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「男色かよ。そいつ、よくそれで結婚しようなんて思ったな」


 吐き捨てるようにエッダが言う。たしかに、いくら互いの利益のためとはいえ、女性に興味がないのに結婚をするのは相手に失礼だとは思わないのか。


「いえ、それはわたくしも承知の上でした」


「え?」と再び五人の声が揃う。


「この結婚は元々形だけの結婚だったのですから」


「まあ、政略結婚ってのはだいたいそないなもんでしょうな」


 それにしても……と小声で継ぐ会長の言葉に、シャーロットは静かに首を横に振る。


「そうではありません。あの方が女性に興味がないように、わたくしも男性に興味がありません。なので、互いの恋愛観に一切干渉しないという制約の下で結婚したのです」


 自分の性的嗜好を暴露し、赤くなった頬を両手で挟むシャーロット。時折ちらちらとリリアーネとエッダの方を見るのは気のせいだろうか。


「つまり、仮面夫婦の契約を交わしたというわけですね」


「仮面、夫婦……?」


 シャーロットはわたしの言葉を理解できずに小首を傾げる。その仕草はかなり幼く見えた。あと、この世界に仮面夫婦という言葉はまだ無いようだ。


「えとですね、お互い別に好きな相手がいるのを了承して形だけ結婚するということです」


「なるほど……。でしたらその仮面夫婦で間違いないと思います」


「そんな言葉あるんや」


「お前、ガキのくせになんちゅう言葉知っとるんや……」


 フィオと会長がドン引きするのを無視し、わたしはシャーロットに問う。


「けど、お二人とも納得していたのなら、どうして破談になったんですか?」


「それは……」


 どうやらようやく話の根幹に行き着いたようだ。


「『やはり形だけとはいえ、愛する人は裏切れない』と、相手の方が式を目前にして好きな人と駆け落ちしてしまって……」


 うわぁお。


 そこまで思い切ったことをするなら、どうして結婚が決まる前にしなかったのか……。と今さら言っても後の祭りだ。


 それからは酷いものであった。当然結婚は破談となり、シャーロットは莫大な慰謝料と手切れ金という名の口止め料をもらってエクスウルマを去ることになった。


 だがここに嫁ぎもう帰らないつもりで来たので、侍女はもちろん往路に連れてきた護衛はすでに帰らせている。当然シャーロットは相手の家に王都オリエルバスまでの護衛を要求したが、相手方はもう他人なのだからその義理は無いと突っぱねた。


 こうしてシャーロットは護衛もなしに実家へと帰るハメになり、


「そのせいで野盗に襲われ、後は皆さまのご存じの通りです」


「はあ……」


 溜息が出る。しかも五人分。


「ひっでー話だな。別れて正解だよ、そんな奴」


 腕組みをしながら聞いていたエッダが言うと、賛同するように皆が頷く。わたしもそう思う。


「それに、相手の家が急に冷たくなるのもね。いくら息子が男と駆け落ちしたからって、もしかしたら嫁に来ていたかもしれない相手を無碍に追い出すなんて信じられないわ」


 王都に続く道は、街道を除いて治安があまり良くない。それを知りつつ護衛もつけずに追い返すのは、野盗にでも襲われてあわよくば死んでくれと願っているのと同じだ。現にこうして帰路で野盗に襲われている。もしわたしたちが彼女たちの前にいなかったら、どうなっていただろう。想像したくもない。


「もしよろしければ、王都まで我々が同行いたしましょうか?」


「それは願ってもないお話ですが、よろしいのでしょうか?」


「行き先も同じですし、ここで出会ったのも何かの縁でしょう。それに、旅は人数が多い方が賑やかで楽しい」


「ですが……」


 会長の提案を最初は遠慮していたシャーロットであったが、何度も固辞するのは失礼だと思ったのか、最終的には「それでは、お言葉に甘えて」と受け入れた。


「お二人さんもそれでええか?」


「あーしは別に構わないわよ」


「あたしも別にいいぜ」


 急遽護衛対象が増えたことを、リリアーネとエッダは快諾する。が、


「当然、人数が増えた分の追加料金は請求するわよ」


「貴族の護衛だから要人警護だな。料金五割増しでよろしく」


 ちゃっかりしている。しかしそこは商売人のコンスタンチン。タダより高いものはないし、労働には相応の対価を支払うのは当然だと心得ている。


かまへん。無事王都まで着いたら、最初の料金の倍払はろたるわ」


「きゃー、太っ腹!」


「さすが旦那! よく見たら男前だぜ!」


 思わぬ賃金アップに、お互いの手を取り合い小躍りして喜ぶ二人。こういう時だけは仲が良さそうに見える。


 こうしてわたしたちは新たにシャーロットを仲間に加え、王都への旅を再開した。


 だが危険に備えて身構えている時に限って何も起こらないもので、それからは何事もなく至って平和な道のりであった。


 三日後。


 予定通り王都オリエルバスに到着したわたしたちが見たのは、オブリートスを遥かに凌ぐ巨大な外壁であった。


「おっきい……」


 小高い丘から眺めると、オリエルバスまでまだ数キロは先にあるにもかかわらず壁が大きすぎて手が届きそうに思えてしまう。壁の中に入ろうと門に連なる人々の列など、まるで蟻の行列のようだ。


「さすがカント王国最大の都市、王都オリエルバスやな」


 何度も来ているであろう会長も、王都の大きさには舌を巻いている。


「いつまでもここで眺めていても埒が明かねえ。とっとと列に並ばないと、中に入るのが夜になっちまうぞ」


 手綱をしならせ、エッダが馬車を発進させる。もう少し眺めていたかったが、門の前には街に入る許可待ちの人で長蛇の列だ。わたしたちも早く並ばないと、街に入るのが遅くなって今夜の宿が取れないかもしれない。わたしももう馬車の中じゃなく宿屋のベッドで寝たかった。


 そうして街へと近づくと、列の最後尾が見えてきた。ああ、これはかなり待たされそうだなとうんざりしていると、前を行くシャーロットの馬車が速度を落としてわたしたちの馬車の隣に並んだ。


 何だろうと思っていると、向こうの御者のおじさんがついて来いと合図を送ってきた。


「なにかしら?」


「とにかくついて行こうぜ」


 不思議に思いながらも、向こうの指示通り馬車の後について行く。すると馬車は門へと並ぶ列を素通りしてどんどん先に進んでいった。


次回更新は明日0800時です。

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