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女友達がこんなに可愛い(仮)  作者: シュガー後輩
第四章 文化祭がこんなに楽しい
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彼は精神の安寧を得たい

 自分の心にある邪な気持ちに反省して、自主的に彼らの仲間入りをしようと思ったが、それは必要なかった。なぜなら彼女はすでに君の後ろにいるのだから。


 「かーれん♪」


 「あ、お姉ちゃん」


 ゾクッとした。


 いつのまにか近づいていた神楽坂さんが華恋に声をかける。きっと華恋にしか使わないであろう甘ったるい声で。神楽坂さんは怪しい笑みを浮かべながら魔法少女の服を持って華恋に迫っている。思わず「逃げろ!」と声をかけたくなる光景だ。華恋の一番の味方なんだけど、いつか取って食いそうな雰囲気あるよね。


 「今度はこの服を着ている華恋が見たいな」


 「ええーまた着替えるのか」


 「お願い。華恋の可愛い姿がもっと見たいのよ。これを着てくれたら、何でも言うことを聞いてあげるから。……本当の本当に何でも言うこと聞いてあげる。何でも命令して。華恋の言うことなら何でも聞いてあげれるからね。何でも言って……!」


 主旨変わっとるがな。どんだけ華恋からの命令を受けたいのか。


 要求に対する対価のはずなのにいつのまにか要求に次ぐ要求になってる。何でも言うことを聞くという約束の望みを叶える側が、あそこまでぐいぐいといくのは初めて見たな。あれがうぃんういんというやつか。いや、神楽坂さんの一人勝ちだな。


 「あ!じゃあ、お姉ちゃんにも綺麗な服を着てほしい!」


 「え?ちょっとコスプレは……」


 同じことをあなたは華恋に要求してますけどね。


 少し困ったような顔をする神楽坂さん。しかし意外な展開だ。華恋の一手が神楽坂さんを困らせるなんて。


 華恋は花が咲いたような笑顔を浮かべて告げる。


 「待ってて、私がお姉ちゃんに似合う服を選んでくるから!」


 「お願い。華恋の色で私を染めて」


 ……はい。いつも通り神楽坂さんの一人勝ちです。対戦ありがとうございました。


 ウキウキ気分で服が並ぶ森川先輩のテリトリーに近づいていく華恋。それを見て自分の体を抱きしめて、喜びからくる震えを抑える神楽坂さん。


 それを机の向こうからボーと眺めるオレと唯織。


 「そーくん」


 「何だ」


 「聞きたいことがあるんだけど」


 「オレに答えられることなら」


 「れんれんのお姉ちゃんはシスコン?」


 「ああ、純度100%のシスコンだ」


 「なるほど。良かった」


 「何が?」


 「……れんれんがお姉ちゃんとそーくんは同じクラスだって言うから」


 「それは、何も良くないんだよなぁ……」


 華恋がうちに遊びに来た日の次の日はいつもドキドキだ。家を出た瞬間、バスに乗った瞬間、学校についた瞬間、教室に入った瞬間、狩られるのではないかと。何がトリガーはわかってるんだけど、トリガーが軽いこと軽いこと。


 「そーくんのばぁか」


 「突然の罵倒」


 どうした。反抗したいお年頃か。


 ツンデレ評定を基準に生きているオレじゃなかったら傷ついていたところだ。


 ふいに神楽坂さんの目がこちらを捉えた。


 そこでオレはふと思った。神楽坂さんはオレの女装姿を見たことがあっただろうか。多分ない。


 ピーン。オレの異能力未来予知が発動。「日下部くん?何をしてるのかな?かな?まさかそれで女子のふりをして華恋に近づいたりしてないよね。女子のふりをして華恋にボディタッチなんかしたりしてないよね?……ちょっと誰もいない教室に行こっか」そしてそのまま拉致されてツンデレ評定をもってしても受けきれない暴虐を受けるのだ。未来を知ることがこんなに恐ろしいなんて知らなかった……!


 神楽坂さんがオレを見ながら口を開く。やめて!聞きたくない!


 「こんにちわ。家庭科部の先輩の方ですか?」


 …………………………ふむ。なるほど。


 「そうです(裏声)」


 華恋が怪訝な目で見ている気がするが、気にしない。オレはオレの精神の健康のためにここを全力でごまかすことを決めた。


 まさかバレてないのか?いや多分バレてない。神楽坂さんはそういう変化球を投げて様子を見るタイプじゃない。いつでも真っ直ぐデッドボール狙いだ。それなんて競技?


 「お騒がせしてすみません。あとでちゃんと買い物もしますので」


 そう言って丁寧に頭を下げる神楽坂さん。


 「別に構いませんよ。こちらも森川せ、ちゃんが無理言ってすみません(裏声)」


 すごいぞ。神楽坂さんと普通に会話している。こういう時に、神楽坂さんが学年の2位の才媛だということを思い出す。オレに会ったときはもう最初から華恋の話題だったからな。その才媛に会うことはないと思っていたが、まさかこんなタイミングでお会いできるとは。


 「それで、あなたがいおりんかな」


 「そう」


 「あなたが……最近私の華恋とよく遊びに行っているいおりん。へぇ……あなたがねぇ……」


 いつもの神楽坂さんだ。いつもの瞳に危ない光を浮かべている神楽坂さんだ。良かったー。このままだったら危うく神楽坂さんが常識人だと勘違いするところだった。


 「ちなみにあなたどこのクラス?今度ゆっくりお話しをしたいんだけど」


 「ここの学校じゃない」 


 「ここの学校じゃないの?……それじゃあどうして売り子してるの?」


 「ここの部員だから」


 「?」


 「申請すれば他の学校の生徒でもこの学校の部員になることができるんですよ(裏声)」


 「そうなんですか…………じゃあまず馴れ初めから聞こうかな」


 ここで今からお話しするの?


 って不味い。オレは必死にかつバレないように唯織にアイコンタクトを送る。絶対にオレの名前を出さないでくれ。思い出を捏造するんだ。街中で運命的な出会いをしたとかにしよう。


 唯織はオレを見ながら微かにこくりと頷いた。


 唯織……!


 「日下部宗介くんの家に遊びに行った時に日下部宗介くんの部屋で出会った」


 唯織さん!?

 

 いつもフルネームで呼ばないじゃないですか!?なんでそんな誤解無きよう言うんですか!?


 「そう……日下部くんの家で……つまりはまたあの男は私と華恋の前に立ちふさがるというんだね」


 はわわわわわ。


 誤解だよ!そもそも立ちふさがったことなんてないよ!


 俯きまるでドロドロした闇が体から噴き出すような雰囲気の神楽坂さん。これが、闇堕ちか。


 「お姉ちゃーん!」


 天使の鐘が鳴った気がした。神楽坂さんの闇は晴れ、笑顔で華恋の方をむく。


 「お姉ちゃんの服決まったからこっち来てー!」


 「はーい」


 さっきまでこちらと会話をしていたはずなのに、もうオレたちは眼中になく、素早くスキップで華恋のもとへ向かっていった。


 「……さて唯織。言い訳を聞こうか?」


 「てへぺろ」


 「許す!」


 そこまで言われちゃ仕方がない。この件は水を流そう。


 あ。そうだ。華恋に今のオレはオレでないことを伝えにいかなかきゃ。


 オレは教室の隅の簡易更衣室に森川先輩と華恋に神楽坂さんが強引につっこまれたのを確認してから、オレは華恋のもとへと進む。


 ちなみに華恋はチャイナ服から魔法少女へとフォルムチェンジしている。


 「華恋」


 「ん?何だ?お姉ちゃんの晴れ姿を見にきたのか」


 「違うよ」


 晴れ姿の意味わかってる?映える綺麗な衣装のことじゃないからね。


 「あのな、オレが宗介であることを神楽坂さんに黙っていてほしいんだ」


 「んー?ん!お姉ちゃん宗介が宗介だと気づいてないのか?」


 「ああ、そうなんだ」


 「わかった。教えないぞ。あれだなドッキリってやつだな」


 「うん、そうだよー」


 もしこのドッキリがバレたらオレの体がポッキリされちゃうかもしれないから気をつけてね。


 「……華恋。お待たせ」


 落ち着いた神楽坂さんの声。


 オレたち二人は更衣室の方を向く。更衣室の前に立つ森川先輩は自信満々の顔でカーテンを開けた。


 目を閉じながら出てきたのは花嫁。ウェディングドレスを身に纏いゆっくりと出てくる神楽坂さん。


 そういえば森川先輩はこんなのも作ってたな。


 あとちゃんと晴れ着だったな。


 「すごい!すごい!お姉ちゃんすっごく綺麗!」


 興奮して飛び跳ねながらキラキラとした目を向ける華恋。あんまりスカートで飛び跳ねない方がいいと思うよ。花嫁さんがすごい目で見てるから。


 しかし不思議な空間だ。花嫁の周りをくるくると回りながらスマホで写真を撮る魔法少女がいて、それを見守るメイド。キャラづけに失敗したハーレムもののヒロインたちだろうか。


 「なぁそ、そうちゃん?綺麗だろお姉ちゃんは!」


 「ああ、そうだな」


 危ないよー今普通に宗介って呼ぼうとしてたでしょ。


 あと見えてるからそんなにスマホを押し付けなくて大丈夫だぞ。というか実物が見えてるから。


 神楽坂さんは設置された姿見で頬を緩めながら自分の姿を確認している。やっぱり女の子はウェディングドレスに憧れを持つものなのだろうか。


 「これが華恋が選んだ衣装。ウェディングドレス。結婚。つまりはそういうことだよね。相思相愛。私たちの間に壁はない。幸せ……!」


 うん。さーて唯織の所に戻ろうかな。もうオレは神楽坂さんに常人の反応を求めないことにした。


 その時。


 「うわー!プ◯キュアだーー!!」


 ドアを開けて入ってきたのは幼女。魔法少女の格好をした華恋に向かって走ってくる。ちなみに華恋の服はプ◯キュアのものではない。


 そしてそのまま華恋へと抱きついた。


 鏡を見ていた神楽坂さんがすごい勢いで振り返る。体ごとターンしているのだが、首の振り向きが早すぎて180度回ったかと思った。とても子供に向けるようなものではない鋭い目をしている。幼女も嫉妬する範囲に入るんですね。


 ガクッ


 着慣れない格好でターンしたのがまずかったのだろう。神楽坂さんは後ろに倒れるようにバランスを崩した。


 「危ない!」


 華恋の悲鳴にも似た叫び声が響く。


 驚いたような神楽坂さんの顔が見えた気がした。


 人が床に打ち付けられる音はしなかった。


 「…………え?」


 ぎゅっと目を瞑る神楽坂さんの顔が至近距離にある。当たり前だが華恋にそっくりだ。戸惑いの声をあげながら神楽坂さんはゆっくりと目を開ける。


 「大丈夫ですか(裏声)」


 「あ、ありがとうございます」


 オレは倒れそうになる神楽坂さんを受け止めていた。今は右腕を神楽坂さんの肩に回すようにして抱えている。ギリギリセーフだったな。


 「あ」


 思わず間抜けな声が漏れる。頭からずるりとカツラが落ちた。


 「え?」


 まじまじとオレの顔を見る神楽坂さん。そして顔が憤怒の赤に染まっていく。ああやっぱりオレの未来予知は間違っていなかったのだろう。早いか遅いかの違い。


 ドンっ


 「ぶへら」


 無言でつき飛ばされて転がる。なるほど最初から実力行使でしたか。


 「…………すぅ。遺言はある?」


 仰向けで倒れるオレをおそらく見下しながら神楽坂さんは言う。


 「助けたことで騙したことはチャラではないでしょうか」


 「そうでは、さようなら」


 会話をしようよ。


 華恋に助けを求めようと顔を向けると倒れるオレを怯えた表情で見つめる幼女と目が合った。こんな現場を見たらトラウマものだろう。だからオレは倒れながらも優しく声をかけた。


 「いらっしゃい。おすすめはクッキーだよ」


 「おがあざぁ〜〜ん!」


 あ、待って待って不審者じゃないよ!お母さんに助け求めにいかないで!



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