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「おいおい、並ばないのかよ」
戸惑うエッダをよそにシャーロットの馬車は、さもそれが当然といった感じで列の先頭へと向かって行く。
こんなにも堂々とした横入りに、並んでいる人たちが文句を言うのではないかと冷や冷やしたが、意外にも誰も何も言わなかった
時折わたしたちの馬車を睨む人もいたが、前を行くシャーロットの馬車の扉に描かれた紋章を見た途端大名行列を見た町人のように下を向いてしまう。
「なるほど、貴族の馬車は優遇されてるのね」
「こりゃあいいや、あたしらも便乗させてもらおうぜ」
ティターニア家の家紋の効果は絶大なものであった。列の先頭に着いても、衛兵は咎めるどころかそれを見た途端背筋を伸ばして最敬礼する。当然質問も検閲もせずにフリーパスだ。後を行くわたしたちの馬車も、シャーロットの「この者たちの素性は我がティターニア家が保障する」の一言で済んでしまった。
「さすがティターニア家やな」
両脇を敬礼した衛兵たちが並ぶ道を進むと、王都オリエルバスの中に入った。
王都オリエルバス。その名の通り、王様の住む都市。国で言うと首都。日本で言うなら東京である。
だが東京がそうであるように、首都だからといって地方都市と雲泥の差があるわけではない。そりゃあわたしが住んでた村と比べたら月とスッポンだが、オブリートスと比べたら何がどう違うかは説明しづらい。
ただ自由貿易都市オブリートスと明確に違うのは、街の中に流れる空気だ。街の中心に王城があり、その中には王がいる。この国の最高責任者が自分たちと同じ空間にいるという目に見えない緊張感や自尊心といった、他の街にはない雰囲気のようなものが感じられた。
馬車は一般人が利用できる商業区や工業区を抜けて、王城に近い山の手へとやって来た。
ここまで来ると景色ががらりと変わり、目に映るのはどれも豪華な邸宅ばかりになる。
「貴人街やな。ワイも王都のには初めて入るわ」
都市は、身分によって住むところが決まっている。一般人や商人職人は外壁に近い最下層。それから身分が上がるに従って住む場所の高度が上がっていく。一番高い王城のすぐ下にあるのが、今わたしたちがいる貴人街と呼ばれる貴族階級が住む区画だ。本来ならわたしたちが足を踏み入れられない、入れたら即衛兵に逮捕されるような場所である。
堂々と前を行くシャーロットの馬車とは裏腹に、わたしたちの馬車はおっかなびっくり歩む。いつ巡回する衛兵に呼び止められないかと戦々恐々としていたが、とうとう何事もなく一軒の豪邸にたどり着いた。
「さすがティターニア家やな」
本日二回目のさすティタ。だが屋敷を見て会長が唸るのも頷ける。
下級層の住居は基本石造りである。それは建てるのが安価で簡単でありながら、それなりに堅牢で便利なためである。夏暑く冬寒いのを我慢すれば、いいところが多い。
しかし目の前の豪邸は、木造建築だ。しかも平屋ではなく三階建て。窓の数からすると部屋数は三十室を超えるだろうし、二階より上の部屋には広々したバルコニーが突き出している。どれだけの職人が関わり、どれだけの高価な資材が高い技術によって加工されたかわからない。現代で見積もっても、軽く億の金額がしそうな大邸宅だ。
馬車が入り口の門に到着する。二階建ての建物と同じくらい高さのある立派な鉄柵の門をくぐり抜けて敷地内に入ると、玄関から執事と思しき初老の男性が出てきた。
「おお、お嬢様。どうしてお戻りに……?」
「話は後です。それより今はお客様をお迎えして」
執事は何か言いたそうにしたが、すぐに主人からの命令を実行に移す。急いで屋敷に取って返すと、すぐに使用人たちと一緒に出て来た。さっきの老執事の他には、メイドが二人とコックが一人、そして庭師が一人と合計五人。この規模の豪邸にしては少なすぎるので、他の使用人たちは別の仕事をしているのかもしれない。
老執事と使用人たちは玄関の前に一列横隊に並ぶと、わたしたちの馬車を出迎えた。
「ようこそいらっしゃいました、お客様」
まるで賓客のような扱いに、庶民丸出しのわたしたちは戸惑いながらも屋敷の中へと案内された。
屋敷の中に入ると、さらに二人の人物に出迎えられた。
「シャーロット!」
「お父様、お母様!」
シャーロットは二人の姿を見ると急いで駆けだし、飛び込むように二人に抱きつく。彼女の両親は、最初は突然戻って来た娘の姿に驚いていたが、すぐに再び会えたことを何よりも喜んだ。
「お前、どうして戻って来たんだ……」
「御免なさい、お父様。けど、これには深い訳があるの」
「それよりもシャーロット、そちらの方々は?」
「あ、」
母親に言われて存在を思い出したシャーロットは、慌ててわたしたちを両親に紹介する。
次回更新は明日0800時です。




