ある牢獄で、妄言者はこう語る
いつの時代も英雄譚には「象徴」というものが付いてきます。時にそれは石であり、剣であり、星でもあります。キーワードが人には好まれているのです。象徴とは受け手に対する拠り所の役目もあれば、作者が物語をつづるうえで芯としての機能を担う大切なもの。
私は……皆さんにお会いするのは、これがきっと初めてでしょう。
私の名前はグドウ。これからご覧いただく物語の終盤に出てくる人物であり、今この場では歴史の傍観者としての役割を拝しています。
私はただの学者でした。古人の詠んだ詩なんかを好んで探る数寄者です。学会では取り立てて目立つことを為せてませんが、二〇年前に私立のスクールで配布された歴史の教科書……たしか二八四ページだったかな。
『ダンジョウナリヨシのポエム日記』という枠外コラムに載った史料は、私が昔酒に酔ってそれらしくでっち上げた研究成果です。私は作文が得意でしたから、多くの人が引っ掛かった。今でも信じてる人がいるらしいですよ。
さて、私がこうして出しゃばらせてもらっているのは、皆さんにどうしてもお伝えしたい史実が存在するためです。これはいわば、名もなき勇者の物語と題してしまえば、どこにでもある陳腐な娯楽に成り下がるでしょう。いや、私だって自分の話を安売りしたくありません。
だから昔々あるところに、なんて語り口はよしましょう。我々が……いわんや、あなた方が欲しがる話はいつの時代も同じなはず。
目を惹き、はかなく、ありえない物。常識を覆すエンターテインメントが欲しいのでしょう?
分かりました、分かっていますよ。
私がこれからお連れするのは、機械も無ければ電気も無い、ただ一つの信仰心でギアが回っていた世界。小さな島で同じ人種の者達が、刃物を振り回していた時代。
よくある話とお思いですか? 象徴は、太陽。それを追い続けている人達がいた。
耳を澄ませてごらんなさい。聴こえませんか、彼らの声が。
さあ聴いてゆきなさい。歴史的な落日を見つめながら、満足に謡うこともできず、囁かれ続けている……あの少女の唄を。
そう…………これはまだ、この世に神がいた日の物語。