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女友達がこんなに可愛い(仮)  作者: シュガー後輩
第四章 文化祭がこんなに楽しい
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彼は先輩に喝をいれる

 文化祭2日目開始


 文化祭の2日目が訪れた。昨日の文化祭の出来は大変素晴らしいものだっただろう。オレは文化祭1日目を全力で楽しんだという自負があった。だってあんなに忙しかったんだから。ものすごいハードスケジュールで動いていた気がした。


 「あ、おはよう」


 「おはよう」


 「おう、おはよう」


 クラスの前に着くとアリアと竜胆はもう着いていて廊下に立っていた。別に怒られて立たされているわけではない。文化祭中は教室はお化け屋敷になっているので、ロッカーに荷物だけ置いてみんなこうして廊下で喋っているのだ。


 オレも二人の横に立つと背負っていたリュックを置いた。


 「荷物を教室に置きに行かないの?」


 「いいんだ、直ぐ使うからな」


 正確には使うかどうかはわからないが、使うとしたら直ぐだ。アリアはオレの回答に納得したのかはたまた興味がないのか、うなずくと竜胆との会話に戻った。


 「ねぇりんちゃん。今日はどうしようか?」


 「そうね。昨日で随分他のクラスの出し物は回ってしまったし……今日は体育館に行ってもいいかもしれないわね」


 「そうだね〜今日は海神先輩のクラスの劇があるから、それは見たいかな〜」


 「劇ね。アリアは大丈夫?」


 「何が?」


 「だっていつも劇なんて観ても眠るだけじゃない」


 「それは小学生の時の話でしょ!」


 「嘘ね。中学生の時も綺麗な顔して寝てたわよ」


 「それは、だって、役者さんは凄いけど、内容が古くてつまらないんだもん!」


 「あれは全部名作よ。たしかに作られたのは少し古いけども」


 「宗介くんだって、学校で見せられた演劇なんて覚えてないよ!」


 「アリア、それ以上酷い発言をするのやめなさいね。日下部くんだって意外にも学校行事には真面目よ……日下部くん?」


 「ん?ああ2.5次元舞台って何で男性向けが少ないんだろうな」


 「「そんなこと言ってないよ(わ)」」


 言ってなかった?


 だけど本当に何で男性向けのが少ないんだろうな。ラブ◯イブのリアルのライブとかも好評だから、やったら何とかなるのではないか。知らんけど。いや、もしかしたら女性向けが目立っているだけで、それなりに男性向けに作品もやっているのだろうか。ちょっと2.5次元は範囲外なので知らんけど。


 どうでもいいが、2.5次元って表現すごくかっこいいよね。よし、2.5次元の沼に落ちた人には次元の狭間の漂流者という称号を与えようじゃないか。


 ピンポンパンポン


 『只今より梓山祭2日目を始めます。皆さん節度を守って狂騒の祭を始めましょう』


 「始まったねー」


 「アナウンスの癖が強いな」


 放送委員のセンスがすごい。


 さてと。オレはリュックを背負う。


 「んじゃ、オレちょっと行く所があるので」


 「あ、そうなんだ……じゃあまた合流しようね」


 「相変わらず忙しないわね」


 「ああ、今日も全力で楽しむと決めているからな」


 オレは2人に手を振ると、目的の場所へと歩き始めた。お祭りの喧騒から離れるように。



 ***


 オレは教室のドアを軽くノックしてからゆっくりとドアを開ける。

 

 誰もいないようだ。


 いや、やはりいる。人の気配がする。オレは抜き足差し足忍び足でゆっくりと気配にむかって移動する。


 「先生ですか?」


 速攻でバレた。未熟すぎるぞオレ。研鑽を積まなければ。


 「すみません。今日もベッドを貸してもらっています」


 「あ、先輩、オレです。日下部です」


 「……え!日下部くん!……ッゴホッゴホッ!」


 「もうそんなに興奮しないでくださいよ。入ってもいいですか?」


 「……どうぞ」


 オレはベッドの周りのカーテンを開く。


 ここは学校の保健室。そのベッドには海神先輩が寝ていた。綺麗な髪が放射状にベッドに広がっている。


 オレは近くの椅子を引っ張ってきて座る。


 「それで後輩くんは何しに来たんだい。それにどうしてここに私がいると?誰にも言っていないのに」


 「ふっ、簡単な推理ですよワトソンくん」


 「ごめん。今日はツッコむ気力はないから、あんまりボケないでくれるかい」


 「ボケてないんですが」


 「え?今のが?じゃあ頭がボケてるね」


 失礼な。「簡単な推理」には必ず「ワトソンくん」が付属するのだ。まあそれは兎も角。


 「オレは昨日先輩を一度も見かけませんでしたからね」


 ずっと文化祭デートをしている先輩方を探していたのに。


 「だけど、家庭科部の皆さんは特に変わりなく、文化祭を楽しんでいました。つまりは登校はしていて、仕事が忙しいとか何とか言って先輩たちと別行動していることがわかります。そして昨日オレはこの学校で生徒が入れる場所全てに行きました。ここ保健室を除いてですが。だから先輩は保健室にいることがわかりました」


 「何か怖いよ後輩くん」


 「それに何よりお約束なんですよ」


 「お約束?」


 「ええ、こういう文化祭本番の大事なところで風邪をひくことはね。だから簡単にわかりましたよ」


 「……あはは。相変わらず思考回路がフィクション寄りだよね」


 笑いも少しぎこちない。おでこに手の甲を当てながら、少し咳まじりの笑い声をあげる。真面目に具合が悪いようだ。


 「あ、そうだお見舞い持ってきたんですよ」


 「気をつかってもらってすまんね」


 ベッドわきのチェストにお見舞いの品を置いていく。スポーツドリンク、ゼリー飲料、蜜柑ゼリー、りんご、冷却シート、解熱剤、咳止め、のど飴、ネギ、生姜、にんにく。


 「多い多い多い。あと最後の3つはいらない」


 「やっぱり」


 前もスタミナ丼いらないって言われたんだよな。量が多いからかと思ったが、どうやらそういう問題ではないらしい。


 「でもネギは首にも巻けるんですよ?」


 「巻かないよ」


 「賄い用?わかりました。後で調理して家庭科部にでも持っていきますね」


 「それはお好きにしてくれ。とりあえず冷却シートと飲み物を貰えないかい」


 「へい」


 オレは起き上がった先輩に、蓋を開けた飲み物と封を開けた冷却シートを渡す。


 先輩は冷却シートをおでこと首に貼ると、スポーツドリンクをごくごくと飲んでいく。首には汗が滲んでいる。


 オレはリュックに入ったクーラーバックから冷やしたタオルを渡す。


 「あ、ありがとう……至れり尽くせりすぎて怖いんだが」


 一体何をそんな警戒しているのだろうか。オレはただ純粋に早く先輩には治してほしいだけなのに。オレは先輩を安心させるように笑みを浮かべて話す。


 「それで調子はどうですか?劇で主演ははれそうなんですか?」


 「……どうだろうね。みんなに心配かけないように来たのはいいが、正直きつい。熱も全然下がらなくてね」


 顔も真っ赤で本当にきつそうな先輩。これでよくクラスではバレなかったものだ。


 「そうですか。でも先輩には劇に必ず出てもらいます」


 「へ」


 驚いた声をだすような先輩。何か優しい言葉でもかけて欲しかったのだろうか。そういうのはオレに求めないで、彼女さんにお願いしてほしい。


 「百瀬先輩は頑張って劇の練習してましたよ。それは先輩も知っているでしょう。それもこれも全部先輩と一緒に劇に出るためです」


 「……そうだね」


 「だから先輩には劇に出る義務があります」


 「わかってるさ」


 無言でタオルを握り、俯く先輩。かすかに聞こえる笑い声はどこか別世界の出来事のようだった。


 「きついですか?できないですか?先輩への彼女たちの愛はその程度なんですか?」


 そういう問題ではないことはわかっている。でも気持ちが弱っていると治るものも治らない。とにかく強い気持ちを持ってほしかった。


 カチコチと時計の針の音が聞こえてくる。どれくらい時間がたっただろうか。


 先輩はふぅーと息をはいた。そしてこちらを見据える。その目にはさっきまでになかった強い光がともっていた。


 「後輩くん」


 「何ですか」


 「あまり私を挑発してくれるな。病人だというのに愛の力で私の体の熱がさらに上がってしまうだろうに」


 ふんと鼻息を荒くそう言って。胸を張る。虚勢、空元気でもそれで十分だ。先輩にその意気があるならオレにもできることはある。


 オレは笑ってこう言った。


 「ま、今は劇まで時間がありますし、休んでたらどうですか?」


 「がくっ。君が薪をくべたんだろうが。この熱量をどこに持って行けと言うんだ」


 「風邪を治すことにじゃないですか」


 先輩は今日、初めて愛想笑いではない笑みをうかべた。



蛇足 この話のオチに使おうとしたやつ。でも見ての通りあそこで話がひと段落しているためまさに蛇足。









 そういえばまだお見舞いの品を持ってきていたんだった。前回、アリアの時は不評だったものだが、そんなわけない。アリアの方が少数派だと思い、再度チャレンジ。


 「まだお見舞いの品があるんでした」


 「本当に悪いね」


 「どうぞ」


 そう言ってオレはコミック百〇姫を献上した。


 「これはもう読んだからいいや」


 「しまった!その可能性があったか!」

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― 新着の感想 ―
 一応、たしか男性向け……の筈だけと、そちら様方の需要もあるのでしょうか。
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