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第9話 『決戦前夜』

「……それであんた、言いっ放して逃げ帰ってきたわけね」


 無二の親友の口ぶりは、ときに相手に対して辛辣である。

 あたしはベッドの上でクッションを抱いて、ゴロゴロと転がって悶絶した。


「い、言い方ひどいよ!?」

「でも事実でしょーが」


 呆れた声が下からする。たしかにへたれちゃったけどさ……。


「昔一緒に遊んだ従弟を呼びだしてみれば、根はオタクっぽいけど長身美男子に育ってました。おまけに昔からずっと自分のことを好いてくれていましたとか、そんなご都合展開、今どき創作でもやらないんじゃない?」


 マリヤの口調はアンニュイな感じだ。

 無理もない。あたしもまだ信じられんし。


「ハート、あんたジムくんに鞍替えしちゃったら?」

「か、簡単に言わないで!! ジムとは、そんなんじゃないし……」


 こっちはハー姉ハー姉言って懐いてきた頃の記憶を持っているのだ。

 たしかにかわいかったけれど、男として見れるかっていうと話は別になる。


「純情一途……あの子、きっとあんたに助力を乞われなかったら、墓場まで気持ちを持ってくつもりだったよ。掘り起こした身として、どんなかたちでもいいから責任は取らないとダメでしょ」


 マリヤってば、相変わらず正論100%だ。

 いつもは笑って誤魔化すけど、今日ばかりはそうもいかない。


「わかってるよ……でもさ、よりによってこのタイミングって思うじゃん」

「婚約破棄ねえ」

「マリヤってば、この期に及んで半信半疑なの?」

「あの堅物が、そんなことするかってのが引っかかる」


 講堂で全校集会があるとき、ノックスは生徒会長として前に出て司会進行役を務める。在校生への注意喚起なども行う。


 直で話したことはないはずだけど、その立ち居振る舞いから、マリヤはノックスの人柄をうっすらと掴んでいるのだろう。


「私見だけど、筋は通してくる男だ。ハートとの婚約を解消してアカネさんを迎える気なら、しかるべき手順を踏まないなんてことはないはず」

「じゃあ、あたしが婚約破棄されることはないってこと?」


 脳裏で、婚約破棄モノの少女小説の内容を思い出す。

 バカ王子の仕掛けてくる婚約破棄は、9割方が無理筋だ。


「色恋がどこまで人を狂わすかってところかな」

「なによそれ、ハッキリしない」

「それを言うなら、そもそも私に恋愛のことを聞くのがおかしいんだよ」


 ぐうの音も出ないとはこのことか。

 マリヤは男性と付き合ったこともなければ、婚約者もいない。


「ともかく、注意して。ノックス王子はだいぶ思いつめているかもしれない。ジムくんにも同じことを伝えて、警戒は怠らないようにして」

「あー、それなんだけどさ……」


 とここで初めて、あたしは放課後にジムがあたしに言ってきた内容をマリヤに伝えた。


「来られない?」

「うん、ジムの口から婚約破棄を伝えたら、気持ちが本物になっちゃうからだって」

「…………」


 あの場ではピンとこなかったから正直に伝えたのだが、マリヤは思うところがあるらしく、しばらく無言になった。


「ハート、あんたさあ……罪作りな女だね」

「ええっ!? いきなりなに言っちゃってるのよ!!」


 あたしのどこが罪作りだっていうのか。


「ともかくとして、あんた本当に明日行くの?」

「い、行くよそりゃあ! この日をずっと待ってたんだから!!」

「偽恋人役のジムくんがいないのに?」


 事実を突きつけられて、うぐっとノドの奥を突かれた気になる。


「それでも行く! ジムが来なかったら、素直に婚約破棄されてくる! 少女小説のヒロインみたいに、クールに受けてさらりとかわしてやるんだから!!」


 そうだ。脳裏に浮かぶ数多の少女小説のヒロインのように、粛々と婚約破棄を受けてカッコよく立ち去ってみせる。


 それはあたしにしては珍しく大きな覚悟とともに言った言葉だったのだけれど、マリヤは思うところがあるらしく難色を示してる感じだ。


「……わかった。じゃあ手紙見せて」

「え? なんで?」

「ノックス王子のものか筆跡で判断する。もしここまでやって、騙りだとしたら本気でヤバいから」


 マリヤはクラス長を務めている。生徒会長であるノックスが作った書類を目にする機会もあったはずだ。


 あたしから手紙を受け取ると、記憶のものと照合して結論を出した。


「この手紙を書いたのは間違いなくノックス王子だね。しかしまあ、婚約者に送るにしては随分と仰々しい言い回しだこと」

「性分だから仕方ないんじゃない? あたしと2人でいるときもいつもこんな感じでしゃべってたよ」

「マジか……」


 ともかく、これでルームメイトの許可も取り付けた。

 明日は決戦だ。よく眠って英気を付けないといけないね。

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