茶花アゲハ
寝起きで調子が悪い。
身体に鉄の棒が差し込まれたような重たさを覚えながら体を起こす。
「今日はえぇと・・・?」
日付を見ると9月19日。
あの事件からたった5日ほどしか経っていない。
いろいろありすぎだろ。母さんが死んでバカ吸血鬼に噛まれてマッシュ栗優男に公安に入れられて・・・。さきほど見たじいちゃんの夢の方がよっぽど現実味がある。
あれほどの大冒険があったのに今日は、そう、大学だ。
普通、この上なく。
あれほどの大冒険があったのに。
俺は手に取った英語や経済の資料を鞄に放り込んで家を出る。
振り返るとそこには俺の家があった。
白い外壁の小さな家は、前よりもやたらと大きく寂しく見えた。
右手の紋章は消えている。
銃を取りだすと発現するようだ。随分便利だな。大学で中二病だなんて馬鹿にされる心配はない。
まぁ正直大学生にもなって他人の見た目に文句言う奴はいない。この年齢になると割といろんな人を見てきているのでさほど驚かない。
大学について授業を受ける。
勉強はできるほうだ。受験勉強も皆ほど頑張らなかったし、頑張る気もなかったけどそこそこの大学に入れたし、学んでいることも嫌いじゃない。
知り合い程度の友人と軽く挨拶をする。たわいない話をする。
たまに俺の事件のことが話題になる。
俺は、知らない。と答える。もしくは自分じゃなくてよかったと話す。
紛れもなく当事者であり被害者であるのだけれども。
昼の時間にカフェでくつろいでいると、一人の女子が話しかけてきた。
「榊くん。お疲れ。あのニュース見た?」
コイツは茶花アゲハ。
長い黒髪を後ろで結んでメガネをしている。肌は白い。
一見書道やら弓道やらを極めている日本女子ってイメージを持つが、本人はそこまで和のものやらわびさび的なことに興味はなく、今風の音楽やらゲームやらを楽しんでいるほうがよっぽどキャラにあっているのだとか。
ハキハキしているので絡みやすいし、大学デビューを謳歌している女子たちと違って落ち着いているというか冷静な狼みたいなので不快感がない。
「見た。というか気づいてんだろ。あれ俺んちだよ。」
「やっぱりね。見たことあると思った。じゃあお母様亡くなられたのね。」
「うん・・・実感ないけど。」
「ごめんね辛いこと聞いちゃって。」
辛いことを聞いているという割には声に迷いがないし、なんなら知ってたのに一言目から聞いて来ている。しかしその割り切った接し方は逆に気を遣わさないし、気を使わなくて良いので楽だ。
「悪いと思ってるなら慰めてくれるかね。なんか奢るとか。」
「そんな驕り高ぶったことは私にはできません。そんなことより伊藤くんたちも呼んで調べものをしたいの。付き合って。」
「調べもの?」
「ええ、なんでも心や記憶を奪うような物質についての資料。」
「なんだって・・・?」
このタイミングで大学の友人からココロウガチに関するような資料の話?タイミングが良すぎる。
けど、藁にもすがるような思いで情報が欲しい。超常的な話題が好きという顔でついて行こう。
「おけ、俺も行く。面白そう。」
「そう来ると思った。資料は森川教授の研究室にあるらしいの。今日の最終講義が終わったら研究室に寄るつもり。」
「分かった。」
そうして俺たちは放課後の活動の約束をした。
ちなみに伊藤くんは普通の大学生だ。




