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女友達がこんなに可愛い(仮)  作者: シュガー後輩
第四章 文化祭がこんなに楽しい
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彼はお化け屋敷の宣伝をする

 夏の暑さを慮った竜胆から氷の差し入れを頂いてから、オレは唯織と昼食をとった。


 昼食はこれぞ屋台の味!という感じで大変良かったです。それにしても調子に乗って食べすぎた感じはするな。唯織の食が細い方なので、オレが大半を食べてしまった。


 身体に悪い?大丈夫。だって美味しかったから。つまりは身体が求めているということ。身体が求めているものが身体に悪いわけない。まさか身体に悪いものを喜んで摂取するほど人体はバカじゃないだろう。だから今の食事は実質カロリーゼロ。


 昼食後、オレは今度はクラスの仕事をしなければいなかったので、お化け屋敷へと向かった。


 唯織もついてきていたのだが、途中森川先輩や百瀬先輩たちを含む家庭科部の人の波に巻き込まれると、波が引いた時にはいなくなっていた。


 む?唯織からメールが。


 『かゆい

  うま』


 人の波だと思ったが、どうやらさっきのはゾンビの群れだったらしい。もう助かりそうもないので、放っておくことにしよう。まあ、まだまだボケれる余裕があるようだしな。


 お化け屋敷に着くとわりかし盛況であった。3クラス合同でやると、うまく回転するかなと思っていたが、連絡を取りあいながら、うまいことお客さんを入れているようだった。


 オレの仕事は前にも言ったが宣伝だ。さて用意された衣装に着替えて……


 ふむ。


 着替え終わった姿を窓に映しててみる。雑に黒い目が書かれた白いシーツを被ったオレがいる。小学校低学年のハロウィンのコスプレのようだ。高校生らしいところといえば、ただシーツを被っているわけではない所ぐらいか。ヘルメットにシーツを被せて接着し、そのヘルメットを着用することで、オレの目とシーツに開けた目の穴の位置がずれないようにしてあるようだ。視界はめちゃくちゃ狭いが。あと手の穴もないし。


 オレは抱えるようにお化け屋敷の看板を持つと、校舎中を恐怖のどん底に落とすべく行動を開始した。


 「こ、これは!?」


 オレは歩き始めてから直ぐに立ち止まる。


 学園祭中には壁などにポスターが貼られている。各出し物やイベントなどのだ。


 オレはその一つに心を奪われていた。オレはお化けの中でニヤリと笑みを浮かべた。



 ***



 「全く先輩と日下部くんには困ったものよ」


 「あはははは」


 「笑いごとじゃないわよ」


 プリプリしているりんちゃんも可愛いなぁ。私は屋台の当番が終わったりんちゃんと合流すると、屋台エリアの近くのベンチに座って休憩をしていた。


 「あーん」


 私はカラフルなつぶつぶのアイスをスプーンで掬うとりんちゃんの口に近づける。


 「……あむ」


 少し照れながら、髪を耳にかけて食べてくれるりんちゃん。


 「ふふっ」


 「何?」


 「別に〜」


 こうやってると、何だか餌付けしているみたいで楽しいなってそう思っただけ。主導権をこっち側が握ってる感じも癖になりそう。そんなことを言うとあーんに答えてくれなくなるので言わないけどね。


 私は鼻歌をうたいながらアイスを掬う。


 「アリア……食べ過ぎじゃないかしら?」


 ポロりと掬っていたアイスがその容器へと落ちる。


 「そ、そうかなぁ〜」


 「そうよ。今日どれぐらい食べたか覚えている?」


 「ちょっと覚えてないかな〜」


 「唐揚げ、お好み焼き、フランクフルト、焼きそば、アメリカンドッグ、たこ焼き、わたあめ、かき氷……」


 「やめてぇ。淡々と私が食べたものを言っていくのやめてぇ……!」


 ひどい、りんちゃん。食事ハラスメントだよ。ディシュハラだ。


 「暴食は体に悪いのよ」


 「でもでも身体が求めてるんだよ?食べたいーって言ってるんだよ?だったら身体に悪いことないよ。だって体は良くないものは吐き出すようになってるんだから。つまりこれは必要な栄養素なの。だから実質カロリーゼロ!」


 ふんす。そう言いきると私はりんちゃんに何か言われる前に口につぶつぶアイスを流しこんでいく。んー冷たい!


 「……アリア、言動が日下部くんに似てきたわね」


 「ええ!うそぉ。私あんなに破天荒な言動してないよ」


 「そうね。でも言葉の選び方とか論理の展開の仕方とかがそっくりよ」


 「ええ……」


 自覚はないけど、りんちゃんが言うならそうなのかもしれない。ええーでも宗介くんの言動って可愛くないよね。


 好きな人に言動が似るってよく言うけど本当なのかなぁ。


 …………………………………………………うん。そうだよね。


 まあ、あの時からわかっていたことだけど、やっぱり私は宗介くんのことが好き、だよね。


 はぁ、弱っているところを優しくされて好きになっちゃうとか我ながら単純だ。ああ、なんか今更アプローチしたのに全然響いてなさそうなこととかなんかムカついてきた。次、あったらごめんなさいしてもらおうっと。


 だから今は置いておいて。


 「りんちゃんはさ、今日なんで宗介くんに怒ったの?」


 「え?」


 「だってさ話を聞く限り宗介くんは悪いことしてないでしょ」


 「それは……そうね。確かに日下部くんは悪いことしてないわね。少し先輩にストレスを感じていたものだから、日下部くんには八つ当たりしてしまったわね」


 もう素直じゃないなぁ。


 話を聞いた限り、怒った理由なんて一つしかないのに。でも、それは私が言うことじゃない。自分で気づくものだ。気づいた時のドキドキや、今までの全ての思い出が走馬灯のように駆け巡って一人で百面相するあの感じをりんちゃんにもぜひ体験してほしい。


 だから、私は何も言わない。私のこともりんちゃんのことも。


 「そっか。じゃあ宗介くんには謝らないとね」


 「そうね」


 「じゃあ、行こっか」


 「どこに?」


 「宗介くんを探しに。私は謝ってほしいことがあるんだよね」


 「……そう。それは見つけないとね」


 私はりんちゃんの手をとると歩き始めた。



 ***



 「いないわね」


 「本当にね。連絡しても全然既読もつかないし、あとお化け屋敷の宣伝に行ったっきりクラスの方にも帰ってないんだって」


 「ということはあのシーツのお化け姿で徘徊しているのよね。相当目立つはずだけど」


 私たちは興味ある教室に入って文化祭を楽しみながら、ついでに宗介くんも探していたのだが、影も形もない。


 結局一周して昼食を食べたベンチのところまで戻ってきてしまった。


 もしかしたらずっと動き続けているのかもしれない。おそらく宗介くんは通知票に落ち着きがありませんと書かれるタイプだし。


 すると突然声をかけられた。


 「おーい」


 そう言いながらあちらから駆けてきたのは華凛ちゃん……ではない、多分妹の華恋ちゃん。それと隣にいるのは黒崎さん。あの二人仲良かったのかな。


 それと華恋ちゃんと私たちってあんなに笑顔で近づいてこられるほど仲良かったっけ?確かテニスの試合の時に一回会ったきりだった気がするんだけど。そのあまりのコミュニケーション強者の風格に思わずりんちゃんが私の手を握りしめちゃうほどだ。 


 「こんにちわ」


 「こんにちわ!」


 おおっ、すごい輝く笑顔だ。宗介くんが毎度浄化されるというのもよくわかる。


 「えっと、宗介がどこにいるか知らないか?」


 どうやら華恋ちゃんと黒崎さんも宗介くんを探していたらしい。


 「ごめんね。知らないの。私たちも探しているんだけど」


 「そうなのか……わたしもいおりんと一緒にずっと探しているんだけど……」


 二組で探しても見つからないって一体どういうことなのかな?もしかして学校を抜け出して外まで宣伝に行ったとか。


 その時、わぁー!とすごい歓声が校庭から聞こえてきた。


 「なんだ?」


 「なんだろうね」


 校庭にも一応ステージは用意されているが、あまり出し物はない。たまに体育館発表にあぶれた人たちが何かしていることはあるけど。


 「行ってみよっか」


 「そうだな。あそこは一回も行ってなかったからな」


 そういえば私たちもそうかな。


 私たち四人は校庭へと移動した。


 少しだけ地面から高くなっただけの簡易ステージ。その周りにはたくさんの人がいた。


 ステージ上ではマイクを持った司会らしき男子生徒が叫ぶ。


 『さぁ決着を迎えましたこのチキチキ梓山最強は誰だ!生徒だらけのA–1グランプリ!知力、体力、そして運。すべてが必要なこのグランプリを制し、栄えある梓山最強の肩書を手にいれたのはこの人物!いや、訂正しましょう!手に入れたのはこの物体!飛び入り参加のO・BA・KEだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


 「「「「「「「ワァァァァァァァァァァァァァァ」」」」」」」


 ステージ上に現れあのは見覚えのある看板を持った見覚えのあるお化けだった。


 「「…………」」


 りんちゃんと顔を見合わせる。何とも言えない顔をしている。きっと私も同じような顔をしているだろう。


 「ほえー」


 華恋ちゃんは感心したような声を出しながら拍手している。


 「……そーくんを差し置いて最強なんておこがましい」


 多分、あれの中身はそのそーくんなんだよ。


 『では、お化けさん今の率直な感想をお聞かせください!』


 『そうですね。こうして栄光をつかみ取れたのも、僕をここまで育ててきてくれた両親、修行をつけてくれた先生。そして一緒に戦ってきたライバルたちがいたからこそだと思ってます。彼等には感謝しかありません』


 ボケが渋滞してるよぉ。なんでさも長い間これを続けてきた体で話してるんだろう。しかもお化けの格好して。あの格好で真面目に話していること自体がもうボケ。


 私は心の中でツッコむが、おかしい所など何も無いと言わんばかりにインタビューは本当に淡々と進む。


 『優勝を確信したのはどのあたりだったでしょうか?』


 『そうですね。確信は最後までしなかったんですけど、強いて言うなら知力ブロックの雑学、神話、アニメジャンルのクイズで無双したことですかね』


 『すごかったですねあれは。あそこはまさに独壇場。他の人が入り込む余地はありませんでしたね』


 『丁度自分が良く知るところばかりクイズに出たので運が良かったのもありますね』


 『体力ブロックの1500M借り物競争はどうだったでしょうか』


 『これも運がよかったですね。お題が大志だったので借りる必要もなく持っていたのが幸いでした。他の人たちは重い借り物を持ちながら走りましたが、僕は大志を胸に抱いて走っていただけですからね』


 『本当はアレ、ネタ枠で外れなんですが、まさかゴール手前の借り物確認で声高らかに夢を語り始めるとは思いませんでしたよ。あれには実行委員もしてやられたという顔をしてましたよ』


 『僕としては普通に大志を持っていることを証明しただけなんですけどね(笑)』


 『かっこよかったですよ。さて他にも振り返りたい競技はまだありますが、お時間がきてしまったようです。最後に一言お願いします』


 『お化け屋敷を!よろしくぅぅぅぅぅぅうぅ!』


 『ありがとうございます!お化けさんでした!』


 こうして大歓声に包まれながら、A–1グランプリは終わった。興奮のままに観客たちは帰っていくが、私たちはその波に乗り切れず、取り残されている状態だ。


 「なんかすごかったけど宗介はいなかったな」


 「……」コクリ


 私はりんちゃんと目を合わせる。


 そして私たちは同時にふきだした。もう笑うしかないじゃん。あんなことしていると思ってなかったんだもん。本当に宗介くんは私たちの想像を超えてくる。


 「行こっか」


 「そうね。クラスの人も困っていることだし、あの衣装をはぎ取りましょうか」


 そう言って司会の人と話している宗介くんの元へと向かった。


 衣装をはぎ取ったら、りんちゃんが謝ったら、私が謝罪を要求したら、宗介くんがどんな反応をしてくれるのだろうか。そんなことが私には楽しみでしかたなかった。






文化祭一日目終了。

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