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シャーロットが手紙の返事を出してから十日後。ティターニア家に五人の貴族令嬢が集結した。
屋敷の玄関前には、ご立派な家紋入りの馬車が乗り付けられていた。みな名のある名家のご息女たちであったが、馬車から降りて勢ぞろいしてみれば、揃いも揃って同じ鋳型から打ち出したような量産型お嬢様だった。こち亀の中川が見たら「どれも同じじゃないですか」とか言いそうだ。
髪型は盛りに盛った盆栽ヘア。ドレスは流行を追ったのか、どれも同じ形で違うのは色だけ。まるで色を変えるだけで別キャラに仕立て上げていた昔の容量の少ないゲームみたいだ。
「本日はお招きいただき、ありがとうございます」
五人を代表し、一人の女性が挨拶をする。年齢はシャーロットと同じくらいだろうか。ただいかにも貴族という感じの出で立ちや、自分は高貴な血筋の家柄だという鼻持ちならないオーラのようなものが滲み出ているところは似ても似つかない。
その後ろに他の四人が並んで立っている。色違いの似たようなキャラが並ぶ姿は戦隊ヒーローを思い出させた。
代表で挨拶をしたのがアリシア。他がブリジット、キャロライン、ダイアナ、エレオノーラという。覚えるのが面倒臭いので名前の頭文字を取ってABCDEと呼びたくなるが、もしかしたら顧客になってくれるかもしれないのでやめておこう。
「皆様、ようこそいらっしゃいました」
五人を出迎えるシャーロットは、自宅ということもあって細身のワンピースという極めてラフな格好であった。本来なら、客人を迎えるのであればそれなりの恰好をしなければ失礼に当たるのであろうが、今回は招いた趣旨が〝脱コルセット〟なので、インパクト重視にしたのだ。
予想通り、五人は体の線が浮き出るほどタイトなシャーロットの服装に度肝を抜かれている。
「あの、シャーロット様。お手紙に書かれていたことは本当でしょうか?」
おずおずと問うアリシアに向けて、シャーロットはにっこりと笑う。
「ええ。本日はわたくしが如何にしてコルセットを外すに至ったか、その全てを皆様にお見せいたしますわ」
それまで半信半疑だった五人の表情がぱっと明るくなる。この一言で、旅の疲れも吹っ飛んだようだ。
「それで、皆様どうしますか? お疲れのようでしたら、お披露目は明日にいたしますが」
「いいえ、それには及びませんわ。すぐにでも始めてくださって結構ですわよ」
拳を握ってアリシアが言うと、他の四人もうんうんと同意する。
「わかりました。それでは皆様こちらにどうぞ」
シャーロットが皆を先導すると、五人は彼女の後に続いて屋敷へと入って行った。
玄関を通り過ぎて廊下へと進む。がらんとした空き部屋たちは、目につかないように扉を閉めてある。
そうして廊下をぞろぞろと歩いていると、シャーロットはある部屋の前で立ち止まった。
「皆様、こちらのお部屋でお召し変えをどうぞ」
扉を開けると、そこは化粧台がいくつも並んだ化粧室だった。室内には侍女が待機していて、深々と頭を下げる。
「僭越ながら、わたしが皆様のお召し変えをお手伝いさせていただきます」
「服を着替えるのですか?」とアリシア。
「ええ。皆様にはわたくしと同じことを体験していただきますので、その恰好では何かとよろしくないかと」
お召し物はこちらで用意してますからと告げると、シャーロットは自分も着替えるために自室へと移動した。
部屋の前に取り残された五人は、しばらく困惑して互いに顔を見合わせていたが、やがてここまで来たら毒を食らわば皿までと覚悟を決めたようで、アリシアを先頭にして室内へと入っていった。
「それでは皆様、これにお召し変えを」
そう言って侍女が差し出したのは、シャーロットが筋トレをしている時に着ているのと同じ半袖のシャツと短パンであった。
「これを……着るのですか?」
「はい」
「……………………」
先ほど決めた覚悟が揺るぎかけるが、五人はどうにかそれを抑えるともそもそと着替え始めた。
三十分後。
「それでは皆様、こちらにどうぞ」
着替えを終えた五人が侍女に案内されてやって来たのは、最近シャーロットが日課の筋トレをしている広間だった。
「ようこそ。お待ちしておりました」
そこに居たのはタンクトップにスパッツという、まるでヨガインストラクターみたいな恰好をしたリリアーネだった。
長い金髪はシニヨンにして後ろにまとめると同時に、エルフ特有の耳を中に織り込んで隠している。おまけに少々激しい動きをしても耳がこぼれて正体がバレないように、幅の広いヘアバンドをしている。
アリシアたちの視線は、最初は彼女の整った顔に向けられていたが、すぐに均整の取れた体、とくに惜しげもなく曝け出されたお腹に目が釘付けになった。
彼女のお腹は、「腹筋6LDKかい!」と叫びたくなるような見事なシックスパックで、エルフの美貌にムキムキの筋肉というギャップが実に良いアクセントになっていた。この場に陶芸家がいたらすぐにでも彼女の像を彫り始め、ダビデ像なみの歴史的芸術作品が生まれていたに違いない。
「わたしが本日皆様の講師を務めますリリアーネと申します。どうぞお見知りおきを」
今日までシャーロット監修の下、猛特訓して身につけさせた貴族流の礼儀作法も、付け焼刃とは思えないほど様になっている。
リリアーネが優雅な仕草で礼をすると、アリシアたちも釣られて礼をする。そこに彼女たちと同じ恰好に着替えたシャーロットがやって来た。
シャーロットの服装は五人と同じ、いつもトレーニングをしている恰好だが、今日いきなりコルセットを脱いで、生まれて初めての軽装をした五人に比べると実に堂々としている。
対して五人は甲羅を失くした亀みたいに、それまで守っていたものを失った頼りない体を支え合うように寄り添って固まっている。
そして。
「助手のエミーです。よろしくお願いします」
さすがに付け焼刃のリリアーネ一人に任せるわけにはいかないので、わたしも助手としてぬるっと紛れ込んでおく。
「あのシャーロット様……これはいったいどういうことでしょうか?」
「皆様にはこれから、わたくしと一緒にレッスンを受けていただきます」
「レッスン……?」
「そうすれば、どうしてわたくしがコルセットを外したのかをご理解いただけるでしょう」
シャーロットの言葉を理解できず、五人は戸惑う。まあ当然だろう。話を聞きに来ただけなのに、いきなり体験レッスンを受けさせられるのだから。まるで質の悪い部活の勧誘だ。
「コルセットに頼らない体になるためには、何よりも筋肉が必要です。本当の美しさとは、生まれ持ったものや誰かに与えられるものではありません。自分で汗をかいて掴み取るものなのです。それでは始めますよ」
有無を言わせず始めるリリアーネ。
こうして、脱コルセット計画の第二フェーズが始まった。
次回更新は明日0800時です。




