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女友達がこんなに可愛い(仮)  作者: シュガー後輩
第四章 文化祭がこんなに楽しい
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彼は先輩と打ち合わせする

 ごしごしと手を洗う。石鹸を使い指の間、爪の間、腕も忘れずに洗っていく。ペーパータオルで水滴をしっかりと取ると、オレは使い捨ての手袋をきゅっとはめた。手をグーパーしてしっかりと着用できているか確かめる。


 よし。オレは両手を体の前で掲げたまま先輩のベッドの横に移動する。


 「オペを始めます」


 「チェンジで」


 「そんなサービスはありません」


 「嫌だ。ヤブ医者は嫌だ」


 「大丈夫ですよ。絶対に治してみせます。それに世界で一番腕のいい医者も無免許です」


 「彼はヤブ医者ではないだろう」


 「確かに」


 ふざけるのはそこまでにして、オレは椅子に座ると、リンゴの皮をむき始めた。リンゴを回転させながらシュルシュルと剥いていく。


 「それで結局、現実問題どうなんですか」


 「何がだい?」


 「いや、けしかけておいて今更なんですが、舞台上で倒れられるのも、それはそれで困るなと思いまして」


 「本当に今更だね」


 先輩は少し考えてからゆっくりと話し始めた。


 「……私がこうなってからずっと考えていた。この状況をどうするかを。普通に考えれば、代役を立てるべきなんだろうな」


 「まあ、そうですね」


 「だが、その選択肢はさっき無くなった。そこでだ」


 先輩は人差し指を顔の前に持ってくると目を閉じる。やけに芝居がかった動きだ。そしてかっと目を開く。


 「二人一役で臨む!」


 「二人一役で?」


 「そうだ。この劇はざっくり3つの部分に分かれる。まず白雪姫が毒リンゴをたべるまで。次に王子登場から白雪姫が目覚めるまで。そして王子と白雪姫が一緒に魔女を倒してハッピーエンドに辿り着くまでだ。この中で一番今の私にはきついのは最初の部分だ。セリフが多く何より滅茶苦茶動くからね。つまりはこの部分を他の人に演じてもらう」


 「なるほど。つまり先輩はきつい所を他の人に回して美味しい所だけ持っていこうということですね」


 「なんでそういう言い方するんだい!?」


 「すみません。端的にまとめようと思いまして。他意はないですよ。あ、リンゴ食べます?」


 「食べるけどさ」


 オレはフォークに刺したリンゴを手渡す。切り終えたリンゴもサイドチェストに紙皿を置いて盛り付ける。


 「むう、こんなすごく良い感じのシチュエーションなのに、どうして相手が君なんだろうか」


 「そりゃ、先輩がかっこつけて風邪を引いていることを隠したからでしょ」


 オレだって百瀬先輩とかが先輩を看病している光景が見たかったですー。ぶすっとしながらリンゴをシャクシャクと雑にかじる先輩。そんな感じの先輩は初めて見た気がする。いつも先輩は先輩らしかったからな。


 ごくんとリンゴを飲み込むと先輩は再び喋り始める。


 「……後輩くん。君に頼みがあるんだ」


 「何ですか?」


 「二人一役の相手を君に頼みたい」


 「オレに?」


 「ああ」


 どうやら冗談ではないらしい。先輩はオレの目を真剣に見つめている。口元にリンゴのカケラが付いているけど。オレは無言で自分の頬をとんとんと叩く。先輩は頬に手を当て、カケラを取って食べると何事もなかったように話し始めた。熱で感覚が鈍化しているのだろうか。


 「ごほん。とにかくこんなギリギリでこんなことを頼んでやってくれのは、頼まれてできるのは君しか私の知り合いにはいない。君のそのバカみたいな舞台度胸だけが頼りなんだ。頼む、君の無駄に意外にもハイスペックなところを見せてくれ」


 「ちゃんと頼む気あります?」


 ちょいちょい気になるワードがでてきたよ。


 「いいですよ。元々今日は先輩の言うことを何でも言うことを聞く気でしたから。ただし失敗するかも知れませんが」


 「あ、ありがとう!」


 急にステージに上がることになってしまった。やれやれ萎縮しちゃうぜ。ステージに上がるなんていつぶりだろうな〜


 「とりあえず衣装とかを協力してほしいので森川先輩に事情を話しますよ。いいですか?」 


 「ああ、大丈夫だ。苺ちゃんの口は固い。何故なら服以外に興味がないから」


 酷い評価だ。


 「それとこれが台本だ。私はもう覚えているから必要ない。持っていてもらっても構わない」


 そう言って先輩は紙台本をオレに差し出してくる。


 「いえ、台本を見ていて家庭科部の先輩がたにバレても困りますし、スマホで写真撮らせてもらいますね」


 オレは台本をペラペラとめくりながら1ページずつ写真を撮っていく。その途中ピタリと手を止めた。


 「先輩。これ途中、歌いながらとかあるんですが」


 「…………」


 「おい先輩、こっち向け」


 「……悪ノリの結果だ」


 「これだから高校生は!」


 普通に演技するより、難易度が上がってるじゃん。救いがあるとすれば裏声でもそれなりに歌うことができるということか。


 「その、後輩くん。もう一つ頼みがあるんだが……」


 「何ですか?」


 「今日家庭科部の方の当番があるんだ」


 「そんなことですか。代わって欲しいんですよね?代わりますよ。何時からですか」


 「10分後から……6時間ほど」


 「……シフト長くないですか?」


 「ふっ、部活のみんなには文化祭を楽しんで欲しかったからね」


 「部長の鑑!でも現状が酷い!」


 てか、もう時間がない。すぐに家庭科部に行かなければ。


 「じゃあ、オレはもう行きますから。先輩はシフトを代わることを何とか誤魔化しておいてくださいよ」


 「任せてくれ私の口説きテクを見せてやる」 


 今、別にいらないテクニック!口説く必要はないよね?


 「あと食後に薬を飲むんですよ」


 「はぁい。ママ」


 「あったかくして寝るざますよ!」


 オレは台本をを置くとリュックを背負って立ち上がる。


 「後輩くん」


 「今度は何ですか?世界でも救えばいいですか?」


 「何でそこまでしてくれるんだい」


  今、それ聞くことか。どうでも良くない?


 「オレは自分の言葉に責任を持つタイプなんですよ。すごく真面目なんですよ」


 「それはボケかい?」


 黙って聞けい。


 「だから百瀬先輩の師匠を名乗ったから、弟子の舞台のために全力を尽くします。先輩に仕事をいくらでも手伝うと言ったから、文字通りいくらでも手伝いますよ」


 オレはキメ顔でそう言った。


 「…………そうかい。自分の言葉に責任を持つか……すると君はさっき言った通り私を絶対に治してくれるということかい」


 「あ、前言撤回します。やっぱり責任持てないです」


 「おい」


 いや、だってさっきのは冗談じゃーん。折角カッコつけたのに重箱の隅を突くようなことを言わないで欲しいですわ。


 オレはキメ顔を崩して先輩に背を向けると、そのまま保健室から出て行く。


 ドアを閉める瞬間だった。


 「…………………………日下部宗介くん。本当にありがとう……!」


 「…………」


 オレは後ろ向きのまま保健室のドアを閉めた。


 海神先輩。助けるのは当たり前なんですよ。


 風邪の原因は文化祭前日にオレたちを助けにきてくれたからでしょう?百瀬先輩のためだっただろうし、実際には助けは必要なかった。でも先輩に助けを求めたのはオレたちで、ちゃんと先輩は来てくれたのだ。


 恩には恩で返しますよ。だってオレが好きなものはそういう優しい世界なのだから。いくら適当なことを普段喋ろうが、オタクは好きなものには決して嘘をつかないのだから。



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