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第1話

「セラフィナ様、ついにこの時が来たのですね」


 クラリスが私を見上げ、恍惚とした表情で言った。

 両手は胸に当てられ、まるで神を崇めるような瞳で私を見ている。


 私の目の前には200を超えるホムンクルスが整然と並び、私の言葉を今か今かと待ちわびている。

 種類は様々。

 クラリスはエルフであるし、人族もいる。ヴァンパイアや獣人、ダークエルフもいる。

 しかし共通しているのは、()()()()()()()()への絶対的な忠誠心。


 ゆっくりと手をあげる。

 その動作だけで、全てのホムンクルスたちが一斉に膝をつき、頭を垂れた。

 彼女らにとって、私の言葉は絶対であり、命令は神託に等しい。


「これより私は旅立つ」


 静寂の中、私の言葉が響き渡る。

 聞き入れたホムンクルスたちが頭を垂れたまま、静かに息を飲む。


 三番目のホムンクルス、ヴァンパイアのエルミナが私の言葉を聞き顔をあげる。赤い瞳をきらりと光らせ、その顔には微笑が浮かんでいる。


「——セラフィナ様の外界での活動について——うちにいくつか計画がございます。ぜひ計画を進める許可を頂けまへんやろか?」

「……良いだろう。私のためにその力、存分に尽くせ」

「ありがとうございます」


 そういうとエルミナは何人かのヴァンパイア型のホムンクルスを連れ、音もなく私の前から姿を消した。


「エルミナは兼ねてより()()()()()()()()に動いておりました。すべてはセラフィナ様の御心を実現するために。彼女であれば、必ずやセラフィナ様の偉大なる計画に貢献できるでしょう」

「……そうか」


 さて、ここでいくつか問題がある。

 彼女らには、私が旅立つ目的を話していない。

 なぜ全員が女性なのか、という理由も知らない。

 加えて私への神格化が激しすぎる。

 おかげで体裁を保つために、威厳いげんのある言い方を、強要されてると言っても良い。無言のプレッシャーと言うやつ。






 ………………はぁ、私はそんなキャラじゃないんだけどなぁ。

 どこで間違えたんだろ。



☆☆☆



「セラフィナ様」


 顔をあげるとクラリスが目の前に立っていた。

 研究室にこもっている私を訪ねてくるなんて、ずいぶんと珍しい。


「なんの用だ?」


 私は再び目を落としながら話を聞く。


「お客様です」


 その言葉に私は動きを止め、再び目をあげた。


「客だと?」

「はい」

「……何年ぶりだ」

「499年と162日ぶりです」

「もうそんなに経つか」

「……はい」


 と答えたクラリスが一瞬目を伏せ、そのまま静かに口を閉ざした。


 確か最後に来た人は婆様で……500年くらい前だったかな?

 なんか暗い表情してるけどクラリスって、そんなに婆様と仲良かったっけ?


 気にはなるけど、まずは500年ぶりの客を出迎えないと。

 クラリスの話は、そのあとでも良いからね。


「会おう。案内してくれ」

「わかりました」



☆☆☆



 訪ねてきたのは人族の女の子だった。私は美的感覚にはかなり薄いが、可愛い方だと思う。私は好きだ。


「ここは……本当に素晴らしい場所ですね」

「よくわかっておられますね。この聖域は我らが主、セラフィナ様の最初の創造物にして最高傑作になります」


 私だけで作ったわけではないんだけどなぁ、なんて思いつつ私は謝辞しゃじを述べる。


「クラリス、ありがとう」

「勿体ないお言葉です」

「……で、君は世間話をしに来たのか?」


 私がそう聞くと、目の前の女は少し目を伏せ、意を決したかのように口を開く。


「私は……セシル・フローレンスと言います。ずっと……ずっと探していました……! 私は……私はあなたに教えを請いたいのです!」


 ……これは面倒なやつだ。


「断る」


 間髪入れずに断った。

 私は婆様にかけられた呪いを解く必要がある。時間がないのだ。


「そんな……! そこを何とかお願いします……!」

「断る」


 なにを言われても私の意見は変わらない。

 ただでさえ、私の自己認識アイデンティティはかなり《《歪んでしまっている》》。

 もはや一刻の猶予ゆうよもない。

 婆様、せめて私を元に戻してから死んで欲しい。


「そんな……今は亡き長命種、エルフの最後の生き残りと呼ばれるセラフィナさんであれば、ギフトのない私でも強くなる方法が分かると思って探していたのに……」

「ギフト……?」


 知らない言葉が出てきて、思わず反芻はんすうした。

 ギフト? なにそれ? 聞いたことがない。

 私の500年のという長い研究史の中に《《ギフト》》という言葉は一回も出てきたことがなかった。


「セラフィナ様はご存じないのですか?」

「むしろクラリスは知っているのか?」

「はい。少しですが知っております。上がってくる報告によれば――およそ300年ほど前から世界に現れた能力のようです」


 そうだったのか。私は研究に没頭するあまり、500年もの間、生活に必要な全てはクラリスを含めたホムンクルスたちにやってもらっていた。


 私が引きこもっている間、世界では新たにギフトと言う能力が現れていたなんて。

 もう少し早く知っていれば、私を元の姿に戻す研究も進んだかもしれない……と、そこまで考えたところで脳裏にある考えが過った。

 もしかしてギフトなら婆様のかけた呪いを解けるのでは?


「セシル」

「は、はい!」

「そのギフト、というのは具体的にどういうものなのだ?」

「えっと……生まれ持った特別な能力です。例えば、自分の魔力を高める魔力向上や、複数の能力を併せ持った商人と言ったギフトがあります」


 セシルの言葉を聞いて鼓動が高鳴る。

 やっぱり私が500年も研究して得られなかった、私が元に戻る方法もギフトとして存在するんじゃないか?


 はやる気持ちを抑えながらさらに一歩、セシルへと近づき小声で尋ねた。


「そのギフトというものは……女を男に変えるようなギフトもあるのか?」

「え?」


 私の言葉を聞いたセシルは目を丸くして、私を見ている。

 そんな顔をしないで欲しい。私には重大な問題でとっても真面目なんだよ。


 答えが返って来ないので、私は再び小声で尋ねる。


「あるのか?」

「……昔、姿かたちを変えることの出来るギフトがある……と聞いたことがあります。……ただ、姿かたちを変えられる、ということはとても探しにくいギフトです……おそらく世界中を探すことになるかと……」

「世界中を探す……か」


 十分だった。聞いたことがある、ということは存在する可能性がある。火のないところに煙は立たない。

 500年行き詰っていた研究よりも可能性は遥かに高い。


 それなら私は世界を探す。

 隅から隅まで探して、必ず見つけてやる。


 ふ、ふふふふふ。

 ついに私の呪いが解けるときが来るのだ。

 私は外の世界に可能性が広がっていることに、嬉しくなり、いつもの威厳ある表情を忘れてつい頬が緩む。


「……悪くない」

「セラフィナ様?」

「そう、世界だ」


 クラリスが一瞬、私の言葉の意図を測りかねているように見えた。でもすぐに何かを悟ったように目を輝かせる。その瞳に喜色を浮かべ、同時に尊敬の瞳を向けてきた。


「そういうことでしたか……!」


 わかってくれた? そういうことだよ。

 私は私の目的のため――婆様の呪いから解放されるため……。

 ……ところで私はクラリスに私の目的について話したことあったっけ?


「エルフの国の再興——そして、偉大なるセラフィナ様に世界を捧げる――」


 ……ん?


「——新たな時代の幕開けです!」

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