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「あの、わたしはどこに連れて行かれるんですか?」


 半歩前を歩くエルヴィンの背中に向けてわたしが質問すると、彼は歩く速度を緩めてわたしの右隣に来た。そのまま歩調を合わせて歩く。


「今から行くのはドムスタベルナという、所謂雑貨屋だ」


「雑貨屋、ですか」


 わたしの村にあった雑貨屋は、小さい村に相応しいコンビニよりも狭いとても小さなお店だった。狭いから品ぞろえが悪く、足りないものは月に一度来る行商人や半年に一度来る商隊を頼りにしたものだ。


「いいですねえ、雑貨屋さん。わたし、雑貨屋さん好きですよ」


 生前も、用もないのにドンキやホームセンターなどに行ったものだ。ああいう所は、何を買うでもなくただ居るだけで心が満たされる。


「そりゃ良かった。しかしなあ……」


 珍しくエルヴィンが口ごもる。わたしが不思議そうに小首を傾げると、彼は苦笑いしながら言った。


「あんまり儲かってないんだよなあ……」


「そうなんですか?」


「ああ、以前あった店舗が手狭になったから最近移転したんだが、そしたら急に客足が悪くなって困ってるんだ」


「移転する前は順調だったんですか?」


「ああ。規模にしては充分な売り上げがあった。だから店を広げて品数も増やしたってのに、何故か売り上げが落ちたんだ」


「不思議ですねえ」


 売り上げが良かったのでさらに儲けを出そうと店を広げたら、逆に客が減ってしまったのか。何とも間が悪いというか、ついてないというか。普段なら大変ですねの一言で済むのだが、生憎その店はこれからわたしが働く場所なのだ。他人事では済まされない。


「お前も働いているうちに何か気がついたら、遠慮なく店長に言うんだぞ。うちはそういうのは分け隔てなく取り入れていく方針だからな」


「ホワイトすぎる……」


「え?」


「いえ、わかりました。頑張ります」


 それからわたしたちは、何気ない雑談をしながら歩いた。その間にわかったことは、エルヴィンが三十歳独身だということと、フィオの歳が十二歳だということだった。


「さて、着いたぞ。ここが今日からお前が働く店だ」


「うわあ……」


 そこにあったのは、確かに雑貨屋であった。


 ただしその規模は、アメリカのホームセンターぐらいの広さがあった。


「おっきいですねえ……」


「でかいだろ。この街一番の雑貨屋――になるはずだったんだがなあ……」


 得意げだったエルヴィンの顔が、花がしぼむように曇っていく。きっと規模拡大した当初は、夢や希望に満ち溢れていたのだろう。これでもっと儲かるはず、そしてゆくゆくは二号店三号店と支店を増やし、益々儲かるはずだと。しかし蓋を開けてみたら、結果はその真逆。これではテンションも下がるというものだ。


 雑貨屋ドムスタベルナは、周囲の他の建物と同じ石造りだが、堅牢さもさることながら何よりその大きさに舌を巻く。街の中心部に近い一等地に、これほどの規模の店舗を構えるとは。コンスタンチン商会の資本の高さが窺える。


 だが店の規模や建物の立派さとは裏腹に、閑古鳥が鳴いているのが外から見てもわかる。流行っていないお店が出す独特の雰囲気に、客ではないのにわたしの足が重くなった。


 だがいつまでも店の前で佇んでいるわけにもいかない。エルヴィンの「行くぞ」という声に引きずられるようにして中に入る。


 店内は体育館のような開けた空間で、中には大きな棚が整然と並んでいた。高い天井に届かんばかりの棚には、商品がこれでもかと並べられている。細々としたものは籠にまとめて入っているからいいが、浴槽のような大きくて嵩張るものまで同じものを何個も、しかも色違い全て並べてある。まるで在庫をすべて陳列しているかのような有様は、店長の正気を疑う。店というよりは倉庫に近いと思った。


「オゥ、アメリカンスタイル……」


「え? 何だって?」


「いえ、何でもありません……」


 なるほど。どうして閑古鳥が鳴いているのか、わかったような気がした。どこに何があるかわからない上に、敷地がやたら広い。これでは欲しいものを探すために、無駄に歩き回らなくてはいけない。これほど客に不親切ではまず客が来ないし、売れるものも売れないだろう。


 さてどうしたものかと思案していると、店の奥からやって来た男性が声をかけてきた。


「おや、エルヴィンさん。今日はどういったご用件で?」


「タミアスか。丁度いい、こいつを今日から預かってくれ」


 いきなり? エルヴィンはまるで猫の子を預けるみたいな気軽さで言うと、わたしの背中を押して自分の前に出した。


「その子を? まだ子供のようですが……」


 タミアスはエルヴィンより頭一つ分身長が低いが、恰幅が良いので体重は重そうだ。まるでパーマがかかっているようなふわふわの髪を肩まで伸ばし、人の良さそうな顔は常に笑みを含んでいる。雑貨屋の店主というよりは、パン屋の主人の方がしっくりくるだろう。


 更なる売り上げを期待して建て替えた店が不調なので、商会の中ではさぞ肩身が狭かろうと思いきや、エルヴィンの態度から見るにまだ信頼はされているようだ。


「エルヴィンさん、確かにうちは最近移転して人手が足りていませんが、子供を雇うほど余裕があるわけでは……」


 タミアスはわたしを訝しげに見る。まるで何かの罰ゲームを受けさせられようとしている顔だ。


「確かにまだ子供だが、出来はかなりいいぞ。会長と俺のお墨付きだ」


「会長が? それはまた珍しい」


「うまく使えば、もしかしたら売り上げが上がるかもしれないぞ」


「ほう、そこまで……」


 子供に過剰な期待をするのはやめてください。そんなことあるわけないでしょうに。


 わたしが心の中で悲鳴を上げているのをよそに、タミアスはわたしの顔をまじまじと見た後、にこりと笑って言った。


「私が雑貨屋ドムスタベルナの店長、タミアスです。お嬢ちゃん、名前は?」


「エミーです」


「エミーか。さっそく今日から働いてもらうけど、まずはざっと店の中を案内するね」


「それじゃあエミー、しっかり働けよ」


 こうして無事わたしの引き渡しが終わると、エルヴィンはもうここに用はないとばかりにさっさと帰ってしまった。


次回更新は明日0800時です。

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