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「ビスチェ?」


「こういった背中の開いたドレスを着る時に着ける下着インナーでございます」


 アリシアの問いに、シャーロットが答える。


 このビスチェは、当然この世界にはなかったものなので、シャーロットのコルセットを侍女が改造したものだ。改造とはいっても、腰の部分を大幅にカットしただけなので大したことはしていない。嘘です。裁縫してくれた侍女さんには頭が上がりません。


 しかしながら、世界初のものを見る五人にとっては大したことではあるのだろう。自分でも気づかないうちにシャーロットに近づき、食い入るようにビスチェを見ている。


「シャーロット様、お腹は苦しくないのですか?」とブリジット。


「はい。体にフィットさせるために腰紐を締めますが、ベルト程度の幅なのでコルセットほど圧迫感は感じませんよ」


「ビスチェの他には、こういったものもございますよ」


 そう言ってリリアーネが取り出したのは、またもや侍女が夜なべして作ってくれた下着の数々であった。


「これは肩紐をドレスの中に隠せるタイプの乳バンドです」


 一見ただのブラジャーだが、肩紐の位置がドレスに隠れるように巧妙に計算されている。わたしの世界で言うところの、クロスストラップブラというやつだ。


「こちらは、どうせ見えてしまうのなら、いっそのこと派手にしてしまえという思い切った品です」


 シャーロットが持っているのは、肩紐が真珠のネックレスになっているブラジャーだ。彼女の言う通り、思い切って派手にすることによって真珠のネックレスをつけているように見えることを狙ったものである。


「そして極めつけはこれでございます」


 次にシャーロットが取り出したのは、ブラジャーのカップの部分だけだった。


 今で言うヌーブラなのだが、これも既存のコルセットからカップの部分だけを切り取っただけのものだ。


 さすがにこれだけ見せられても意味がわからなかったのか、五人は言葉を失っていた。


「あの……それはどうやって使うものなのでしょうか?」


 キャロラインがそう疑問を抱くのも無理はない。何しろシャーロットも初めてこれを見た時に、同じことをわたしに訊いたのだから。


「これはですね、糊を塗って直接胸に貼って使うのです」


 肩紐も何もないただのカップだけなので、固定しようと思えば糊で貼りつけるしかない。ただし、使用するには注意が必要だ。


「あ、糊で貼る前に肌に石鹸水を塗るのを忘れないでくださいね。忘れると後で剥がす時にとても痛いそうですから」


 豆知識を披露するシャーロットであったが、次から次へと登場する新たな下着に茫然とする五人には聞こえていないようであった。


「どうですか、皆様。これで満足していただけたでしょうか?」


 五人は返事に困るように黙っている。

 確かに、〝如何にしてシャーロットがコルセットなしでパーティーに出席したか〟という疑問は解消した。


 答えは〝筋トレで筋肉を鍛え体型と姿勢を維持し、特殊な下着で背中の広く開いたドレスを着ていた〟だ。


 だが新たな疑問が生じた。


「あの……」


 おずおずと手を挙げるアリシアに向けて、シャーロットはにっこり笑う。


「如何なされました、アリシア様?」


「これらの品々は、どうやって手に入れられたのですか?」


 かかった。


 ようやく。ようやくこの言葉を引き出すことに成功した。


 待ちに待った言葉だが、シャーロットは焦らず穏やかに答える。


「これらはすべて、我がティターニア家が懇意にしているコンスタンチン商会の品でございます」


「コンスタンチン商会?」


「初耳ですわ」


「聞いたことがありませんわね」


 ブリジット、キャロライン、ダイアナが口々に感想を漏らす。


「王都ではお耳にしたことがないのは仕方ありませんわ。コンスタンチン商会はオブリートスの大店でございますから」


「オブリートスの……。それがまた、どうしてティターニア家に?」


「合縁奇縁と申しましょうか。ご縁があったから、とだけ言っておきましょうか」


 うふふ、と上品に笑ってごまかすシャーロット。本当のことを知ってるわたしは複雑な気分になる。


「それで、もしよろしければ……」


 ずい、とアリシアが身を乗り出す。


「それらの品々、わたくしたちにもお譲りいただけないでしょうか?」


「もちろん、喜んでお譲りさせていただきますわ」


 シャーロットに快諾され、五人の表情がぱっと明るくなる。


「けれど、これらの品々はオーダーメイド……つまり、一人一人に合わせて作りますので、今すぐお買い求めというわけには参りません。制作には費用とお時間がかかりますし、完成してもお届けに数日から数週間かかる場合があります」


「そ、それぐらいなら問題ありませんわ」


「ええ、そうですわ。ねえ?」


「わ、わたくしも依存ありませんわ」


「待ちます。いくらでも待ちます」


「ですから、是非お譲りください」


 こくこくと首を激しく上下する五人に、シャーロットは「まあ、良かった」とにっこり微笑む。


「あ、そうですわ」


 何かを思い出したように、ぽん、と両手を叩くシャーロット。


「お譲りする代わりに、というわけではございませんが、皆様に一つだけお願いがございますの」


「な、何でしょう?」


 ごくり、と喉を鳴らす五人。


「もしお譲りした品がお気に召したのなら、皆様のお友達にもご紹介していただけないでしょうか?」


「紹介、ですか?」


「ええ、皆様は他の方にお教えしたくないかもしれませんが、わたくしとしては、良いものはたくさんの人にお教えしたいのです。ですから、皆様にはそのお手伝いをしていただければと思って……」


「そんなことでしたら、何も問題ありませんわ」


「ええ。お友達みんなにお教えしますとも」


 アリシアが承諾すると、他の四人も次々に賛成する。


「良かったですわ」


 シャーロットは満足そうに微笑むと、両手をパンパンと二回叩く。


 それを合図に、池の鯉よろしくわたしと侍女が広間に入室する。


 わたしは両手で巻き尺を伸ばしながら、五人に向かって言う。


「それでは皆様、ご寸法を頂戴します」


次回更新は明日0800時です。

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