交換して頂けませんか?」
「木札を、か?」
「はい。クロエ様と踊りたいのでしょう?クロエ様は7番です。」
「?クロエが7番だとして、何故俺とアネット嬢が木札を交換することになるんだ?」
「誰かが女性7番と男性9番をペアにするよう頼んでいたのです。」
「誰がそんな不正を!?」
「今、そこは重要ではありません。アルフレッド様、番号札お見せ頂けますか?」
「俺は7番だ。」
内ポケットから木札を取り出すアルフレッドの顔は、不安と疑問で一杯だった。
「私の番号札9番と交換すると、これで、7番と9番がペアになっても、クロエ様と踊れます。」
「然し木札は男女色分けされているし、もしバレなかったとしても、もう一人の9番がいるんじゃないのか?」
「大丈夫です。誰もアルフレッド様が不正したなんて思いません。因果応報。公明正大な今までのアルフレッド様の行いがご自身の身を助けるのです。それに、木札は確かめられることは無いと思います。何せ不正がバレれば司会の方が疑われますし。」
「⋯思っていたよりもアネット嬢は大胆だな。まるでレナルドみたいだ。」
「!?!?」
「失礼!レディに“あの”レナルドに似ているなど。⋯⋯昔は、仲が良かったんだ。アイツの行動力とか突拍子もない提案とか、羨ましかった。」
「そう⋯ですか。」
「ああ。“あの一件”で距離を置いたが、未だに信じたい気持ちが無いわけじゃないんだ。」
「では、クロエ様の気持ちを取り戻してくださいませ。手段は選んでる場合ではありませんわ。」
「分かっている。協力感謝する。」
決意を固めたアルフレッドは赤い文字の9番木札を内ポケットへと仕舞った。
こうして社交パーティーはそれぞれの決戦場へと姿を変えたのだった――。




