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「ただのオーガじゃない……?」


 エッダが言った意味がわからず、あーしはぽかんとする。


 だがよく見ると彼女の肩は上下し、手にした剣には血が滴っている。


 遊んでなんかいなかった。


 あーしがゴブリンを二匹斃してる間、彼女もまたオーガと激しい戦いを繰り広げていたのだ。


 だが、だとしたらどうしてオーガは無傷なのだろう。


 その答えは、すぐにわかった。


「見てろよ」


 そう短く呟くと、エッダはオーガへと駆け出す。


 己に向かって駆けて来る敵を、オーガは両手を広げて迎え撃とうとする。その姿は熊が立ち上がって威嚇するのに似て、常人なら見ただけで震え上がるだろう。


 だがエッダは僅かも速度を緩めず、まるで考えなしにぶつかりに行くかのように走り続けた。


「ガァッ!」


 恐ろしい咆哮とともに、オーガが両腕を振るう。鋭い爪も脅威だが、何より脅威なのはその膂力だ。熊さえも吹き飛ばす剛腕が当たれば、獣人など簡単に四散する。


 しかしエッダは口元に薄ら笑いを浮かべたまま、オーガの一撃を紙一重で躱す。


 そしてすれ違うと、いつの間に斬ったのかエッダを襲ったはずの腕が手首からなくなっていた。


 速い。


 オーガの攻撃を見切った眼も驚異的だが、何より驚くのは彼女の太刀筋だ。自分の背丈ほどもある長剣でありながら、斬撃がまったく見えなかった。


 これが彼女の本気か。


 あーしでもあれを避けられるかどうか自信ないわね。


 これなら例えオーガでも、なます切りにされるのは時間の問題だと思えた。


 だが、エッダの表情はそうは言っていない。オーガへと正対し、油断なく剣を構えている。


 その理由と、さっき彼女が言った言葉の意味がようやくわかった。


 今斬り落としたはずのオーガの腕が、ぬるりとまた生えてきたのだ。オーガが無傷に見えたのは、エッダの攻撃はすべて回復していたからだ。


「嘘でしょ……」


 オーガは他の魔物と違い、再生力が高い。だが傷の治りが早い程度で、切断した腕が一瞬で再生するほどではなかったはずだ。


 ということは――


「こいつ、オーガの上位種だ」


 エッダの言葉で、ようやく答えがわかる。


「オーガキング……」


 ヒドラに並ぶ驚異的な再生力と、一撃で岩をも砕く破壊力を持つ厄介な魔物。討伐には上位の冒険者が何人も必要で、しかも無傷で帰れないことを覚悟しなければならないと言われている。


 そんなものがどうしてここに……。


 いや、そんなこと考えるのは後だ。


 今はとにかく、このバケモノをどうやって斃すか。それだけを考えるのよ。


 ゴブリンを全部斃したので、もう子どもたちの心配をする必要はない。心置きなくオーガキングとの戦闘に集中できる。


 あーしがエッダの背後に駆け寄ると、彼女は振り向きもせず言う。


「とにかく再生する前に斃すしかねえ。手数で攻めるぞ」


「了解」


 あーしの返事を合図に、二人同時に動く。


 速度で勝るあーしが先にオーガキングに肉薄すると、思うがままに打撃を打ち込む。そうして敵の意識をこちらに向けている間に、エッダの剣が体を斬り刻む。


 あーしの打撃もエッダの斬撃も、どれ一つとっても致命傷になるものだった。


 しかしそれは、相手が普通の魔物だったらの話だ。


 オーガキングはどれだけ打たれ斬られようと、あーしらが三回呼吸するまでに綺麗に傷が癒えてなくなってしまう。


 対してあーしとエッダは必殺の一撃を何度も繰り出したせいで肩で息をしている。


 このままだと、先にあーしらの体力が尽きてしまう。


 こうなったら一か八か、大技を使うしかない。


 だがそれで仕留めきれるのか。


 この技を使えば、残った体力を全部使い果たしてしまう。それでも斃せなければ残るは確実な死だ。


 技の威力には自信があるが、底の見えないオーガキングの再生力にいまいち確信が持てなかった。


 他の手段にするべきか……。


 あーしが消極的になりかけたその時、エッダが呟く。


「リリアーネ、頼みがある」


「なによ?」


「一か八か、大技を仕掛けてみる。だがそれにはちょっと気合を溜めなきゃならねえ。そのための時間稼ぎを頼めるか?」


 彼女も同じことを考えていたことに、あーしは思わず吹き出す。


「ぷっ」


「なに笑ってんだよ、こんな時に……」


「ごめんなさい。で、どれだけ稼げばいいの?」


「三十秒だ」


「無茶言うわね……」


 普段ならどうということはない三十秒だが、戦闘中、しかも相手がバケモノとなれば無限にも等しい時間だ。


 だがエッダはそれを、簡単に言う。思わず文句を言ってやろうと思うが、


「お前ならできるだろ」


 彼女の表情は、あーしができると完全に信じていた。そんな顔されたら、やらないわけにはいかないじゃない。


「フン、しょうがないわね。三十秒だけよ」


「ああ、それで充分だ」


 エッダはにやりと笑うと、手にした鞘に剣を納める。どうやらもう準備に入ったようだ。


「それじゃあやりますか」


「よろしく」


 その言葉を聞き終わる前に、あーしは動いた。


次回更新は活動報告にて告知します。

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