たゆたう瞳にその胸は
寧夏の夏は暑い。
私はここ、寧夏の賢州という村に住む、元旅人である。日本を出発し、早十数年。流れ着いたこの土地を気に入り、定住することに決めた。この暑さにも慣れてきたと思ったが、私はまだまだ未熟なようだ。額を伝う汗をぬぐって、今日の仕事を確認する。
私の朝は、一杯の井戸水で始まる。越してきたとき、すぐ近くに水場が無いことに気づき、急遽こしらえたものだ。仕事の報酬としてもらった干し肉を朝食とし、さっそく今日の仕事に取り掛かる準備をする。
私の仕事は、周辺の村々の依頼に応じ占いをしたり、予言をすることだ。先程の井戸水も、占いによって水源を探し当てて掘った井戸のものである。
雰囲気を作るため、こんなあっつい中外套を纏い、耕作に関する予言をしに行く予定だ。
こうも暑くては仕事をする気など起きやしない。道中、彼の居る洞窟に寄っていこう。
この洞窟はいつ来ても暗い。今も、痛いほど太陽が照りつけているというのに中の様子をうかがうことは出来ない。
洞窟に足を踏み入れると、なんとも不気味な音が内部に反響する。
そのまましばらく進むと、少しばかりひらけた場所が現れる。この空間によく以合った、古びた玉座の鎮座するこの場所は、彼のお気に入りだ。
「三日月さん、居るかー?」
洞窟の奥に向かって声を投げかける。しかし、がさついた私の声が響くばかりで返事はない。まあ、いつものことだ。彼らは気まぐれだからな。仕方がないので、干し肉と井戸水の入った水筒をカバンから取り出し、適当な岩のくぼみに水を注ぐ。手には干し肉を装備して、彼が来るのをじっと待ち構える。二分ほどして、ようやく彼が姿を表したので干し肉を振っておびき寄せてみる。……おっ、来た。毛がふさふさな尻尾を揺らし、わずかに皮膚が見える耳をぴょこぴょこさせながらこちらに近づいてくる! なんて愛らしいんだろう。そのまま警戒することもなく水を飲み干し肉を食べる。
最初のうちはかなり警戒されたが、何週間、何ヶ月と通い詰めていると、次第に心をひらいてくれて、今では膝の上に乗ってきてくれることだってある。……触らせたりはしてくれないが。三日月という名前も私が勝手に名付けて、勝手にそう呼んでいる。
なぜ『さん』づけかというと、玉座に座り周りを見下ろしている姿がどことなく敬意を払うべきもののように思えたのと、彼に会った日の仕事は必ず上手くいくからだ。これが、猫の癒しパワーなのか、はたまた彼に不思議な力があるのか定かではないが、なんにせよ彼の恩恵を受けていることは多分間違いないのだから、敬意を込めてさんづけさせていただいている。
いつの間にか干し肉をすべて食べ終わった様子の彼は、手持ち無沙汰にあたりをぐるぐると歩いている。その姿がいじらしくてとてもいい。
ああっ! 三日月さんが……! お腹を見せて地面をごろごろしている! あああ……なんて可愛らしいんだ……。その無防備な姿に今日も生きる活力がみなぎってくるというものである。
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2024.9/6
夢創師
タイトルがわけわからないですね。
閲覧ありがとうございました。