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友情と恋愛

 会場は令嬢令息でいっぱい。最後のペア発表を前に浮き足立つ生徒たちは、司会者の言葉に耳を傾ける。


「では4回目、最後となりますペアの皆様を発表します。」

「ちょっと待った!!」


 会場内に太い声が響き渡り、螺旋階段に視線が集まる。そこにはレナルドと、いつもの三つ編みを解いたフワフワな髪に、スカーフのリボンを付けたアネットが並んで立っていた。


「どうして…!!」「確かにアネット嬢のドレスを⋯。」

「あなた達にお話しがありますの。後で少しいいかしら?」

「「ロザリー様⋯!」」


(流石ですわレナルド様。惚れ直しました。)ロザリーは遠くから2人を羨望の眼差しで見ていた。


 レナルドのエスコートで降りてくるアネットのドレスに会場はどよめく。スカートは短く足を大胆に出しつつ、横から後ろまでを覆うように靡く布が付いている。刺繍があしらわれた何処か見覚えのある生地は淡いブルーで、アネットの動きに合わせてひらりと揺れる姿が軽やかで美しい。



「まだ、間に合いますか?」

 司会者に問いかけると、アネットに見惚れているようで少しぼーっとしている。


「⋯は、、はい!!コホンッ!!では発表します!続いて女性7番の方と男性9番の方!」


 男性9番!私だ!手を挙げると、アルフレッドも手を挙げる。どういう事!?


「「はい。」」

 アネットとクロエが同時に返事をした。7番⋯が二人!?


「えっとこれは⋯何か手違いがあったようですね。すみません。」

「「いえ、大丈夫です。」」

 アネットとアルフレッドの声が揃う。この二人何か企んでる!?何したの!?!?


 クロエの前に立ったアルフレッドは両足を揃え、手を差し出す。

「踊って頂けますか?クロエ嬢。」

「⋯ええ。勿論。」


 驚いた表情を見せたクロエはダンスに応じた。


 これは⋯私もするべきか?皆の前で緊張するけど、やらなきゃだよね。ヨシッ!一つ息を吐き、落ち着いて手を差し出す。


「⋯アネット嬢、一曲お願いできますか?」

「!! はい。」


「ペアが決まったようなので、暫し準備致します。」

 ざわざわと会場内は談笑に包まれる。


「この格好、恥ずかしいな///スースーする…。」

「スカートは我慢して下さい。まぁ、時代が違えば短くて可愛いって言われます。これが普通で、中高校生ともなれば膝丈スカートをより短くしますから。」

「何だそれ!?はしたないだろ。」

「オジサンですね〜。嫌われますよ?女の子のファッションですから。」

「オジサンだと!?はぁ。分からない…。」


 会場の隅で話していると、アネットに食堂で足を引っ掛け意地悪をしていた令嬢達が近づいてきた。


「アネット嬢、ドレスどうなさったのですか?その…はしたないのでは?」

「そうか?俺は可愛いと思うけどな。それに、足を引っ掛けることもない。だろ?」

「!!///い、行きましょう。ごきげんよう。」


 そそくさと帰って行った。言ってやったわ!!

「意外と根に持つんだな。お前。」

「女々しいですかね?」

「いや、よくやった。」

「/////(褒められた)⋯アッ、そうだ!」

 フレームだけになった眼鏡を掛けた。



 これは以前レオナールに貰った物。

 >>>>>

「こんなのどうするんだ?レナルド。」

「俺がかけるんだ。」

「?視力は良いんじゃなかったか?しかも、それ⋯レンズ無いぞ?」

「伊達メガネだ。似合うか?」

 >>>>>



 曲が流れダンスホールは綺羅びやかに動き始める。

 練習通りに踊るが、不思議な程美しく見えるアネットに目を奪われる。この感情は男の感情なのか、それとも私が女の子を好きになっているのか。はたまた、レナルドの中身に惚れているのか⋯?


「あんな令嬢見た事あるか?可愛いよな♡」

「レナルド様、アネット嬢に合わせて眼鏡を掛けてらっしゃるのね!お心遣いが素敵だわ~!」

「見たこと無いドレスだが、足元が綺麗に見える。色合いも示し合わせたかのようにピッタリだ。」

「まるで人魚のようだ…。」



 同時に踊ることとなったアルフレッドとクロエペアも、皆の視線を釘付けにする。


「流石王子と婚約者の優雅なダンスは目を引くわねぇ。」

「王都一番の美女は美しいなぁ!」

「エスコートも完璧ですわ。」

「ダンスのレベルが桁違いだ。」

「やっぱりお似合いの二人だわ!!」


 >>>>>>>


「では、結果発表と参ります!!今回の学園主催社交ダンス優勝ペアは⋯」


 司会者の言葉で会場に緊張が走る。

 私達が勝てなきゃ幻の酒が手に入らない!!ということは、元に戻ることが出来ない!それだけはあってはならない!


「優勝ペアは、アルフレッド様、クロエ様のペアです!」


 終わった⋯⋯。会場が沸く中、肩を落としているのは私とアネット。幻の酒がぁぁ〜!!


「それでは、優勝ペアで此方を酌み交わして頂きましょう!ル・ベゼ・ド・ランジュの贈呈です。」


 ん?酌み交わす⋯?あの酒を!?アルフレッドは酒だって事知ってるよね?呑んだらどうなるか自覚あるし大丈夫だよね⋯?


 壇上に上がっているアルフレッドの顔は、クロエと酒を呑めることが相当嬉しいのか、ニヤけていてすっかり忘れている様子。

 アルフレッドが持つグラスにクロエがそっと酒を注ぎ、今度はアルフレッドがクロエのグラスに注ぐ。


「では、皆様もご一緒に!カンパーイ!!!」


 どうする!どうする!どうする!?口を付ける寸前!!!

 私は人を掻き分け壇上へと走った。壇上のアルフレッドが持つグラスを奪い、一気に飲み干す!


「なッ何してる!?」

「ッッぷはぁ〜!⋯ヒクッ!」

 コレ、度数高すぎる〜!吃逆が!あ~目がチカチカする…。


「ちょっ、お前、酔ったのか?っておい!しっかりしろ!」

 アルフレッドの肩に腕を回し絡んでいるように見せる。


「(コレ酒だぞ。呑んだら駄目だろ。)」

 他に聞こえないようにアルフレッドの耳元で話す。


「!!!⋯飲み過ぎだ!!すみません皆様。ル・ベゼ・ド・ランジュは友人に飲まれてしまいましたが、引き続きパーティーをお楽しみください。」


 アルフレッドの機転によりその場は収まった。アルフレッドの計らいで、ブノワに連れられ私は別室で休むことになった。


 ソファに寝転び傍でブノワが慌てふためいている。

「レナルド様!しっかりなさってください!あゝ私めがお側に居ながらこんな事に⋯」


 喉の奥が焼けるみたいに熱い。なんちゅーもん賞品にしてんだ!クロエ様はあんな強い酒、平気だったんだろうか。


「大丈夫ですか!?今、医者を手配していますので!もう少しの辛抱です、レナルド様!」

「俺は⋯大丈夫。ヒクッ!医者も、必要無い。ヒクッ!」

「えーーっと、では何か飲み物をっ!お、お水をお持ちしますぅ!!」

 ブノワは部屋を出ていった。


 ヒクッ⋯でもこれで幻の酒を飲んだことになる。元に戻る兆候⋯は無いか。ってクロエ様もル・ベゼ・ド・ランジュ飲んでたって事は、入れ替わるならクロエ様!?それはマズイ!吐かなきゃ!


 私は口に指突っ込んで吐こうとしたが、出ない!屈んでゲホゲホやってる所に、声がした。


「ご機嫌いかが?」

 部屋へ水を持って現れたのはクロエだった。そのままソファに座る。


「何故ここに?アルフレッドと一緒だったのでは?ヒクッ」

「ふふふっ!何だか可愛らしいですね。レナルドに私の計画を台無しにされて、さぞ、北叟笑んでいるだろうと見に来たのです。」

「計画⋯?ヒクッ」

「あら?分かっていてしたのでは?」

「何のことでしょう?」

「そう。レナルドは優しいからアルフレッドの味方よね。でも私は自由を諦めないから。その為なら、何度だって利用させてもらうわ。」


 すると急に近づいて来たクロエにソファへ押し倒された。


「ヒクッ!何をするんですか!」

「ふふふっ!」


 これは!?/////クロエはレナルドが好きって事?でも、利用するって⋯。取り敢えず今、この体制は/////!!


「クロエ、落ち着いて⋯。と、とにかく、そこを退いてくれないか?」

「嫌よ!あの時みたいに、ごまかせないようにしなきゃ!まさかレナルドが、手当たり次第女の子に声を掛けるなんて…してやられたわ。それまでのレナルドは色んな子に言い寄られても無視していたのに。まるで私が初めてじゃなかったと言いたげに、次から次へと!!」


 チャラ男はクロエがきっかけだったの!?

 クロエが言う[あの時]は多分クロエと一夜の過ちをしたと噂の時だろう。以前聞いた時、レナルドは強く否定してはいなかった。何処か悲しそうな顔はクロエを庇っていたからだったのか。

 アルフレッドもクロエも傷つけたくないレナルドらしい答えだ。それなら納得がいく。なら、今私がする事もそれに倣うしかない。


「退いてくれ。クロエが自由になりたいなら手伝ってやる。だけど、こんなやり方では傷つくのはクロエじゃないか!」


 ムッとした顔で睨見つけるクロエは、アルフレッドといる時とは違いとても子供っぽい。

 当たり前か。21世紀なら高校生だし、この歳で政略結婚なんて、やりたい事も出来ないだろう。“王族に嫁ぐ”まして“王子に嫁ぐ”なんて、自由どころの騒ぎではない。聞くところによると、クロエ・シャルロワの実家は有名商家の一人娘。実家としてはクロエが王子に嫁ぐのは、願ってもない幸運だろう。

 だがそれがクロエの本心とは、かけ離れている事が問題なのだ。


「私が傷ついたとしても、構いはしないわ。前にも言ったでしょう?手段は選ばないわ!!」


 ドアをノックされ、アルフレッドが入って来た。


「ちょっ!!お前!何してる!!」

「アルフレッド!!これは⋯。」

 流石にアルフレッドの登場は計算外だったらしい。

 たじろぐクロエを背後に隠し、私の胸ぐらを掴んだ。アルフレッドの目は怒りに満ちている。


「俺は何もしていない。離せ!!」

 腕を振り解き、アルフレッドに説明をしようとした次の瞬間、クロエの驚きの台詞が聞こえた。


「私、レナルドが好きなの。」


 !?!?!?!?!?


「「何言ってるんだ!?」」


 アルフレッドと声が被る。


「以前よりお慕いしていたわ。でも、言い出せなくて…。レナルドにその気が無いのは分かっていたから。だからこそ言葉にしてしまったら、友人でも居られなくなってしまうのではないかって。そんな時にアルフレッドとの縁談が進んでしまった。ごめんなさい!!もう、私、どうしたら良いのか分からなくなってしまったわ⋯!」


 女って恐ろしい!!鳥肌立つし、酔いなんか覚めちゃったよ…。


「ク、クロエ?聞き間違いか?」

 アルフレッドは驚き、ぎこちなく質問する。まぁそうなるよね。私だって聞き間違いであってほしい。だけど、


「いいえ、ごめんなさい。アルフレッド…。ごめんなさいっ!…っ…ヒック…ッうっ…」

 聞き間違いじゃないようだ。


 啜り泣くクロエにどうしたら良いか分からない…。この際、クロエの気持ちを受け止める?いやいや、さっきまでと態度が違いすぎる!!

 これは⋯⋯芝居だな。女の勘がそう言っている。チラリと手の隙間から見えた瞳が鋭く光ってる!!!!ということは、クロエはレナルドが断らないと思って、アルフレッドとの縁談を破談にしようとしているんだ!


 そんな事したら、アルフレッドとレナルドの“友情復活プラン”が水の泡に!!折角夜食でアルフレッドの胃袋を掴みかけたのに、ゼロよりマイナスになっちゃう!!!


 断るのは当然だけど、正当な理由が必要だ。クロエにこれ以上押されない為に、決定的な何かが⋯


「お~い大丈夫か⋯⋯?!」

 ノックも無しで入って来たのは、アネットだった。レナルド感丸出し!?今はタイミングが⋯⋯いや、丁度いい!!


「俺は、クロエの想いには応えられない。分かってくれ。俺はアネットが好きなんだ!!」

「「何!?」」

 アルフレッドとアネットの声が揃う。


(予想はしていたわ。ことごとく邪魔が入るわね…。)

(簡単に丸め込まれるもんか!!いずれ元に戻るんだから、優先するのは恋愛より友情!!)


「アネット、俺は本気だ。返事を聞かせてほしい。」

 頼む!!気付け気付け気付け!!アネット、いや、レナルドーーーーー!!


「あ、え、えっとぉ~?⋯そうですね。突然で驚いてしまって…。レナルド様のお気持ちは分かりましたわ。」


 よし!伝わったか!!


「ですが、申し訳ございません。私の身に余るお言葉ですわ。レナルド様にはもっとふさわしいご令嬢がいらっしゃると思います。申し訳ございません。」



 フラれた⋯⋯。

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