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シャーロットに合うカツラを探すために、彼女の頭を採寸する。ついでにドレスや靴なども揃えるために、ありとあらゆる寸法を測った。
「よっしゃ。そしたらワイはこの採寸表を持って、一度オブリートスに戻るわ。それでパーティーで使えるものがないか探して持って来る」
採寸表を手に部屋から出て行こうとする会長の前に、フィオが立って通せんぼをする。
「わざわざオブリートスに戻らんでも、王都で調達したらええんちゃうの?」
「いや、それやと他の商会の商品を使うことになる。この計画ではコンスタンチン商会だけが関わることが重要なんや」
「それやったらウチが行く。お父ちゃんは王都で自分の仕事をして」
そう言って素早く会長の手から採寸表をひったくった。そう言えば、そもそも王都に来たのはコンスタンチン商会の仕事のためだ。わたしやフィオはともかく、会長がいつまでもティターニア家にかかずらうわけにはいかない。
「せやけどお前、一人で大丈夫か?」
「大丈夫。それにお父ちゃんが戻っても、女性の衣装のことなんてわからんやろ?」
「アホぬかせ。商人たるもの、どんな分野のものでも勉強は怠らんもんや」
「物の良し悪しはわかっても、それがシャーロットさんに似合うかどうかまではわからんやろ。その点、ウチやったら大丈夫」
「む……そらまあたしかに。せやけど……」
それでも会長は食い下がろうとする。娘の身を案じるのは当然だ。わたしだって、フィオが一人でオブリートスに戻るなんて反対するに決まっている。だが、彼女は一人ではない。
「旦那、あたしらがきっちり護衛するから心配しなくていいぜ」
「その代わり料金はよろしくねん」
リリアーネがウィンクする。本当なら王都に入った時点で護衛は終了しているのだが、流れでわたしたちに付き合ってくれていたのだ。
それに彼女たちが護衛についてくれるのなら、王都までの安全は保障されたも同然である。
「フィオのこと、よろしく頼むで」
「任せろ。かすり傷一つつけさせねえぜ」
エッダが右手の親指を立てて請け負う。これ以上の安心は無いだろう。会長もようやく納得したようだ。
「そうなると、わたしはどうすれば……」
フィオがオブリートスに戻り、会長は王都での仕事がある。わたしだけがここに残っても良いものだろうか。というか、わたしにできることがあるのだろうか。
「お前は王都に残って、まだ他にできることがないか考えてくれ」
「せやで。髪以外にもやれることがまだまだあるはずや。あんたはそれを考えて」
「わ、わかりました!」
シャーロットがぽん、と軽く手を叩いて言う。
「それでしたら、エミーさんは他の皆さんが戻られるまで、我が家に滞在していただきましょう」
「ええんですか?」と会長。
「はい。その方が宿まで人を遣る手間も省けますし、何よりティターニア家のためにしていただいていることですから。それくらいはさせてください」
「エミー一人で宿に置いとくのも心配なんで、正直助かります。ほなエミー、ワイの仕事は五日ぐらいで終わるから、それまでくれぐれも失礼の無いようにな」
「ウチも十日ほどで戻ると思うから、それまであんたも気張りや」
「はい。会長もフィオも頑張ってください」
こうして会長は王都での仕事に行き、フィオはオブリートスに戻ることとなった。
会長とフィオ、そして護衛のエッダとリリアーネが出て行って、部屋の中にはわたしとシャーロットが残された
「さて、これからどうしましょう?」
にっこり笑ってシャーロットが尋ねるが、それを訊きたいのはわたしも同じである。
フィオが戻るまで約十日。大きなことをするには時間が足りないし、ただ待つだけなら長すぎる。まあ待ってるだけという選択肢は無いので、できる限りのことはやってみよう。
「髪型を変えた後は、やっぱり服装ですかね」
そう言ってわたしはシャーロットを見やる。
今日の彼女の出で立ちは、出会った時のパーティーからそのまま来ましたといった感じのドレスではなく、わたしたち庶民に近い普通のワンピースだ。
やはり貴族といえど、年中無休で豪華なドレスを着ているわけではないようだ。当たり前か。王様だって寝る時はパジャマに着替えるだろう。
「服装ですか。けれどパーティーなど社交の場に出るには、あまり奇抜なものは好まれないかと存じます」
「なるほど。難しいですね」
異世界にだって常識は存在する。そして常識を破壊するためには、まずは常識を知らねばならない。序破急というやつだ。常識知らずが自分勝手にやることは、ただの子供の悪ふざけと大差ない。
「他にも何かないですか? タブーと言うか、これは避けた方がいいという決まりみたいなものは」
シャーロットは少し考える。
「自分が招待客の場合、主催者よりも派手なものは避けた方が良いですね。客はあくまでおまけであって、主役は招待してくれた側なのですから」
ほうほう。これはわたしの世界とも同じだな。結婚式に呼ばれた際、新婦よりも派手な格好をしていたら顰蹙ものだ。まあこれは知識で知ってるだけで、結婚式に呼ばれたことなんて無いけど。
「となると、生地とかあまり贅沢にしない方がいいですか?」
「あくまで常識の範囲でなら、生地に拘るのもよろしいかと。けれど中には裏地や見えないところに贅を尽くす方もおられますよ」
江戸時代の傾奇者か。どこの世界にも着道楽っているんだなあ。
「ですがそれは男性や年配の女性が多いようです。若い女性がやると少々嫌味になるので、今回はやめておいた方がよろしいかと」
「印象が悪くなるのは良くないですね」
となると、生地で差別化を図るのは駄目か。
「では生地は後回しにして、次はデザインについて考えましょう」
「デザインですか」
「パーティーなどで着るドレスって、決まった形とかあるんですか? わたしには、どれも似たように見えるんですけど」
「別に決まっているわけではありません。ただ、下にコルセットを着たりスカートの骨があるからデザインが限られるというのはあるでしょうね」
「スカートの骨?」
「スカートの裾をふんわりと膨らませるために、細い木で作った骨組みのようなものがあるのです」
ああ、あの膨らんだスカートにはそういうからくりがあったのか。まるで傘か提灯だな。
「コルセットと膨らんだスカートは必須なんですか?」
「必須というか、みんながそれを着ているのでわたくしもそうしているだけです」
どうやら着ているドレスに関しても、慣習のようなものがあるみたいだ。
続いては靴の話題になった。
「靴はハイヒールが定番ですか?」
「そうですね。貴族の子女に産まれたからには、ダンスができなければなりません。その際、お相手の殿方の足を踏まないように血の滲むような訓練を受けます」
貴族の女性はハイヒールを履いてのダンスだけでなく、歩き方まで訓練を受けるらしい。まるでモデルのようだ。わたしなど、踵の低いパンプスで仕事するだけでも足が痛くなって大変だったのに、貴族って大変だなあ。
「装飾品に関してはどうですか?」
「そこは年齢や地位によるところが大きいですわね。身分に合った装いを心掛けるしかない、としか言いようがありませんわ」
「つまり、分相応にせよと」
シャーロットは正解を答えた生徒を褒める教師のような顔で微笑む。
次回更新は明日0800時です。




