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 ここまで近づくと、馬車の様子がはっきりと見えた。


 まず馬がわたしたちのとはまるで違う。


 わたしたちの馬車を引くのが農耕馬としたら、向こうのはサラブレッド。足がすらりと長く顔にも気品があって、走るために産まれた高貴なる血統といった感じだ。


 そしてそれらが引く荷台も如実に違う。


 幌付き荷馬車のわたしたちと比べ、向こうのはシンデレラが乗っていそうな豪華な走る個室。側面にちゃんとしたドアがついたVIP仕様だ。


 だがそんな豪華な馬車には、今やあちこちに矢が突き刺さっている。馬車だけじゃなく、御者のおじさんの右肩にも刺さっていてとても痛そうだ。


 おまけにどれだけ無茶をさせたのか、馬も限界っぽい。目は視界を制限する黒い板がつけられていてよくわからないが、二頭とも口の端から泡を吹いている。


 そんな限界一歩手前な状態でも高品質の馬と馬車は、速度をどんどん上げてわたしたちに近づいてくる。そして後ろの馬車との距離が短くなるにつれ、それらに付属するものの音もよく聞こえてきた。


「ヒャッハー!」


「獲物が増えたぜ!」


「まとめて殺っちまえ!」


「皆殺しだ!」


 世紀末かマッドさがマックスになったような奇声が、豪華な馬車の後方から聞こえてくる。野盗だ。


 彼らのうち何人かが、後ろの馬車を追い越してわたしたちの方へと馬を走らせる。重い馬車と身軽な騎馬では、ここまで走って来た馬の疲労度が違う。まだ馬に余力のある野盗たちは、あっという間にわたしたちの馬車に追いついた。


「こりゃあすげえ、エルフだ!」


「しかも女だ!」


「うっひょーたまんねえ!」


「貴族の女と併せて売れば、いい金になるぜぇっ!」


 四人の野盗たちは御者席に座るリリアーネを見て、口々に下卑た言葉を投げかける。だが言われている本人はまったく気にした風もなく、ただ周囲に羽虫がいて鬱陶しいみたいな顔をしている。


 そしてリリアーネの存在で半ば忘れられているが、彼女の隣にはエッダがいる。


 エッダはリリアーネと同じくらい鬱陶しそうな顔で、無造作に剣を野盗の一人に突き立てた。


「うるせえ死ね」


「え……?」


 エッダの長い剣はリリアーネの頭越しに、彼女の顔をもっと近くで見ようと近づいていた野盗の左目に刺さった。


 普通の剣なら失明だけで済んだかもしれないが彼女の剣は普通より細く長い。切っ先は眼球を突き抜けてその先の脳へと達した。


 野盗は最期にエッダの剣先を超弩アップで見た直後、生命活動を停止した。動物の皮で作った服を着た体が一度大きく跳ねると、乗っていた馬からずり落ちる。地面に落ちた野盗は瞬く間に後方へと流れて行き、すぐ後ろを走っていた高そうな馬車に轢かれた。


 いきなり人が落ちて流れて来て、それを轢いてしまった馬車の人たちはさぞ驚いたことだろう。だがもっと驚いていたのは、その一部始終を見ていた野盗の仲間たちだ。彼らは一瞬何が起こったのか理解できずにぽかんとしていたが、やがて小さい脳が機能を回復したのか状況を理解して興奮し始めた。


「て、てめえ、よくもやりやがったな!」


「お前殺す! 絶対殺す!」


「一晩中猫耳をいじりながら腹を吸ってやる!」


 一人若干歪んだ欲望を持った者がいるが、概ね彼らの要求は同じのようだ。許さない。


 だが彼らはまず口より先に手を動かすべきだった。彼らが動物みたいにただ感情を剥き出しにしている間に、エッダは立ち上がって剣を振り終えていた。


 野盗たちはそれぞれ喉や心臓を一突きにされ、それ以上声を上げることなく絶命した。そして最初の者と同じように、馬から落ちて後方へ流れて行った。


 わたしたちの馬車の左右には、乗り手を失った四頭の馬だけが残った。馬たちは自由になったのにも気づかず、律義に並走している。


「じゃあちょっと行ってくるわ」


「いってらっしゃい」


 エッダはまるで近所のコンビニに行くみたいな気軽さでリリアーネにそう言うと、御者席を軽く蹴って一番近くを走っていた野盗の馬に飛び乗った。


「ハッ!」


 手綱を握って一声上げると、新たな乗り手を得た馬は彼女の意のままに右へ旋回して後方へと下がっていった。


「おい、あのお姉ちゃん一人で行かせてええんか?」


 その様子を馬車の中から見ていた会長が、慌てて首だけ外に出してリリアーネに問いかける。


「大丈夫よ、これくらいの相手ならあの子一人で」


「せやけど、あんたも行った方がええんやないか?」


「それだと、誰がこの馬車の運転をするのよ」


「ワイがやる。せやからはよ行ってくれ」


「ダメよ。雇い主にそんな危ないことさせられないわ」


 御者席だって決して安全とは言えないのだ。現に後ろの馬車の御者は矢で撃たれている。もし彼のように肩ではなく頭や心臓などの急所に命中したら、矢の一本で死んでしまうこともある。リリアーネはそれを警戒したのだろう。


 だが会長の心配をよそに、エッダが野盗の本隊に向かって行くとすぐに彼らの断末魔が聞こえてきた。


 決着は、ものの数分で着いた。


 当然、エッダの圧勝だった。


次回更新は明日0800時です。

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