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ココロウガチ -追憶の二律背反-  作者: 凪雨タクヤ
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キヲクの引き出し倉庫

ココはどこだろう。

まるで記憶をなくしたかのような質問を自分に問いかける。

知っている。俺はこの場所を知っている。誰よりもこの場所を知っているかのように見えて、実はわからなかったりする場所。


僕の夢の中だ。

思い出といってもいい。

霧のようにモヤがかかっているが、ここは大量の”引き出し”が眠っている図書館のような場所。

いわば引き出し倉庫だ。


「今日も来たんだね!!ナギトちゃん!!」

「いい加減その”ちゃん”ってのやめてくんない?女の子みたいじゃないか。」


この空間に似つかない甲高い声が響く。

コイツはロロ。俺の脳内世界を司る存在だ。

髪は胴体よりも長いが空中に浮遊したまま移動するから伸ばしっぱなしで、髪には色がついていない。

かわりにジェームズウェッブ望遠鏡でとった写真のように宇宙空間の映像というかヴィジョンが流れている。目は片方はポップな丸が色鮮やかな光彩になっていて、もう片方が黒や赤のペンキで殴り描きしたように×を表現してる。服装はところどころはだけているが、魔女を彷彿とさせる印象だ。


「もぉ~可愛いナギトちゃんってば。冗談きつぅ~い!ナギトちゃんの股間にあんなキタナイモノがついてるわけないもの!」

「ちゃんとついてるよご立派なのが!両親にもらった生命の神秘が!」


コイツには正直遠慮はいらない。自分の心をすべて見透かされてるようなものだからだ。

生活してる上でのこだわり、大学のカリキュラムから性癖までこと細かく知られている。

ただ、コイツでも見れない部分はある。

この”キヲクの引き出し倉庫”内の鍵のかかった引き出しや扉だ。

ロロが鍵を持っている部分は、もちろん自由に中を見れるが、ロロが鍵を持っていない引き出しは俺しかみることができない。さらに言うと、<俺でさえ空けられない引き出しや扉>だってある。それだけしんどかった、思い出したくないキヲクなんだろう。


「今日の出来事、鍵つけなくていいの?ハッキリ覚えちゃったね。」

母さんが死んだ。しかも殺されてたんだ。人生の上では2度とない経験だし、悲しみの度合いでいえばこれに勝るものはほぼないといってもいい。


「だけど、母さんのこと、ちゃんと覚えておきたいんだ・・・。」


どれだけ悲惨な最期だったとしても、その人物の、家族の最期だ。辛くても覚えておきたいという想いがあった。

しょんぼりした表情を一瞬したが、気を取り直したように大げさに動いて引き出しを一つ空けた。

「私は夢の妖精ロロ!!アナタの夢をサポートするね☆」

わざとらしく台詞をならべて中のものを取り出す。


そこには『未完成のプラモデル』があった。

フェラーリF40の未開封のプラモデルだ。

この引き出しにはキヲクや思い出は「モノ」として貯蓄されている。


プラモデルからは、母さんの匂いがした。それを感じ取ったとき、自然と涙がこぼれ出た。

「あぁ・・・母さんの匂いだ・・・。」

夢の中だが、涙交じりに言葉を発する。

亡くなった人のことは声などの音から忘れていくというが、逆に匂いなど嗅覚で覚えている記憶は鮮烈に残る。この匂いは、母さんを亡くした俺にとっては少し酷だった。


「お母さんに買ってもらったの??」

そう。母さんに買ってもらった。

顔も知らない父さんのことを聞いたとき、車が好きだったという話を聞いて、特にお気に入りだったというフェラーリF40のプラモデルを買ってもらった。でもこれを母さんに一緒に組み立てたいと伝えたら、日曜日を一日かけちゃうけどいい?と聞かれて「なら母さんと一緒に遊びたい!!」と答えてそのまま組み立てなかったのだ。未開封の箱を抱きしめて、めいっぱい泣く。泣いて泣いて、この図書館を水浸しにして、最後は自分もろとも水に沈む。


「お母さんのこと大好きだったんだね。」

「あぁ、俺は母さんが好きだ。忘れられない。」

「また会いたい?」

「いいや、俺は母さんの死を受け入れる。母さんが生きた何倍も俺は生きる。」


ロロは、強いねナギトちゃんはというと引き出しを閉じた。


先ほどとは違って明るく振る舞うロロ。

「ねえナギトちゃん!!今日から夢の世界もしっかり管理だよ☆」

元気付けようとしてくれてるのかわからないが、それでも励ましてくれる行為は元気が出る。

「どうしたんだ急に。」

少し笑みを浮かべて答える。

「あっ!!ちょっと笑った☆我、即ち喜ブ也や!!」

なんで漢文調なんだ。でもそんなたわいない笑いも嫌いじゃない。


「で?夢の世界の管理ってなんだよ?」

「私がこの夢を案内するから、しっかり大切なことを覚えたり、思いだそ☆お母さんのことも!!」

もちろんだ。母さんのことは忘れない。

「こーんなステキな"力"も☆」

ロロが手を向けて指し示す方を見た。


それを見たとき、俺の感情は真っ白な疑念とドス黒い不気味さとを混ぜたようになった。


- 銃 だ。 -


銀色のスライドと青をイントネーションにあしらったボディ、グリップが茶色のスラブバレルリボルバー拳銃が宙に固定されていた。

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