招待電話
黒崎は驚いた表情の延長線上のような顔のまま続ける。
「お前知らないのか?この銃はスラングハンマーって言われてるウチの銃器技師が作ったものだ。」
どうなってんだ、と黒崎は付け足すと
「この銃がその契約で渡された力だっていうのなら確かめる必要がある。それにこの件で爺さんが作った銃がノスフェラトス共の手に渡ったってのが露見した。僕についてこい。とりあえず爺さんに会わせる。」
俺は状況には些かついていけてはいないが、ついていくことにした。この銃を作った張本人にこんなに早く会えるのはラッキーだった。この銃は俺の能力として存在している、にもかかわらず使い方さえもしっかりと理解できていない。
このレバーは?このスライドは?あんなに高威力なのにどうして銀二のおっさんの肉体はズタズタになってないんだ?
このへんの謎が解けるだけでもかなりの進展だ。
というわけでこのマッシュヘアーのでかい筒を背負った公安だかなんだかのお兄さんについていく。
「ちょっと本部に連絡するから待ってろ。」
と黒崎が言う。
病院の廊下にある5つほど連なった椅子に腰かけて待っている。
このままの恰好で出るわけにはいかないので病室にあった自分の服に着替える。別に廊下でズボンを脱ごうが恥ずかしくはない。なんせ命の危機に直面したんだ。今更人前で裸だろうがパンツだろうがをさらして騒がれるくらいでは気にしない。とはいうものの迷惑にならないように少し速足で両足をズボンに入れる。
黒いズボンに赤のチェックのアウター、その上からさらに柔軟性のあるニットを着る。頭がスポっとニットから出て一息ついたとき、スマホが鳴った。公衆電話からだ。
・・・?
行政関連の連絡だったら出ておいたほうがいいかと思って一応出てみる。
「おいニンゲン。どうやらあのクズは殺したようだな。」
!!!
コイツはあの吸血鬼、シャーロットの声だ。甲高いようでドスの効いた母さんを殺した声だ。
「差し詰め公安の部隊が到着して説明を受けてるところだろう?」
シャーロットが言う中、チラリと黒崎の方を見る。
コイツのことを話すべきか?いや、向こうも何か取り込み中のようだが、と思考を巡らせようとしてすぐに声が続く。
「お前はその銃のことをもっと知るべきだからいい機会だろう。この銃を作ったおじい様にいろいろ教えてもらえ。とはいってもあのデーモンを殺せたくらいだからすぐに慣れるさ。」
コイツが何を考えてるのかまだわからないが、それでも一応聞いてみる。
「クソ、ドコにいやがるんだ。」
「おいおいそう急ぐなって、ボクは逃げないからさぁ!」と鬼ごっこ中に鬼を煽ってくる友達のようなセリフが続く。
「いいかよく聞け、ボクは今から1か月後に開催されるカブシキガイシャツバキの株主総会に出席する。」
株式会社ツバキは車のエンジンに使われる部品を作るBtoB型の大企業だ。俺でも知ってるくらいの超有名企業だが、そんな会社の株主総会にコイツが出席するだって?一体どれだけのノスフェラトスが人間社会にどれだけ馴染んでいるのかわからなかったが、とにかくシャーロットは自分でそこに現れると宣言した。
シャーロットは続ける。
「お前にもその会に出てもらう。そこでボクの首を狙おうが構わない。まぁだけど株主総会中に騒ぐのだけはやめてくれよ?ボクのメンツもあるからな。」
コイツは自分を殺しに来る相手をわざわざ招待するってのか?罠でないとも限らないが、あたりに別の人間も大勢いる中で奴も問題ごとは起こしにくいはずだ。とにかくその会議に出席してみるのは相手の内情を探るにはよさそうだ。
「わかった。出席する。お前の考えてることは知らないが、必ず殺しに行く。」
「キッヒヒー!!だと思ったよ。待ってるぜい。」
ポンと通話が切れる音がスマホから聞こえると、黒崎が近づいてくる。
「このあとすぐに行ってもいいそうだ。準備はいいか?」
はい いいえ の選択肢が出てきそうな質問をされてるが、もしいいえを選んだらどんなセリフになるのだろう。どうせ「いいえ」を選んでも永遠にセリフがループしそうなので、「はい」を選ぶことにした。