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 ティターニア家の領地も、飢饉で作物が壊滅的な打撃を受けた。当然領民から税は取れず、その年は収入がまったく無かった。


 そこに追い打ちをかけるように戦争が起こった。ただでさえ税が取れず日々貯えを削っているのに、それをごっそり食い潰すほどの支出が王から命ぜられた。


 王命とあらば逆らうわけにもいかず、ティターニア家はなけなしの貯えをすべて吐き出した。これでもうすっからかんだ。


 それでもどうにか戦争は終わった。後は失った貯えをまたイチから貯め直そう、そう思っていた矢先に領地に疫病が蔓延した。


 飢饉・戦争・疫病の3ヒットコンボでティターニア家のHPはマイナスとなった。


 つまり、借金である。


 疫病で亡くなった領民や、労働力が減ったことによる損害の補償に少なくない額のお金が必要だった。


 借りたお金には、当然利子がつく。だが失った労働力はすぐには回復しない。こうして収支と支出のバランスが大きく崩れたまま時が過ぎ、借金はとんでもない額にまで膨れ上がってしまった。


 これまでは家財などを処分して糊口をしのいでいたが、それももう限界だった。このままではいずれ、借金のカタに何もかも差し押さえられてしまう。貴族の地位さえも。


 それを防ぐために、最後の手段として愛娘を金持ち貴族の嫁に出したのだが、それもあえなく失敗。もうティターニア家に打つ手はなかった。


「なるほど、大変でしたな……」


 溜め息のように、会長が言う。わたしたちの村も似たようなものだったが、疫病がなかっただけまだマシだと言えよう。世の中、不幸にも上には上がいる。


 ともあれ、ティターニア家がこうなった原因はわかった。わかりやすかったと言っても良い。


 となると、問題はお金をどう稼ぐかである。それも、ただ稼げば良いわけではない。減った労働力が回復するには、時間が必要だ。それまでの損失を補填するには、単発の臨時収入ではなく継続的に発生する収入でなければならない。もちろん借金を一括で返済できるくらい大きく稼げれば、それに越したことはないのだが。


 そんなもの、あるだろうか。


 それも貴族に。


 いや、待て。


 貴族だからこそできることが、あるのではなかろうか。


 わたしは考える。


 そして気づく。


 ある。あるではないか。


 貴族だからこそできる、貴族しかできないことが。


 もしかしたらこの状況を打破できるかもしれない。よし、これだ。


「あの、ちょっといいですか?」


 気が急くのを抑え、再びわたしは挙手する。別に学校ではないのだからする必要はないのだが、条件反射みたいなものだ。


「シャーロットさん。もし良かったら、インフルエンサーになってみませんか?」


 いんふるえんさー? と聞き返す声が一斉に聞こえる。しまった、良いアイデアが出たことに興奮して、現代の言葉を使ってしまった。


「簡単に言えば、宣伝する人のことです。貴族同士の集まりとかパーティーで、シャーロットさんにそれとなくコンスタンチン商会の商品や、商会そのものを宣伝してもらいたいんです。そうして他の貴族の方たちに興味を持ってもらい、もし商品が売れたり他の貴族から紹介してほしいということになれば、その利益の一部をコンスタンチン商会が報酬としてシャーロットさんに払います」


 こうすればシャーロットは頑張り次第で継続的な収入を得られるし、コンスタンチン商会は商品が売れるし様々な貴族とコネクションを得られて一石二鳥、いや三鳥だ。


「……というのはどうでしょうか?」


 室内の空気が重い中、恐る恐る尋ねる。誰かの唾を飲み込む音が聞こえたような気がした。


「お、お前、それ今考えたんか……?」


「え、あ、はい。そうですけど」


 インフルエンサーというシステムはわたしの世界にあるものだが、それをこの世界で使おうと思ったのはわたしのアイデアだ。嘘は言ってない、はず。


「貴族様を商品や店の広告に使うなんて、前代未聞やぞ。けど、まだ誰もやってないからこそ、ウチがやる価値はある。上手くすれば、他の商会を出し抜けるぞ……」


 さっそく頭の中で算盤を弾き始めたのか、会長はぶつぶつ言いながら腕組みをする。


 だが話はそう上手くいかないもので、肝心のティターニア家から待ったがかかった。


「我がティターニア家の娘に、商会の客引きをしろと言うのか」


 承服しかねる、というかご立腹気味の父親に、わたしは慌てて追加説明をする。


「いえ、あくまでさりげなくと言うか、実際に商品を使ってもらって、その感想を言ってもらうとか簡単なことです。決してティターニア家の名前に泥を塗るようなものではありません。たとえば化粧品や香水を使ったり、ドレスや宝石などを身に着けてパーティーに出てもらい、それに興味を持った他の貴族の方にそれとなく商品の説明や商会の話をするだけでいいんです」


 貴族同士の会話がどういうものかわたしは知らないが、女同士の会話ならわかる。誰かの悪口や陰口を除けば、大部分は使ってる化粧品の使い心地や着ている服をどこで買ったかという話だ。


 それに貴族が特定の商会を贔屓にして、そこの商品を積極的に購入するのは別段おかしな話ではないはず。


 そう説明すると、父親の怒りはどうにか治まった。


「ふむ、それならまあよかろう……」


「……ご理解いただけて何よりです」


 ほっと一息すると、わたしはシャーロットを見やる。


「どうでしょう。やっていただけないでしょうか?」


「それで本当にティターニア家は救われるのでしょうか?」


 シャーロットはわたしの目をまっすぐ見て問う。


 もっともなご意見だ。ここでかつてわたしが仕事のプレゼンでそうしたように、耳触りの良い言葉を並べ立てて彼女を納得させることはできるかもしれない。だが、わたしはそうはしたくない。疑いと希望の混じったようなシャーロットの眼差しに、わたしは精一杯の誠意で応える。


「わかりません。こればかりはやってみないと」


 現代でも、有名人が宣伝したからといってヒットしないことは多々ある。動画の再生回数や売り上げの数を盛るなど広告でいくら虚飾を凝らしても、実際の商品がイマイチなら客は見向きもしない。現実はシビアだ。


 だが、良い商品だからといって宣伝が必要ないわけではない。良いものだから売れるというナイーブな考えは捨てるべきだ。


「だからとにかくやってみるんです。特に商品は宣伝が大事なんです。誰にも知られていない商品など、この世に存在しないのと同じですから」


 キリッと音がしそうなほど真顔のわたしを、シャーロットは少しぽかんとした顔で見つめる。


 そしてわたしと目が合うと、小さく吹き出すように息を漏らしにこりと笑った。


「わかりました。わたくしでよろしければ、喜んでお手伝いさせていただきます」


 契約成立だ。わたしが右手を差し出すと、シャーロットは一瞬意味が分からずわたしの手をじっと見る。だがすぐに意図を理解したのか、白く華奢な手には似つかわしくないほどしっかりとした力で握り返してきた。


「いや、責任者はワイなんやけど……」


 その様子を、会長は寂しそうに呟きながら見ていた。


次回更新は明日0800時です。

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