和菓子屋♫
芳山教授の日々道楽「和菓子屋♫」
出張の帰り、
電車に急ぐ私がいた。
何か忘れている気がする。
何だ?
そうだ、お土産を買うのを忘れた。
時間がない、
慌てて、商店街の店先を物色する。
民芸品、お守り、キーホルダー、その他。
そんな物はいらない。
もらっても、邪魔になる品物だ。
こういう場合は消え物がいい、消え物に決まっている。
食べれば消える、邪魔にはならない。良案だ。
消え物、消え物、消え物を探す。
おおっ、
一つ、風変わりな和菓子屋が目に入った。
三角形の看板、派手なネオン、ギターのディスプレイ、至る所にある洋楽のポスター。
ここは楽器屋か?
気になって眺めてみる。
店主がニコニコして挨拶をした。
ロン毛をターバンで隠し、細身の身体には、びっしりとタトゥーが入っている。
首まであるぞ、
革の生地に鋲が入った黒色のエプロン。完全に和菓子屋のユニホームではない。
青白色の顔が、かなり怖い。(汗)
昔、バンドでもやっていたのか?
店主が、長い指で手招きをしている。
あっ、ああっ〜
私は、魔法にかけられたように店内に吸い込まれた。
「ヴィらっしゃいませ〜」
かすれた甲高い声だ。
歌い過ぎて声が枯れたのか?謎が多い。
不思議ついでに、店内を見回してみた。
どれどれ、
ブラック・サバス大福、アイアン・メイデン最中、ジェーダス・プリースト羊羹、スコーピオンズ落雁、
何なんだ、個性的過ぎる!
一体、どんな味がするんだ。想像がつかないぞ。和菓子とヘビメタのマッチング、無理過ぎる組み合わせだ。
どれを買う?
ブラック・サバス大福……大福なのは解るが、イカ墨でもはいっているのか?
アイアン・メイデン最中……なんか硬そうだ。
ジェーダス・プリースト羊羹……もう無理!
スコーピオンズ落雁……サソリ入りか?
うーん、困った。(汗)
「詰め合わせもありヴァすよ」店主が答える。
10個入り、20個入り、
それもいいか…いや待てよ、これらを買っていってどうなる?とんでもない味がしたらどうする。私のセンスが、人望が、疑われてしまう。
うーん、困った。
ふと、ポスターに目がいく。
リズム饅頭♫、
なぬ、何だこれは、
リズム饅頭♫とは、いとをかし、
まあ、他の商品にしては、まだ大人しいが、見た目はただの饅頭だ。
平たく小ぶり、茶色い薄皮にこし餡、どう見ても、ただの温泉饅頭。
しかし、気になる。
逆に、この和菓子屋にしては不自然過ぎる商品だ。
もしかして、とんでない激烈味の饅頭か?
気になる。
じっと見る。
「リズム饅頭♫ですか、」店主が答える。
「あ〜、どんな味がするのかね?」
「まあ〜ヘヴィな味です」
ヘヴィな味?
また、想像がつかない答えだ。まったく解らない。
重いのか?餡がいっぱい詰まっているのか?
うーん、困った。
いまさら、違う店に行くのも行きづらい。まず、タイミングが難しい。
どうする、
そうだ、甘すぎるのが苦手と言って逃げよう。その作戦がいい。
よし、
「甘いですよね、」
「いいえ、ツェッペリンです」
ツェッペリン?
また、想像がつかない答えだ。
ツェッペリン?ドイツ製か?
うーん、困った。(汗)
「そうそう…」店主がニコニコして答えた。
「…この饅頭を食べると踊り出してヴィまいますよ、ふふふ」
踊る?そんな馬鹿な、食べると踊ってしまう饅頭なんて聞いたことがない。
私をからかっているのか?
店主がニコニコしている。
うーん、困った。
時計を見る。
しまった、時間がない、
ええい、「リズム饅頭♫20個ください」
「ありがとうございましたヴィ〜」
私は慌ててリズム饅頭♫をもらい、外に出た。
「待ってくださいヴィー」
店主が走ってきた。
「これ、どうぞヴィ」
リズム饅頭♫を一つ手渡された。
「あ、ありがとうございます」
ハアハアハア、ハア
私は必死に走り、ようやく電車に間に合った。
席に座り、お茶を軽くすする。
ズズズ、
そうだ、リズム饅頭♫をもらったんだ。一つ食べてみるか、
包みを開ける。
どう見てもただの饅頭だが、
パク、
ズンズンチャチャ、ズンズンチャチャ、ジャーン、
身体が動き出す!
身体が勝手に動き出す。
踊らずにはいられない、
手足が勝手に動き出す。
踊らずにはいられない、
「レッド・ツェッペリーーーン!」
電車の中、踊り出す。
冷たい視線の中、踊り出す。
踊りだす、踊り出す、
ヘッドバンキングー!
踊り続ける〜踊り続ける〜
ジミー・ペイジーーー ー ー
不思議だ〜不思議な饅頭だ〜リズム饅頭♫とはしかり…
和菓子屋の厨房
店主が、リズム饅頭♫を作っている。
「ふふん〜」
BGMは、Stairway to Heaven(天国への階段)だ。
……ヘヴィな午後、だった。




