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 ひと悶着あったものの、それ以降も順調にコロッケは売れた。


 わたしが憶えている限り、お客の大半は昨日試食した人だったが、そうでない人も結構な数いた。きっと昨日試食した人が口コミで広めてくれたのだろう。ありがたいことだ。


 しかしながら、わたしはこれで満足していなかった。


 確かにコロッケは初日にしては好調過ぎる売れ行きだが、我がエミー商店が売っているのはコロッケだけではない。


 そう、石鹸だ。


 しかし石鹸はまだ一つも売れていない。


 何とかしたいが、石鹸はコロッケのように試食はできないし、事前に宣伝したわけでもない。ただ屋台の上に並べてあるだけだ。コロッケ目当ての客には、屋台のオブジェと思われているかもしれない。


 これはイカン。


 このままだとマジで石鹸が風景と化してしまう。


 まあ石鹸はコロッケを作る際に出る廃油やゴミでできる副産物なので、手間しかかかっておらず実質費用ゼロだから売れなくても別にこっちの懐が痛むわけではない。


 でも本来というか、わたしの予定では石鹸がメインの商品で、コロッケは石鹸の材料を効率よく供給するための手段でしかなかったはずだ。


 石鹸の凄い点は、タダで作れるものだから売れればボロ儲けというところだ。しかも一個銅貨五十枚と、なにげにコロッケよりも強気な値段設定にしてある。


 売りたい。


 下着販売の時のような、濡れ手で粟リターンズしたい。


 ぶっちゃけコロッケだけの売り上げだと、儲けがあまり無いんだよなあ……。なので利ざやの高い石鹸が売れないと、いずれエッダの用心棒代が払えなくなってくる。


 そんなわたしの負の感情をよそに、客たちはコロッケに群がり続ける。うぬぅ……、何か手を打たねば。





「いや~、値段つけたら売れるか心配やったけど、無事コロッケ完売やったな。おまけにエミーが言ったとおりチンピラが因縁つけに来たけど、まさか初日から来るとはなあ。エッダに居てもらってほんま良かったわ」


「ウンソウダネ……」


 屋台を引くわたしは、フィオが楽しそうに話しかけてきても気もそぞろであった。


 だって石鹸が売れなかったから。


 でもコロッケが完売してくれたおかげで、明日もコロッケが作れる。


 説明しよう。エミー商店は、今日の売り上げがそのまま明日の仕入れに繋がる自転車操業なのだ。この世界に自転車は無いけれど。


 だが今はコロッケが好評でも、いつまでも続くとは限らない。柱が一本だけだと不安だ。やはり二本、三本とあってこそ安心できるのだ。


 ということで何とかしよう。


 わたしとフィオは倉庫までやって来た。盗難やいたずらされないように、屋台を倉庫に格納するためと、明日売る石鹸の仕込みのためである。


 とはいうものの、今日は一つも売れていないので、強いて補充する必要は無い。このままだと、きっと明日も売れないだろう。


 だから今手を打たなければ。


 具体的に何をするかというと、試供品を作ろうと思う。


 コロッケが試食で上手くいったように、石鹸も実際に使ってもらうのが一番手っ取り早いだろう。


 なので倉庫で石鹸を小さく切って試供品サイズにしようと思ったのだが――


「か、硬い……」


 ゾーイに石鹸を切るための裁断機を作ってもらったのだが、それでも子どものわたしには力が足りなかったようだ。一応てこの原理で少ない力で切れるようにはなっているのだが。


「なんやエミー、石鹸なんか切ろうとして。これ以上小さくしてどないするんや?」


 裁断機と格闘しているわたしにフィオが気づいてやって来た。


「コロッケを買ってくれた人に配る試供品を作ろうとしたのですが、わたしの力では切れないんですよ」


「試供品ってなんや?」


「お試しで使ってもらうために商品を小さくしたり量を減らしたやつですよ」


「なるほど。コロッケの試食みたいなのを石鹸でもやろうってことか」


「相変わらず理解が早くて助かりますよ」


「石鹸ぜんぜん売れんかったもんなあ」


 フィオが頭の後ろで両手を組んで楽しそうに笑うが、笑いごとではない。


「はい。エミー商店の本命は石鹸なので、このまま売れなかったらせっかく出したお店を畳むことになります」


「それは困るな。ほなうちも手伝うわ」


 そう言ってフィオが裁断機に近づく。


「あ、刃が鋭いので注意してくださいね。ゾーイが言うには『指ぐらいは簡単に切り落とせる』らしいので」


「なにそれめっちゃ怖いやん。やっぱり一緒にやろ」


 急に臆病風に吹かれたフィオは、わたしの手の上から裁断機の取っ手を握る。


「それで、どのくらいの大きさに切ったらええんや?」


「1センチぐらいの厚さに切ってください」


「なんや1センチて」


 おっと、思わず現代の単位が出てしまった。


「小指の爪ぐらいの厚さでお願いします」


「わかった、1エミーやな」


「勝手に単位を作ってわたしの名前を使わないでください」


 冗談を言い合いながらも、作業は続く。さすがに子どもでも二人がかりでやれば、裁断機はサクサクと石鹸を切ってくれた。


 こうして十個の石鹸が試供品へと姿を変えた。最初からこうしていれば、一日無駄にしなかったのかもしれない。いや、済んだことを悔やむのはやめよう。


 わたしは自分の計画性の無さに目を背けつつ、明日の分の石鹸の仕込みを始めた。


次回更新は活動報告にて告知します。

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