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 さて、これでブロマイドの原画は確保できた。


 次はどうやって量産するか、だ。


 この世界に印刷技術は無く、本は手で書き写した写本しか無い。量産できないせいでやたら値段が高く、王族や貴族しか手に入れられない。


 本が高いせいで庶民が文字に触れる機会が無いのが、識字率が低い要因のひとつだろう。


 ともあれ、コンスタンチン商会の商品を購入した人にリリアーネのブロマイドを配るのためには、どうしても印刷して量産することが必要だ。


 そうなると次に必要なのは、原画を基に原板を作ってくれる職人――版画職人の確保だ。


 だが原画の時にわかったように、この手の職人はコンスタンチン商会もティターニア家も管轄外だ。確保するなら、会長とシャーロットの支援なしで何とかするしかない。


 絵師に続いて当てにしていた職人だったが、まさかこれも確保できないとは。


 どうすれば……。


「ぬおおおおお~……」


 頭と体を捻って考えてみるが、さすがにこればかりは現代知識を用いてもそう簡単に解決できるものではなかった。


「なにをけったいなことしとるねん」


 廊下でブリッジしながら悶えているわたしに、会長が少し引きながら声をかけてきた。


「会長……」


「考えてることはだいたいわかる。ブロマイドの量産やろ? けど、残念やけどワイもこればかりは力になれんしなあ……」


「商会は芸術関係にはノータッチですからねえ」


「まあ、考えがないことはない。確率はかなり低いけど」


「あるんですか!?」


 ブリッジの態勢からそのまま起き上がるわたし。


「あるって言えるほど確実な方法やない。やらんよりはマシって程度やな」


「それでもいいです! 教えてください!」


「なら教えたる。職人街に行くんや」


「まさか、職人街で職人をスカウトしてこいって話ですか?」


「そのまさかや」


「いや、それはちょっと不可能じゃないかと……」


 会長やわたしたち商人が商業ギルドに加入しているように、職人もまた職人ギルドに加入している。


 職人ギルドとは、職人の互助会のようなものである。職人はギルドに加入することによって、仕事や賃金を保障される。その保障の中には、外部からの職人の引き抜き防止することも含まれている。


 つまり、職人をスカウトするには、職人ギルドを通さないといけないのだ。もし商人が勝手に職人をスカウトしたりなんかしたら、職人ギルドの怖い人たちがカチコミに来て、下手をするとケガだけじゃなく店を解体されかねない。


 では職人ギルドを通せば職人がスカウトできるのかと思いきや、そうはいかない。


 基本的に、職人ギルドは地元の工房にしか職人を斡旋しない。だからオブリートスのコンスタンチン商会が、王都オリエルバスの職人ギルドから職人を斡旋されることはまずありえないのだ。


「アホ。なにも真正面から職人をスカウトして来いって言うてるわけやない。裏技を使うんや」


「裏技?」


「職人ギルドに加入している職人はスカウトできへん。だったら、職人ギルドに加入してない職人をスカウトしたらええねん」


「つまり、見習いや野良職人を見つけて来い、と」


「そういうことや」


「そう都合よく居ますかねえ……」


「けど他に方法は無いんや。僅かでも可能性がある限り、それに賭けるしかないんとちゃうか?」


「う~ん、確かに……」


「商売ってのは、時には運が左右することもある。持ってる商人っていうのは、こういう時に運があるもんや」


「わかりました。とにかくやってみます」


 他に方法が無い以上、わたしに残された手段はこれしかない。明日さっそく職人街に行ってみよう。




 夕食の時間となり、わたしは食堂へと向かった。


 食堂にはすでにリリアーネやエッダ、会長たちがすでに席についていた。


 だが会長の隣に、ぽつんと一つ空いた席があった。


 そこはいつもフィオが座っている所だった。


「会長、フィオはまだ来てないんですか?」


「あいつはなんか、腹の調子が悪い言うて部屋に篭もっとるわ」


「そうなんですか? では、後でお薬を届けさせましょう」


 わたしたちの会話を聞いていたシャーロットが申し出る。だが会長は、


「ご心配ありがとうございます。けど、寝てたら治るって本人が言うてたから、そっとしといたってください」


 と言って丁重に断った。


「わかりました。何か必要なものがあったら、いつでもご遠慮なく言ってくださいね」


「おおきに」


 シャーロットに会長が軽く会釈すると、食事が再開された。わたしもフィオの体調が心配ではありながら、親である会長がそう言うならと深く考えずに食事に戻った。




 翌朝の朝食にも、フィオの姿はなかった。


 お見舞いに行った方がいいのではと思ったが、会長の「気にせんと、お前はお前のやるべきことをやり」という言葉に、わたしは職人街に行くことにした。


 職人街には、エッダがついて来てくれた。本人は「ヒマだったから」と言ってるが、もし工房の人たちに絡まれた時、子ども一人では危ないと会長が陰で手を回してくれたのだろう。


 何にせよ、エッダがいてくれるなら心強い。わたしは意気揚々と職人街にやって来た。


次回更新は活動報告にて告知します。

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