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改めて石鹸制作の工程を詰める。
まずは原材料の調達。
必要なものは廃油と灰なので、比較的簡単に集められそうだ。
「それだけの材料で作れるのですか?」
「せやったら廃油は飲食店、灰は工房からタダで仕入れられそうやな」
フィオはそう言うと「よし!」と自分の胸を叩く。
「廃油の調達はうちに任せて。商人の娘の名にかけて、激安で調達してみせるで」
交渉能力の高いフィオがやってくれるなら、わたしとしても心強い。安心して任せられる。
「うん、頼りにしてるよ」
「任せとき!」
「やったら灰はオラに心当たりがあるけん任せてもらおうかいの」
「ゾーイさん、当てがあるの?」
「ああ。以前に見習いばしとった工房がいくつかあるけん、そこば頼ってみようかと思う」
「なるほど。ではお任せしていいですか?」
「任せんしゃい」
「エミーさん、わたくしは何をいたしましょうか?」
「え? シャーロットさんもやるんですか?」
「皆さんが作業をするのに、わたくし一人だけお屋敷でお留守番というわけにもいきませんわ。しばらくパーティーもレッスンもありませんし、どうぞご遠慮なく何でも申しつけてください」
「そう言われましても……」
困ったな。貴族のお嬢様に廃油を使った石鹸作りをさせるのは、さすがに気が引ける。だってあれ臭いって噂だし、量にもよるが廃油と灰を混ぜるのは結構な力仕事だ。
だが唯一の男手だった会長はもういない。近接パワー系のゾーイは工房から灰を入手する仕事があるので、作業の頭数に入れられない。
エッダとリリアーネに任せたいところだが、彼女たちの本業は冒険者なので、わたしたちの商売とは本来関係がない。今までは成り行きで協力してくれていただけだ。
まあエッダはわたしと友達なので、頼めばきっとやってくれると思うが、そこに甘えるのはよくないのでやめる。親しき中にも礼儀あり、だ。
そして残るは幼女のわたし。力仕事は絶望的である。早く大きくなりたい。
「……わかりました。何かありましたら、その時はお手伝いをお願いします」
「はい、喜んで」
う~む、貴族のお嬢様を油まみれにするのは良心が痛むのだが、本人がやりたがっているのなら止めるのはお門違いだろう。
さて、材料と人の手配が済んだら残るは場所だ。もし石鹸制作が成功して本格稼働する時は、下着製作で使っていた倉庫が現在宙ぶらりんになっているのでそこを使うつもりだ。
だが今はまだ実験段階。倉庫は無駄に広いし設備も無い。それよりはティターニア家の厨房を借りた方がいいだろう。
というわけでシャーロットの案内で厨房にやって来た。結構長い間このお屋敷に厄介になっているが、厨房に来たのは初めてだ。だって用が無いし、他人様の家の台所に勝手に入るのはさすがに礼儀知らずでしょ。
「これはこれはお嬢様。こんな所に何の御用ですか?」
「ドゥーイ、今ちょっとよろしいかしら?」
「はい、大丈夫ですよ」
「ちょっと試したいことがあるので、厨房を貸してもらえないかしら?」
「試したいこと、ですか……?」
シャーロットの申し出に、コックのドゥーイは太い眉をぴくりと動かす。年齢は四十代の半ばといったところで、豊かな口ひげをたくわえている。執事のセバスチャン(わたし命名)とはまた違うタイプのナイスミドルだ。
「石鹸を作りたいのですが、余ったお鍋はありませんか?」
「石鹸とはなんでしょうか?」
わたしが説明すると、ドゥーイは興味を持ったようだ。
「汚れが落ちるのですか。それは興味深い。竈の灰を使って洗い物をしているのですが、頑固な油汚れにはいつも苦労させられております」
やはり灰だけではしつこい油汚れには勝てないようだ。とはいえ、庶民の食事では凝った調理をしないので、灰でも十分何とかなる。食器の油汚れに悩むのは、肉や油を多く使う王侯貴族ならではのようだ。
「もし石鹸が完成したら、一つで良いのでいただけないでしょうか」
「もちろん大丈夫ですよ。ドゥーイさんにはいつも美味しいご飯を作っていただいているので、一つと言わず三つでも四つでも」
まあ完成したらの話ですけど、と注釈をつけるが、ドゥーイさんは「いえいえ、楽しみにさせていただきますね」とにこにこ笑顔だ。守りたい、この笑顔。これはちょっと頑張らないと。
「それではこの鍋をお使いください」
ドゥーイが厨房の奥から年季の入った寸胴を二つ持ってくる。大きさは洗面器ぐらいで、高さが30センチくらいある立派なものだ。これなら石鹸を作るのに使えそうだ。
これで後は材料の廃油と灰が手に入れば、すぐにでも石鹸の製作が開始できる。
「ありがとうございます。しばらく石鹸の製作で厨房をお借りしますが、その時はよろしくお願いします」
「はい、ご遠慮なくお声がけください」
丁寧に対応してくれたドゥーイに礼をすると、わたしたちは厨房を後にした。
後はフィオとゾーイが材料を調達して帰ってくるのを待つばかりだ。
それから夕方になって、ゾーイとフィオが帰って来た。
「あちこち工房ば回って灰ば集めてきた。
とりあえずこれぐらいあれば大丈夫とね?」
ゾーイは肩に担いだ麻袋を降ろす。大きさはホームセンターで売っている園芸用の土ぐらいの大きさで、石鹸制作のお試し用としては充分すぎるぐらいの量だ。
「はい、充分です。お疲れさまでした」
「それで、フィオさんの方はどうでしたか?」
「それが……」
シャーロットが問うと、フィオは申し訳なさそうに牛乳瓶ぐらいの大きさの小瓶を取り出す。中にはすっかり酸化した茶色い油が半分ほど入っていた。
「食堂をあちこち回ってみたけど、廃油これだけしか集められへんかった……」
次回更新は活動報告にて告知します。




