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 貴族の五人娘が帰ると、ティターニア家は一気に戦場と化した。


 五人娘から採寸した寸法をもとに、商品の製作が始まったからだ。


 シャーロットの場合は彼女のコルセットや下着をベースに改造したのでそれほど手間暇はかからなかったが、今回は型紙作りから始めなければならない。


 だがわたしたちとて、ここまで何も準備をしていなかったわけではない。


 会長に頼んで、オブリートスのコンスタンチン商会で材料と職人を調達してもらっていたのだ。


 とはいえ、五人娘がティターニア家に来る前に動いていたのだが、往復に馬車で最低八日かかるためそれらの到着は彼女たちが帰った数日後になってしまった。


 いきなり数日の遅れから始まった計画プロジェクトであったが、そこは何といってもプロの職人。素人の侍女とは比べ物にならないくらい仕事が速かった。最初は見たことも聞いたこともないものを作らされることに困惑していた彼らだったが、いざ仕事にかかるとあっという間にこしらえてしまった。


「さすがプロ。違うなあ……」


「せやろ」


 自分の商会の職人を褒めるエッダの言葉に、思わず会長もニッコリ。


 こうして出来上がったものから順次発送すると、数日後に再び手紙が届いた。


 早すぎる反応に、すわクレームか! と驚いたわたしたちであったが、シャーロットが手紙を読むと安堵の溜息をついた。


「ご心配いりません。これはお礼のお手紙ですわ」


 手紙はアリシアからのもので、内容は主に送った商品への感謝の言葉と賛辞であった。


 どうやら自宅に戻っても筋トレは続けているようで、いつかはシャーロットのようにコルセットを外してパーティーに出てみたいというようなことが綴られていた。


「アリシア様も頑張っているようですわね」


「嬉しい話ですね」


「それに、あれから色々なお友達にご紹介していらっしゃるようですわ」


 思わぬ同士の誕生に、シャーロットが手紙を読みながら笑顔になる。


「あら?」


 だが手紙はそこで終わらなかった。


「どうかしましたか?」


「えっと、あの……」


 珍しく口ごもるシャーロットであったが、やがて手紙をそっくりわたしに渡すと「どうしたらよろしいのでしょうか?」と訊いてきた。


 その言葉の意味がよくわからないまま、わたしは渡された手紙に目を通す。


「ふむふむ……げっ!」


 内容は、リリアーネについての質問のオンパレードであった。


 出身や出自に始まり、好きな食べ物やら普段は何をして過ごしているのかなど、仕事やプライベートを問わず彼女に関するありとあらゆる質問が几帳面な文字でびっしりと書き連ねられていた。


「こわっ……!」


 思わず悲鳴が出る。アイドルへのファンレターだって、もう少し遠慮して書かれているだろう。何と言うか、知りたい欲望が丸出しで、よほどリリアーネのことが知りたいご様子だ。


「どうお返事したらよろしいでしょうか?」


「これはさすがに……困りましたね」


 リリアーネはエルフである。彼女が亜人であるということが知られたら、いくら好意を寄せているアリシア嬢と言えど、百年の恋が冷めるかもしれない。


 いや、下手をするともっと過激な反応をされる可能性がある。ここは慎重に対応しなくては。


「返事の内容はわたしが考えます。少しの間保留にしていただけますか?」


「わかりました。よろしくお願いいたします」


 女性受けするだろうと思ってトレーナー役にリリアーネを起用したが、まさかこんなに深く刺さる人が現れてしまうとは。エルフの容姿、恐るべし……。


 しかし、これはもしかするとチャンスかもしれない。


 リリアーネのキャラクターは、商売になる。そう確信したわたしは、次なるビジネスを計画した。


 翌朝。


 食堂には、朝食をとるためにみんなが集まっていた。その中には、リリアーネの姿もあった。


 彼女はエルフとは思えない健啖家で、朝からパンをいくつも食べている。これだけ食べてよく太らないなと感心するが、アスリートはその運動量から常人の倍くらい食べないとどんどん痩せていくと聞くから彼女もそうなのだろう。


 ともあれ、いつふらっと遊びに出てしまうかわからないリリアーネを掴まえるなら、食事の席しかない。わたしは自分の食事を手早く終えると、侍女にスープのおかわりをもらっている彼女へと近づいた。


「あの、リリアーネさん」


「なによ、チビッ子? ってあれ? 前にもこんなやり取りがあったような……」


「そんなことはどうでもいいじゃないですか。それよりも、お願いがあるんですけど」


「あんたのお願いって、いい記憶がないのよね」


 以前のやり取りからろくなお願いじゃないと勘付いたのか、リリアーネは露骨に厭そうな顔をする。


「いやいや、そんなことはありませんよ。なんてったって今回はちゃんとギャランティが発生します」


「ギャランティ?」


「つまり報酬です」


「詳しく聞かせなさい」


 かかった。


 報酬という言葉に目が眩んだリリアーネに、わたしは昨夜寝ながら考えた計画を話す。


「アイドルになりませんか?」


「わたしがアイドルに?」


次回更新は明日0800時です。

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