生存者
「えぇ。会いました。」
「おぉ・・・よくぞ生きていたもんだ。」
「さっきお医者様と話してた通りですよ。つーか俺ってやっぱ稀なケースなんですね。」
このひともノスフェラトスのことは多少なりとも知っているようだが、俺が生き延びたことはそこまで驚いてなさそうだ。続けて患者は言った。
「さっき医者が言ってただろ、生き延びたのはアンタだけじゃない。」
ということはつまり、この男もそうだということか?予想は当たっていた。
「俺もなんだよ。」
やはりそうだった。どうりで状況整理が早いわけだ。つまりこの病室にはノスフェラトスの襲撃にあって生き延びた類稀なる人材が二人も存在することになる。
この男は仲間だという意識かいろいろと話し始めた。岡崎銀二という名前、45歳。妻と娘がいたがノスフェラトスの襲撃で亡くなったこと。家族を失ったときに深く悲しんだこと。それでも俺という存在がいたおかげで少し元気が出たこと。
そして俺も自分のことを話した。そうしてるうちにすぐにこの中年の男性と打ち解けていった。なんせ境遇や家族を失った悲しみがすぐに理解できたからだ。互いの話の最中に涙を流したことは言うまでもない。俺はあのノスフェラトスに襲われたことを話した。
「えぇ、ノスフェラトスに襲われて、契約?を持ちかけられました。」
「そ、そいつは本当か!?」
「本当です。だけどなんのことだか全然わかりませんでした。」
そのとき、男の目の色が少し変わった。
さっき飲んだ薬が効いてきたのか、痛み止めか何かが効かなくなってきたのか右手がジリジリと熱くなる。紋章のことは恥ずかしかったし、夢で見た銃のことは夢の中のことだったので話さなかった。
が、男は周りの目を気にしながら小さな声であのよ・・・と言うとこう告げた。
「なんか妙じゃないか?奴らに襲われて生き延びた運のいい男が二人・・・同じ部屋に監禁状態だ。」
監禁状態という表現は少々オーバーかと思ったが、人の目がつく場所で、なんなら身体検査が合法的にできる場所という点では監視されているという状態だとも言えなくない。
「俺は正直、ココと奴らはグルだと思ってんだ。」
「まさかそんな・・・。話が出来すぎてるんじゃ・・・。」
「だが奴らの襲撃を一度かわしているんだぞ。裏にどんな組織があるかはわからんが警戒するに越したことはねぇ。」
一理ある。シャーロットと名乗った女ノスフェラトスは「自分を殺しに来い」とは言ったが、向こうから手を出さないとは言ってない。俺はこの銀二という男の言うことを信じることにした。
「ここだとどこまで話を聞かれてるかわからねぇ。人目のつかねぇとこに移動しよう。」
そうして二人で肩を担ぐフリをしながら屋上に移動した。