彼の夏休みが始まらない
第五章です。よろしくお願いします。
文化祭が終わり、梓山高校は夏休みへと突入した。
他の長期休みと比べても何故だか夏休みは特別感が強い。単純に他の休みより長いというのが理由にあるだろう。
そういえば夏休みというのは地域によって日数にばらつきがあり、一番長いところと一番短いところではおよそ20日間の違いがあるらしい。その休みは別のところで取り返しているらしい。学生にとっては舐めてるんかという話だ。なぜなら夏といえばレジャーの季節。夏休みは行われるイベントも盛り沢山で、この時こそ休みたいに決まっている。なのに、夏休みは短いけど一年を通してみれば休みの数は一緒だといわれるのはちゃんちゃらおかしいというものだ。
そして教師は言うのだ、大事なのは長さじゃなくて短い時間をいかに充実して過ごすかだぞ、と。
ふざけるな……
ふざけるなよ……!
だからって、だからって……!
夏休みのほとんどを部活で潰すことはないだろうが……!何を充実させてるんだ!時間があるから練習メニューが充実しただけじゃないか!部活だけが青春だと思うなよ!こちとらもともとエンジョイ勢なのに……。てー〇ゅう見て入っただけなのに……。
中学時代、オレの夏休みは一、二年生では部活に潰された。お盆休み以外はほとんど練習だった。そんなに強くない部活なのに夏だけ張り切りやがって、と顧問に呪詛を吐きながら炎天下の下で部活に励んだものだ。救いはテニス自体が楽しかったことと、上手くなっているという自覚があってレベル上げみたいで気持ちよかったぐらいか。
そして三年生では皆もそうだろうが、受験勉強と山籠りで終わってしまった。夏休みの計画を立ててコツコツと勉強を進めたものだ。ん?山籠りが何か?いや、だって、中3の夏だよ?マンネリ化防止のために、そろそろ修行パートかなと思って。
そんな灰色の夏休みを過ごしたオレは高校では必ず薔薇色の夏休みを過ごすことを決意した。オレの失われし青春を取り戻すのだ。
高校生にとって夏休みは遊ぶためにあると言っていいだろう。アニメを見てくれ、やけに高校生たちは夏休みをずっと遊んで過ごしているんだから。これはもう世界の真理と言っていい。
そしてオレの決意はもうすぐ成就する。オレの夢が現実となる手前まで来ている。なんせ今年のオレには友達がいるのだから。
でも竜胆はオレたちと違い運動部な訳だから部活があるかもしれないな。なお、オレたちの部活は海神先輩の一存により、夏休み中は部活はなしだ。
それでも竜胆にだって少しぐらいはオフの日はあるだろう。それを信じて、オレは遊びに誘うことにしよう。そういえば、唯織や華恋からももう遊びに誘われたな。バイトもあるし、本当にこの夏休みは充実したものになりそうだ。しっかりと計画を立てて遊ばなければ。
海やプール、キャンプ、BBQ、花火、お祭り、エンドレスなエイトのフル視聴、etc。夏休みといえばこれだけのイベントが思いつく。この全てができるとはとても思えないが、今からワクワクが止まらない。
さてそんな夏休みに対して期待に胸を膨らませるオレは、現在、山の中の施設で勉強していた。
………………。
「グスッ、グス、こんなの嘘だ……嘘だと言ってよバーニィ」
「うるせぇよ。黙って勉強しろ」
夏休み一発目のイベントは、学校主催の勉強合宿であった。
おかしいな。たしか終業式やって、担任の先生も明日から夏休みですねと言っていたはずなのだが、その明日になったら、オレは学校で他の生徒と一緒にバスに詰め込まれて、山の中の宿泊施設へとドナドナされていた。
……詐欺じゃん!夏休みじゃないじゃん!なんでこの勉強合宿は夏休みのイベント面しているのだろうか。もうこの合宿まで登校日にしてくれよ!
「オレは何でこんな監獄にいるんだろうな……」
「……やめてくれ。勉強する手を止めたくなる」
「それは真実だからだろ」
真実は時に鋭利な刃物になってオレたちを襲う。
ここは本当に監獄と言っていいだろう。山の中なので近くにお店とかは何もない。地図を見てみたが、コンビニすらなかった。
そして徹底的に管理されたスケジュール。朝起きて勉強して朝食、勉強、昼食、勉強、夕食、お風呂、自由時間(という名の自習時間)、就寝。勉強に殺される……!三年生の夏休みの練習らしい。三年生の受験勉強はだいたいこのぐらい勉強しているとか何とか。いやだな、先生、人間そんな勉強できるわけ……なんて曇りのない瞳!
ひたすら出された課題をやっていく。課題にはノルマがあり、そのノルマができないと夏休みの宿題となる。え?高校って宿題無いの!?ひゃっほい!とか言ってた自分が恨めしい。ちなみに課題はノルマ以上に用意されている。先生たちの絶対勉強させるんだという強い意思を感じる。
なのでオレは泣きながらも勉強を進めるのであった。
「君、大丈夫かい。具合でも悪いのかい」
そんな風に勉強をしていたら、確か他のクラスの担任の先生である小太りでメガネの先生が声をかけてきた。
「安藤先生……勉強がしたくないです……」
「……最後まで勉強しなくちゃいかん。諦めたらそこで夏休み終了ですよ」
それは嫌だ~。
問題ないと判断したのか安藤先生はのっしのっしと見回りに戻っていく。
ちなみに高校生の暇つぶしアイテムであるスマホは勉強時間以外は触ることを許可されている。まあ、Wi-Fiなんてものは飛んでいないが。パスワードがわからなくて繋がらないのではない、本当にWi-Fiが飛んでいないのだ。今時そんなところがあることが驚きだ。先生たちもパソコンに有線LANを繋いでいる。すごいよだってさっきスマホを開いたら3Gだったから。あと部屋にはもちろんテレビもない。あるのは机とベッドだけ。本当に監獄だと思う。
それになにより。
オレは軽く伸びをしつつ、辺りを見渡す。大部屋で一クラス分の人が一緒に勉強に励んでいる。隣の席には小島。そして周りの席は男子、男子、男子、男子……。どこまでいっても男子だらけ。
カンのいい諸君ならお気づきだろう。
女子がいないのだ。
そうこの合宿で男子と女子は隔離されているのだ。
そもそも過ごす建物が違う。女子は隣の建物で勉強して、宿泊する。唯一一緒になるところは食堂だけだ。しかしそこでもテーブルでしっかり女子と男子が分けられている。ゆえに話すこともできない。また課題がやけに難しいため、男子同士でも喋ることと言ったら勉強のことばかり。食事もご飯を食べるというより、もはや栄養を摂取するに近い。
そしてもちろんレクリエーションの類は一切ない。
男子と女子で過ごす場所さえ違い、交流することもなく、完璧に隙なく計画されたスケジュール、することといったら勉強ばかり。こんな合宿、ラブコメ作品だったら怒られること間違いないだろう。
「こんな監獄、脱獄してやる……」
「明日帰るんだからいいだろ。というか早く課題やらないと宿題になるぞ」
「あ、オレはもうノルマ終わってるから」
「てめぇ」
どうどう。落ち着け小島。勉強中にうるさくして悪かったよ。教えてあげるから、許してくれ。
まあ、とにかくオレはこれを夏休みとは認めない。
オレたちの夏休みはこれからだ……!
日下部宗介過去偏 彼は山で忍者と出会う 乞うご期待!(嘘)




