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「とにかく、あーしの仕事はあんたたちの引率。それ以上でも以下でもないわ」


「引率って、俺たちゃ子どもじゃねえぞ」


「そうやってすぐ突っかかって来るのが子どもなのよ」


 あーしにしてみたら、あんたたちだけじゃなくこのギルド内にいる全員子どもみたいなものよ。


「わかったよ。じゃあとっとと出発しようぜ」


 舌打ちを残しギルドから出ようとするトムに、あーしは待ったをかける。


「待ちなさい。あんたたち、装備の点検はしたの?」


「あ、はい。朝ちゃんとしてから来ましたけど」


「朝一回だけ?」


「一回やれば充分だろ」とザック。


「ダメよ。点検と確認は大事。覚えておきなさい」


 これはエミーが口癖のように言っていたことだ。あの子、あの歳で冒険者だったのかしら。


「自分の荷物だけ点検してちゃ駄目。三人がそれぞれの荷物を点検し合いなさい」


「なんでだよ」


「自分の荷物だと、あると思い込んでたり見落としがあっても気づかないからよ。だからザックの荷物はトムとルククが点検するの。トムのはザックとクルル。クルルのはザックとトムが。三人いるんだから、それぞれ補い合いなさい。わかった?」


 これはエミーから教わったトリプルチェックというやり方だ。こうすれば、手間は増えるが自分の荷物だけを点検するよりも漏れがなくなるという。


 冒険中は何が起こるかわからない。ほんの小さなミス、例えば忘れ物一つがとんでもない結果に繋がることだってあるのだ。だがこうすれば、それもなくなる。もっと早く知りたかった知恵ね。それをこの子たちは今知れた。この子たちは気づいていないが、これってとんでもなく幸運なことなのよ。


 三人は荷物を互いに点検し合い、忘れ物がなかったので出発。「結局忘れ物がなかったんだから時間の無駄だったじゃん」とトムが文句を垂れるが、こいつはいつか忘れ物で酷い目に遭うわね。


 王都を出て農業地帯を歩くことしばし。畑がなくなり、あちこちに切り株が出てきた。これから畑を作るために森を伐採しているのだ。つまりここは森の端っこである。


 無残に切り倒された木を見ると、エルフの性か悲しくなってくる。だが人間を長いこと見てきたので、これが彼らにとって生きるために必要な行為であるということは理解している。


 理解はしても納得はできないが。


 切り株だらけの閑散とした空間をさらに進むと、伐採の手が届いていない森に入った。それまで陽の光がよく通り風通しも良かったのが一転し、木が作る陰が増え草の臭いが強くなり森独特の空気になる。


 木が遮蔽物となって視界が悪くなると、それまで気楽に歩いていた三人の足が急に鈍くなる。


 警戒していると言えば聞こえは良いが、要はビビっているのだ。鳥の鳴き声や羽ばたく音、小動物が茂みを揺らすたびに体を震わせて立ち止まる。


 初心者丸出しの三人を見て、今さらながら後悔する。


 頼み事なんて引き受けるんじゃなかった。ホント、子どもと関わるとロクなことにならないわね……。


 その時あーしの頭にとある少女の顔が思い浮かぶが、すぐに思い直す。いや、あれは子どもなんて生易しいモンじゃない気がする。何と言うか、人生二周目? してるんじゃないかしら。下手したらあーしより人生経験豊富なんじゃないかって思うわ。ホント、なんなのあの子。


 まあいいわ。今日のあーしの仕事はあくまで引率。危なくなったら援護する、ぐらいの気持ちでいいでしょう。多少のケガは覚悟してもらうけど。


 おっかなびっくり進む子どもたちを後ろから眺めつつ歩いていると、少し離れたところを獣じゃないものが通る音がした。


「止まって」


 あーしの警告に、三人はびくりと体を震わせる。


「な、なんだよ……」


「しっ、静かに」


 一言でトムを黙らせると、あーしは耳を澄ます。獣人ほどではないが、エルフの耳も人間よりは遥かに性能が良い。


 その間に身振りで頭を下げるように指示すると、三人は黙ってその場にしゃがみ込んだ。


 耳に神経を集中すると、さらに音が鮮明に聞こえてくる。足音は二つ。裸足で、身長は子どもくらい。


 ゴブリンだ。


「ゴブリンよ。数は二」


「マジかよ……」


「ど、どうする?」


「どうするって、急に訊かれてもわからないよ……」


 突然の敵の出現に、自分たちの目的を忘れる三人。ホント、初心者ね……。


「どうするもナニも、やることなんて一つでしょ」


 あーしが腰に差した剣をつついてやると、ザックはようやく自分が剣士であることを思い出したかのようにはっとする。


「そ、そうだ。ゴブリンは斃さなくちゃ」


「や、やるしかねえ……」


 ザックの決意に、トムは青い顔をしつつも応える。がんばれ、男の子。


 ルククの方を見ると、トムよりも血の気の引いた顔をして震えている。こちらはさすがにこのままだと戦力どころか足手まといになりかねないわね。


「ほら、しっかりなさい。あんたがしゃんとしないと、他の子らが戦いに集中できないでしょ」


 そう言ってお尻を軽く叩いてやると、ルククは「きゃんっ」と可愛い悲鳴を上げて背筋をピンと伸ばした。


 真っ赤な顔であーしを睨むルククは、もう震えが止まっていた。これなら大丈夫ね。


 さあ、戦闘開始よ。


次回更新は活動報告にて告知します。

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