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 確かにリリアーネは許された。


 しかし現実は厳しかった。


 いくら王族や有力貴族がゴリ押ししたって、人の心はそう単純ではない。


 あの時はその場の空気や同調圧力で賛成していたとしても、帰宅して冷静になるとやっぱり許せないとなった者も多いだろう。


 その結果が、売り上げや受講者という数字になって如実に現れた。下着の売り上げは三分の一になり、レッスンの受講者もめっきり減った。


 相変わらず五人娘が鬼リピートしていたが、それでも全盛期に比べたら半分以下だ。


「そろそろ潮時かもしれんな」


 すっかり薄くなった帳簿を見ながら会長が言う。


 場所はティターニア家の居間。時間は昼食後である。


「……もしかして、下着販売は撤退ですか?」


 恐る恐るわたしが問うと、会長は開いていた帳簿を閉じて言う。


「いや、そこまでやないが、縮小はせなあかんな」


 まあこれだけ売り上げが落ちたら事業縮小も已む無しだ。ただでさえピーク時に人員補充と工房の拡充をしまくったせいで、人件費や設備維持費だけでも大変な額になっている。注文が多ければそれでも良かったが、今の状況だと赤字になるだけだ。経営者として適格な判断である。


「そう言えば、もうずいぶんと長いこと王都におるな。そろそろオブリートスに帰ろうか」


「え、帰るんですか!?」


「思えばずいぶん長いこと王都におるからな。留守にしてる間に商会の仕事も溜まっとるやろうし、ええ頃合いや」


「でも、縮小するとはいえ会長がオブリートスに帰ったら、誰が仕入れや職人さんたちと打ち合わせするんですか」


「そんなもん、とっくの昔に支店長に任せとるわ。王都での下着販売事業はそいつに一任しとるから、ワイがおらんでも安心せえ」


 いたんだ、支店長……。というか、いつの間に人材育成してたんだろう。商売に関しては本当に有能な人だ。


「けどわたしたちが帰ったら、シャーロットさんはどうなるんですか?」


 下着販売事業は今やインフルエンサーであるシャーロットさん、つまりティターニア家の大きな収入源になっている。それが縮小され、その上わたしたちがオブリートスに帰ったらいったいどうなってしまうのか。


 だが会長は呆れ顔でわたしに言う。


「は? なに言うてんねん。お前は残るんや」


「え……?」


「え? やあるかい。お前のアイデアでお前が立ち上げた事業やないか。それがお前の判断でこうなったんやから、責任取って最後までケツ拭いていけ。これは会長命令や」


「ええ……」


 たしかにわたしはリリアーネが謝罪したいと言ったのを擁護した。その結果収益減となったので、責任が誰にあるかと言われたらそれはわたしだ。間違ってもリリアーネに責任は無い。


 けど、わたしは異議を申し立てる。


「会長はわたしに商売を叩き込むんじゃなかったんですか?」


 そもそも、会長が王都に来たのは商談をするためだ。そのおまけというか、傍で商売を勉強させるためにわたしとフィオを同行させたのではなかったのか。


 わたしがそう言うと会長は一瞬真顔になる。あ、これ絶対忘れてた顔だ。


「ま、まあ人生寄り道も経験や。これも勉強やと思って、しっかり気張り」


「いやそれ寄り道じゃなく置き去りじゃないですか!」


「人聞きの悪いことを言うな。他人に聞かれたらまるでワイが悪人みたいやないか」


「みたいじゃなくてまんま悪人ですよ。どこの世界に八歳の少女一人に残務処理を任せて帰る責任者がいるんですか」


 わたしと会長が口論をくり広げていると、中央のテーブルでトランプをしていたフィオが割って入って来る。


「もー、お父ちゃんあんまりエミーに意地悪したらあかんで」


「ちゃうねん。これは意地悪やのうて、可愛い茶目っ気や」


「おっさんの茶目っ気のどこが可愛いねん。気持ち悪いわ」


「素で気持ち悪い言うな。傷つくやんけ……」


「そんなことより、エミー一人で王都に置いてかれるって思ってるやんか。可哀想やで」


 娘に気持ち悪いと言われてショックを受けている父親は放っておいて、フィオはわたしに安心させるような笑顔を向ける。


「心配せんでええでエミー。王都にはうちらも残るから」


「え……?」


 わたしがぽかんとしていると、居間でくつろいでいたみんなが次々と言う。


「オラも残るばい」


「あーしも残るわよ。だって放っておけないじゃない」


「エミーが残るならあたしも残るぜ」


 って、結局みんな残るんじゃない。わたしはみんなと離れなくて済んだ嬉しさをごまかすように、会長に向かって叫ぶ。


「じゃあオブリートスに帰るのは会長だけじゃないですか!」


 すると会長は悪びれるどころか、薄ら笑いを浮かべて言う。


「ワイはお前だけ残れなんて言うてへんで。そもそも下着販売事業を残すんやから、ブロマイド班も王都に残すってちょっと考えたらわかるやろ」


「う……」


 言われてみればその通りだが、このオッサン、わたしが一人残されると思って焦るのを面白がってやがったな……。


「っていうか、みんなも会長とグルでしょ!」


 このタイミングでみんなが揃って残ると断言するのは、前もって打ち合わせをしていたに違いない。


 わたしに指摘され、フィオたちは一斉にそっぽを向いてわざとらしく口笛を吹き出す。けどフィオとゾーイは口笛が下手なのか、まったく音が出ていなくてフーフー言ってる。


 その姿がおかしくて思わず笑ってしまったけど、実際は花形だった事業が低迷して縮小されたので笑ってる場合なんかじゃなかった。


 本当ならすぐにでも新しいビジネスを考えて立ち上げなくちゃならないんだけど、わたしたちは今までずっと全速力で駆け抜けてきたので、今この時ぐらいはちょっとだけのんびりしてもいいよね、なんて思うのであった。


次回更新は活動報告にて告知します。

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