つ、ついてる…!!
私の名前は、奥野咲良。実家暮らしの25歳 女性、ひとりっ子、彼氏なし(年齢同)。
高校卒業後すぐに働き、転職1回。今は社会人7年目の会社員。
仕事は、所謂お局様からの小言を右から左へ聞き流し、波風立てず出来るだけ静かに日々頑張っている。
モットーは“心の平和”。
夕日が眩しく社会人の行軍を包む。
駅のホームにアナウンスが聞こえる。
―――<まもなく3番線を電車が通過いたします。
白線の内側までお下がりください>―――
もう1本後だな…。
はぁ今日も疲れた。
帰ったら洗濯して…ご飯…昨日の残りあったよね…温めてちゃちゃっと食べて寝よう。
あ!ダメだ!!今日は“スローライフ”最終回!!あと、“悪役令嬢2”と“闇執事”それまでに準備して、リアタイするぞ!!
今期アニメは良かった!来期は何が始まるのかな〜♪事前に調べとかなきゃ!!
リュックからスマホを取り出した瞬間…
【ドンッ】
えっ!?
フワッと浮いた体、手から離れるスマホ、迫る電車……
ガタンッガタンガタンガタンッ――ガタンッガタンッ―――
○*・°○*・°○*・°○*・°○*・°○*・°○*・°
「痛っった…」
ん?ここ何処?
私はベッドに寝てるようだ。
ベッドには天蓋がついてる。頭をもたげ、周りを見渡すと、白を基調としたヨーロピアンな家具。濃いブルーの扉は大きく、部屋の反対側は大きな窓。カーテンもブルーで統一されている。豪華な部屋……。
私、さっきまで駅のホームに居たのに。
そう言えば、あの時ホームでぶつかった拍子に線路に落ちた…よね…?絶対病院じゃないし…あーあ、死んじゃったのか。
じゃあ、此処は天国?良かった……。良かった!?いや!違う!
ちらりと右側を見ると、
「誰……!?」
「ん~~?おはようございますっレナルド様!」
(!?)
何で女の子が、そんな薄着で寝てるの!?
ガバッと体を起こした。
「どうされたのですか?」
彼女はシーツを手繰り寄せ、恥じらいの表情を見せているが、何が何だかわからない!!
「レナルド様、お体まだ治っていらっしゃらないのでは?わたくし、まだお手伝いいいたしますわ。」
彼女は手を伸ばし、体に触れる。触れられた胸は、彫刻の様な男の半裸だけど、触られた感覚がある…
「!?」
思わず仰け反り、その拍子に布団を巻き込みベッドから転げ落ちた。
「大丈夫ですか?!レナルド様っ!!」
頭の中ぐちゃぐちゃだよ〜!い、一旦、状況整理してみよう。
1.死んだ…ハズ。
2.この部屋は病院じゃない。
3.体が触られた=生きている…!?
4.彼女は誰?
そ〜〜〜〜〜っと、被っていた布団を脱ぎ、床に座ったままベッドを見上げる。
ベッドにぺたんと座っている彼女は、キョトンとした表情だ。
「えっと、ここは何処ですか?」
恐る恐る聞いてみる。
「レナルド様、まだお体治っていないのですね!?思い出せないのですか?此処はレナルド様のお部屋ですよ///わたくし武術練習で落馬したと聞き、心配で駆けつけましたの。」
だとしても、そんな姿で一緒に眠るか?普通。。。
ん!?もしかして、まさかコレが転生…!?
力を入れて立ち上がると、壁に立てかけられた姿見が目に入った。
転生したなら、どんな人になったのだろう…と近づき姿を映した。
「男ーーーーーーー!?!?!?!?」
思わず叫んでしまった。
その姿は、超絶美形、ダビデ像みたいな半裸の オ・ト・コ!?
いや、いやいやいやいや、ん!?
よくあるのは、女性は女性に転生して[悪役令嬢でやり直す]とか[聖女になって国を救う]とかじゃないの〜〜!?
“男”ということは!?ま、まさか、私があの……ヤった後の状況だっていうの!?
生まれて此の方経験と言うか、男の人と触れ合う事なんて無かったのに、、、!!
自分が男で女の子を襲ったと……!?チラリとベッドに座る女の子に目線を向ける…
「レナルド様/////」
恥ずかしそうにしないでー!!
バタバタバタッと何人かが走ってくる音がする。
ドンドンッと強めのノックが聞こえ、ドアの向こうから声。
「いかがなさいましたか!?」
「レナルド様!大丈夫ですか!?入りますよ!!」
ヤバい!!こんな状況見られたら、社会的に終わる!誤解される!そんな気がする!!
「取り敢えず、隠れていただけますか?」
女の子を立たせ、散らばった女の子の服を持たせる。キョロキョロ見渡すと、ウォークインクローゼットが目に入った。
「ここに入っててください。声かけるまで、で出来ちゃダメですよ!」
クローゼットの扉を閉めると同時に、大きなブルーのドアから使用人と見られる人達が入って来る。
「レナルド様!目が覚めたのですね…良かった、良かった!!」
執事みたいなおじいさんがホロロっと涙を流す。
「良かったです!旦那様にお知らせしてきます!」
従者らしき2人がパタパタと部屋を出て行き、部屋には執事のおじいさんだけが残った。
「ところで、何故上半身裸なのですか?」
「あ、暑かったので、脱ぎました。」
「?そんなことは無いはずですが。部屋の温度は23度、まして昨日は記録的な寒さだったはずですが…?」
確かに今、めっちゃ寒い!
「い、今から着替えるので、1人にしてもらって良いですか?」
お願い!!今は出てってー!!
「では、お手伝いいたします!先日、新しく奥様がレナルド様の為にお仕立てした服を、こちらに仕舞ったのです!!早く着て、奥様にお披露目しなくては!」
そう言うと、女の子が居るクローゼットに手をかける!
バンッとクローゼットを手で押さえ、
「大丈夫です!1人で出来ます!!」
お願い帰って〜!!
想いのこもった一言だった。
「いえ!レナルド様、奥様がお作りになった服分からないでしょう?わたくしが、お手伝いいたします故、ご安心を!!」
グググッとクローゼットを開けようとする!!
伝わらない〜〜!!マズイよ〜!!
私もクローゼットの前に立ちはだかり、抵抗する。
「いいえ、本当に大丈夫です!!」
何とかして、部屋を出ていってもらわないと!!
…そうだ!!
「お、お腹が空いたので、朝ごはんを頂きたいのですが!?」
「そうだと思いまして、朝食のご用意は出来ております!!」
ん〜!もうっ!!
「えーっと、朝風呂からにしようかな?」
「お風呂でしたら、バスローブを一緒にもっていきませんと!後、着替えも!」
しまった〜!間違えた!
「あ〜っと、い、イタタタたた…お腹が痛い〜!?あの、く、薬を持ってきて頂けませんか?」
「急にどうなさったのです!?わ、分かりました!直ぐにお持ちしますから、安静にしてお待ち下さい!!少しの間、お待ち下さいね!直ぐ、直ぐですから〜!!!」
物凄く慌てた様子で、部屋を出ていった。
ちょっと申し訳ないな……そんな事より!!
ガチャッと急いでクローゼットを開ける。
「ごめんなさい!!もう大丈夫!」
目に飛び込んできた姿は、服を着ようと、背中のリボンを結ぶ姿だった。
「手伝うよ!!」
思わず差し出した自分の手を見て、行動を間違ったことに気付いたが、しょうがない!今はここから女の子を誰にも見られず、出すことが最優先!!
クローゼットから女の子を出し、シュルシュルと結び終えた。
「出来ました…。何があったかはちょっと思い出せないのですが、、、
とにかく謝ります!申し訳ありません!!」
私は全力で土下座した。この状況下で何も無かったとは言えないだろう。
「エッ!おやめ下さいレナルド様!!わ、わたくしは唯、お体が心配で一晩ご一緒させて頂いただけですわ!!顔を上げてくださいませ!!」
それが問題なんだって〜!!
「いえ、何かあったのでしょう?上半身裸だし…」
「熱に浮かされていらっしゃったので、そっと…服を緩めさせて頂きました/////」
「…?では、貴方の服は…」
「私も、火照ってしまって…///。」
脱がしたからって、脱ぐなよぉ〜!!
「では、何も無かったと…?」
「はい。一晩ご一緒出来るだけで、わたくしは、もう満足でございます/////。」
紛らわしい!!
「そうだったんですね。でもこれからは、(他の人に襲われたり)何があるか分からないので、簡単に男性の部屋に行ったりするのは、やめたほうが良いですよ!もっと、ご自分を大事になさって下さいね!!」
修羅場ってこうやって生まれることもあるのか?誤解を増やさないで欲しいよ。でも本当…何もなくて良かった…。
「はいぃ///!!レナルド様にそんな事言って頂けるなんて///。わたくしは大丈夫ですわ!こ、こちらで失礼しますわ!ではまた、学園で///」
そそくさと彼女は帰って行った。
あっ!名前聞くの忘れた〜!!
「レナルド様!!お体大丈夫ですか?!お薬を!」
バタバタッとまた執事が戻って来た。今度は医者っぽい別のおじさんも一緒だ。
「あ~、もう平気です!!治りました!!」
「本当ですか!?レナルド様無理をなさっているのでは?!」
「そんな急に腹痛が治るなんて別の原因があるかもしれません!」
話を大きくしないで〜!!
「大丈夫です!ほら!めちゃくちゃ元気です!!」
一生懸命、屈伸やら腕を大きく回してアピールした。
「なら良いのですが…」
「本当に無理をなさってないのですね!?」
「はい!!もう、元気いっぱいです!!」
こんなに元気があるとアピールしたの初めて…。上半身裸のまま、なんと滑稽な…。
「着替えますので、少し1人にしていただけますか?」
「分かりました。では、ご用意できましたらお声がけ下さいませ。」
「はい!!」
執事さん達はご丁寧にお辞儀をして部屋を出て行った。
ガチャリ。とドアが閉まり、やっと部屋に一人になった。
「つかれた〜。」
あの女の子は、無事に帰れたんだろうか。
しかし、この顔…イケメンだ…。鏡に映る自分の顔をまじまじと見て、『ナルシストとはこうして生まれるんだろうか』等と、考えてしまう。
「そうだ、着替えなきゃ。」
ウォークインクローゼットを開けると、両サイドにズラリと掛かった豪華な服…と言うより、アイドルのステージ衣装みたい。
「この中から着ろって言われても、、」
この人(自分)、何着ても似合うタイプではあるが、私の感情が追いつかない!
「地味そうなのが良いな…」
服をずらしながら、紺色のセットアップスーツみたいなのを見つけた。
「コレでいっか。」
今着ていたズボンを脱いだ時、、、
!!!つ、ついてる………!!!!
下半身の部分が…もっこり…
そりゃあ、そーなんだけども!
もう前世と言うべきか?
私の両親は、私の小学校入学と同時に離婚した。その為、母一人子一人で生きて来た。
小さい頃の面倒は祖母が見てくれていた。
祖父は生まれた時から居らず、祖母も私が19歳の時他界。母は昨年、突然の事故で亡くなった。
なので、男性が居なさ過ぎた上に、アニオタで育った私は、2次元でしか【男性】に触れ合った試しがない。
なんてこった、、、。
そっとズボンを履き、シャツとジャケットを着る。
仕方ない。転生した以上、この体で生きていくしかないっ!!
「いざ!第2の人生!」