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女友達がこんなに可愛い(仮)  作者: シュガー後輩
第四章 文化祭がこんなに楽しい
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彼は混沌をのぞく

 まさかの初心者二人に1ターンキルをくらう事態になったが、流石にそれで終わりは早すぎるので、仕切り直してもう一度やることにした。


 普通に負けた。


 順位は上から竜胆・唯織、茶髪先輩、オレ、アリアだった。


 …………。


 ま、まあオレもカッコつけて蜘蛛の糸から四大龍蹂躙撃を狙ったのが良くなかったかなぁ。普通に勝ちだけを目指したら勝てた?的な?戦い方にこだわった上での敗北、それすなわち勝ちなのでは?


 しかし歴史に残る名勝負だったな、アリアとの最下位争いは。最初に竜胆・唯織ペアにサラッと上がられ、つぎに茶髪先輩にヌルッと上がられ、手札が結構残った状態で二人になったオレとアリア。互いのカードの効果を互いで受け合うという中々の泥試合だった。しかしながら最後勝負の綾を分けたのは、スキルの理解度。これが製作者の力だ。卑怯というなかれ勝てば官軍なのだよ。まあ3位なわけだが。ただの賊軍なわけだが。


 

 さて文化祭は遊ぶばかりではなく、もちろん生徒たちには仕事もある。ということで、オレと唯織はアリアと竜胆と別れて家庭科部に向かった。

 

 コンコンコン。


 家庭科部の部室のドアをノックする。


 オレはいつぞやのことから学びを得て、ノックするということを覚えた。できる男は同じ失敗をしないのだ。何でかブーイングが聞こえた気がした。幻聴か?まあいい。


 きちんとノックの回数も調べた。どうやら3回が良いらしい。


 マナーというやつだな。最近はマナーマナー言われすぎてうざがられているあれだ。個人的にはマナーは嫌いじゃないけどね。だって自分の行動なのに自分で考える必要ないんだぞ。脳死でできてかつ人から良く見られるなんて最高じゃないか。脳死でするな?ごもっともです。


 「どうぞ〜」


 ちなみにノックするのはオレしかいないので、ノックした時点でオレが来たことがわかる。


 「おつかれさまです」


 「……おつかれさまです」


 「お、次の店番は日下部くんと唯織ちゃんなんだ」


 「はい。あと確か森川先輩もですね」


 「苺ならもう働いてるよ……働いてるよ?」


 何で2回言った?


 「早いですね」


 時計を見ると交代時間の十五分前だ。一応引き継ぎ事項があるかもしれないので早めに来たのだ。


 いやー困っちゃうな。いつもふざけていると言われるオレだが根の真面目さが滲み出てしまった。これで好感度も上がることだろう。誰の?


 「うん、苺は文化祭が始まる時から居て、お店に来てくれた女性に『この服を着て写真撮らせてもらって良いですか?』って迫ってるよ」


 「止めましょう?」


 「小さい子にはお菓子をちらつかせながら」


 「止めましょう」


 それはもうたとえ同性だろうが、不審者ではないのだろうか。


 「うーん。でも断られたらすぐに引いているみたいだし、お客さんから苦情は来てないし、学校からも特に何も言われてないし、喜んでいるお客さんもいるし……」


 「まあ、それなら」


 全く困った先輩だ。


 やれやれと首を振りながら、オレはとりあえずアリアにメッセージを送る。


 『頑張って働いていますので、是非遊びに来てください』


 これでオッケー。

 

 ブブッ


 む?随分と早い返信だな。


 『敬語』


 カンのいいガキは嫌いだよ。


 これは来ないな。あなた様がお客様の立場ですので敬って話しておりますと返信しようとしたが、怪しさが増すだけなのでやめた。


 オレをため息をつきながらスマホをしまう。


 「じゃあ働きに行くか」


 「うん」


 「あっ、待って。ユニフォームとしてエプロンあるからそれ着てって」


 「了解です」


 そんな話は聞いてなかったが、普通に考えて店員とお客さんがわかりにくいので、エプロンみたいなのがあった方がいいだろう。



 ***



 着替え終わりました。


 「「…………」」


 うん。


 エプロンはついている。ただフリルとかもついている。


 「これエプロンっていうかエプロンドレスですよね?」


 もっと言えばメイド服だね。まさかこんな所でクラスの出し物決めの伏線回収が行われるとは。


 「エプロンには変わりないでしょ?」


 「もうこの日本では誰もこれをエプロンとして捉えてないんだよなぁ」


 「しっかり着てからそんなこと言われても」


 それもそうだ。


 部室に簡易更衣室がある時点で想像するべきだった。


 ちらりと横を見ると同じくメイド服を着せられた唯織がいる。可愛い。


 「どう?」


 「めちゃくちゃ可愛い」


 「……そう」


 包帯も眼帯も気にならない。むしろ戦闘ができるメイド風で良きです。何よりツインテール。ホワイトブリムとツインテールがこんなにもマッチするとは、思いもよらなかった。唯織は割と高い位置で結んでツインテールにしているのだが、それがまた良いんです!


 さて……。


 オレはカツラと化粧道具をとる。


 「すみません。ちょっと遅れますが良いですか?」


 良いですよね?この服を着せられるとは思ってなかったんで化粧の時間までは計算に入れてなかったので。


 「いいと思うよ〜」


 「じゃあ、唯織は先に行っててくれ」


 「わかった。早く来て」


 「ああ、なるべく早く行くよ」


 「接客できないから」


 「すぐ行く」


 恐ろしい宣言をした唯織を見送り、さっさと化粧を始める。高校になってからどんどん女装する機会が増えたな。人生というのは不思議なものだ。


 「いや~手なれたもんだね」


 そちらももう随分見慣れているようで。そういえば家庭科部の皆さんはそれはもう随分と早くオレのことを受け入れたなぁ。力仕事もしてくれて便利ぐらいにしか多分感じてない。


 そんなこんなで軽く化粧をして、さっさと隣の教室へと移動する。


 当たり前だが普通にドアを開けた。それを少しだけ後悔した。


 

 ガラガラガラ


 「すみません。お待たせ……」


 「いいよー!いいよー!エレガントだよー!最高だよー!私の目に狂いはなかった!この服が二人には似合うと思ってたんだよねー!」 パシャパシャパシャパシャパシャパシャ


 「はぁはぁはぁ、華恋最高だよ。もう少しもう少しこう足を広げてみようか」パシャパシャパシャパシャ


 ガラガラガラ ピシャ


 

 「ふぅ」


 おかしいなあの教室は確か家庭科部のお店だった気がしたんだが、チャイナ少女とメイド少女と変態二人しかいなかったぞ。


 オレは廊下の窓を開ける。涼しい気な風がカツラをなびかせる。そこらかしらから賑やかな声が聞こえてくる。オレは窓の外を憂いを帯びた瞳で眺めた。


 あれだな、たとえどんなに大好物でも、たとえどんなに良いものでも、無理矢理食わされるときついんだな。そんなことを学んだ高1の夏。


 「よし」


 両手で頬を叩く。目に光を胸に決意を。


 混沌の扉に手をかける。


 オレは全てを喰らう覚悟を持って、その扉を開けた。たとえここで燃え尽きようとも……!


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