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女友達がこんなに可愛い(仮)  作者: シュガー後輩
第四章 文化祭がこんなに楽しい
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彼らは脱出する

「え、え、どうして……」


 百瀬先輩は焦ったようにドアノブをガチャガチャ回す。反対方向に回してみたり、押したり、引いたり。


 「は!まさか引き戸!」


 そんなバカな。ドアノブがついている引き戸は中々珍しいのではないだろうか。オレの記憶が正しければ屋上のドアは開き戸。


 どうやら戸締りの先生に鍵を閉められてしまったらしい。


 「どうしようか……日下部くん……」


 先輩の顔は真っ青で不安そうだ。


 「とりあえず、学校の事務室に電話すれば良いんじゃないですか?」


 以前、学校に忘れ物を取りに来たことがあったが、昇降口が閉まっている時でも職員玄関は空いていたし、そこの事務室にも人がいた。


 ここから職員室や職員玄関は見えないが、おそらくまだ誰か先生はいるだろう。


 「そ、そうだね」


 先輩はスマホを取り出してピタリと止まる。


 「私、学校の電話番号なんて知らない」


 「ネットで調べたらどうでしょう」


 「そうだね」


 少し落ち着いてほしい。


 先輩は少しばかりスマホを操作すると、スマホを耳に当てる。


 ……………………………。


 「で、でない……」


 「嘘だろ」


 まさか帰ってしまったというのか。オレは慌てて屋上の端まで行くと姿勢を低くして、向かいの校舎一階の事務室の辺りを見る。


 うーむ。微かに蛍光灯の灯りが見えるような気がするんだけどな。トイレに行ってるか。はたまた居眠りしてるのか。


 「多分まだ事務室に人はいると思うんですよ。だから本命は事務室の人に助けを求めるとして、次善の策として誰か学校から家が近い知り合いに助けを求めましょうか」


 む、言ってから気づいたがこれは中々いい作戦なのではないだろうか。


 「その人に忘れ物をとりにきたと言ってもらい校舎に侵入して助けてもらえば、事務室の先生にお小言を言われる確率も低いですよね」


 「お小言……やっぱり怒られるかなぁ」


 「どうでしょうね。俺たちに気づかず鍵を閉めた先生の過失の方が多いと思いますが、オレたちに悪いところがないわけではないですからね」


 「じゃあ次善の策が本命だね」


 次善の策なのに?


 ああ。そうかこの学校は一応進学校。オレや海神先輩、神楽坂さんのような例外はいるが、基本的には真面目な優等生だ。つまりは怒られるのが慣れていない。忌避するのも当然だろう。


 そんな感情は一体オレはどこに置いてきてしまったのだろうか。多分中学時代だろうな。先生から呼び出されるのに慣れ過ぎて、オレほどスムーズに職員室へはいれる人はいなかった。もうね。顔パス。まあ、普通の教室みたいに入ったらさらに怒られたけど。顔パスじゃないじゃん。


 百瀬先輩にはこんな人に育たず、今のまま成長してほしいとそう思いました。


 「では、誰に連絡しましょうか?丁度いい知り合いいますか?」


 ちなみにオレはいない。そもそも家を知っている人の方が少ない。というかアリアしか知らん。確か委員長が徒歩で通学しているとは聞いたことがあるが、オレのためにわざわざ来てくれはないだろう。まあ普通に事務室に電話されると思う。


 「えっと、その岬なんてどうかな」


 「海神先輩?家、近いんですか?」


 「自転車で15分くらい」


 「まあまあ近いですね。じゃあ連絡お願いします」


 「う、うん」


 先輩は大きく深呼吸をすると電話をかけ始める。


 「なんでそんなに緊張しているんですか?」


 「だってさっきあんな約束したのに、今度はこんな連絡するなんて……」


 「大丈夫ですよ。海神先輩はそんなこと気にしません。むしろ、よっしゃ!紬ちゃんのヒーローになるチャンスだ!って言って喜んで来ますよ」


 「岬はよっしゃなんて言わない!」


 「そうですよねー言わないですよねー」


 え。言うと思う。前にわた〇んの新刊読みながら、よっしゃぁ!はい!ごちそうさまです!ありがとうございまーす!って言ってたよ。早口で。


 その時の顔は百年の恋も冷めるほどだったと記しておこう。


 百瀬先輩はぷんぷんしながらスマホを耳にあてる。そのまま動かない。


 「どうしよう、岬もでない」


 本当に海神先輩には反省してほしいです。先輩が言霊の力を舐めているからこうなったのに。


 「まあ、そういうときもありますよね。とりあえずメッセージをを残しておいたらどうですか」


 「そうだね…………これでよしと」


 「とりあえず、ちょっと先輩を待って見ますか」


 「うん」


 とはいえ、タイムリミットはある。事務室の先生が帰るまでに先輩が来なければ、オレたちはここに閉じ込められてしまう。まあ、オレ一人だったらそれでどうにかなったのだろうが、彼女持ちの先輩をそれに付き合わせるのは不味いだろう。


 あ、オレは事務室の方とは反対側のフェンスまで行くと、下を見る。そうだ。こっち側からだと職員の駐車場が見えるのだ。まだ何台かある。つまりは事務員さん以外に残っている人がいるのは確定と。同時に事務室に電話した場合、教師に怒られる可能性も高くなったな。


 まあ、タイムリミットがはっきりとして良かった。あの車が一台になるまでだな。


 それまでは腰を落ち着けても構わないだろう。オレは先輩にカバンから寝袋を取り出して渡す。


 「どうぞ先輩。これにでも座ってください」


 「……何で寝袋なんて持ってるの?」


 「今日、お泊まり会の予定だったので」


 「え?じゃあ早くここから出なきゃ!」


 「大丈夫です。中止になったので」


 「……それは残念だったね」


 ええ、もう本当に。楽しみにしていたのに……くそぉ校則め。後で読みこんでやるから覚悟しろよ!


 「だから色々ありますけど、暇つぶしに何かやります?」


 オレはカバンからトランプ、花札、オセロ、UN○と色々取り出す。


 「日下部くんってこういうのまめに準備をする人だったんだね」


 「もちろんですよ。(女の子の)皆さんには楽しんでほしいですからね」


 「日下部くん……うん、やろうか。折角準備したんだからもったないよ」


 先輩はオレを優しげな目でみつめる。


 そんな先輩を見てオレの中の悪魔がこう囁く。


 『あれをあげちまおうぜ。そうしたらお前の望みは叶うだろう』


 それを聞いて天使がこう囁く。


 『賛成』


 よし満場一致だな。


 「先輩。これも準備してたんですけど、折角なので先輩にあげます」


 オレは綺麗に整形された木の棒の束を渡す。木の棒には番号が書いてあり、一つには王冠マークが書いてある。


 「これって……」


 「そうです。王様ゲームのやつです」


 「これが……初めて見た」


 「海神先輩たちと一緒にやったらいかがですか?」


 「そ、そんなことしていいの!?」


 「していいも何も、ただの王様ゲームですよ。至って健全な遊びです」


 「そうだよね……」


 百瀬先輩は震える手でまるで悪魔と契約を交わすかのように、オレの手から木の棒を受け取った。


 「頑張って作ったので、是非遊んだら、どんな感じだったか話を聞かせてくださいね」


 オレは何の邪気のない笑顔でそう言った。


 先輩は木の棒を見つめながらごくりと喉を鳴らした。



 ***



 「日下部くん、やばいかも……」


 花札をして待つことしばし、海神先輩からの連絡はない。そんなな中で百瀬先輩はそんなことを言った。


 「どうしたんですか?はっ!まさか五光が完成したんですか!」


 「花札は関係なくて……」


 先輩は言うかどうか迷っていたが、意を決したように言う。


 「お花摘みに行きたい」


 「えらいこっちゃ」


 緊急事態だ。オレの頭が高速で回り始める。一番早くスムーズにこの場を乗り切る方法は……。


 「だからわがままでごめんなさいだけど、電話してもらえるかな」


 「了解しました。先輩は気をしっかり持っててください」


 オレは屋上のドアまで行くとスマホを取り出して電話をかける。


 コール音が一回、二回、三回。


 繋がった。


 「あ、もしもし。どうもさっきぶり」


 「え?ちょっと日下部くん。誰にかけてるの」


 「突然なんだけどさ。ピッキングのやり方教えてくれない」


 「本当に誰にかけてるの!」


 「ごめん、ちょっと待って」


 もう先輩、静かに。スマホを耳から外して先輩に向き直る。


 「電話の相手ですか?オレが屋上に来た時に言ったオレを落とした人ですよ」


 「やっぱり縁切った方がいいよ……」


 いやいや、こういう時こそ、この人を頼るべきなんですよ。オレはまた電話に戻る。



 「すまん。すまん。それでどうだろうか」


 『突然そんなこと言われても……』


 「今学校の屋上にいるんだけどさ、先輩と一緒に閉じ込められちゃって」


 『それは大変だけど、そもそも私、ピッキングなんて』


 「オレの姉の写真フォルダから華恋の写真を送ろう」


 『任せて。鍵の種類は』


 「多分構造は校舎と渡り廊下をつなぐドアの鍵と同じだと思うぞ」


 『あれね……針金は2本ある?」


 「持ってる。ダウジングで使うL字のあれを作ろうとして買ったが、細すぎた針金がある」


 『オッケーじゃあーーーーーーーーーーーーー』


 「了解。---------------だな」


 オレはスマホを肩と耳で挟むと神楽坂さんに言われた通りに針金を形成して鍵穴に突っ込む。


 ……。


 …………。


 ………………。


 ガチャリ。


 「開いた。恩にきる」


 『言葉はいらないわ』


 「ああ、約束は守る」


 オレはぴっと電話を切った。


 ふう、緊張したぜ。


 「さ、先輩。鍵が開きましたよ。いきましょうか」


 オレは額の汗を拭いながら振り返った。


 先輩はこちらに背を向けうずくまって、耳を塞いでいる。余計な情報を入れないようにしてトイレを我慢してるのだろうか。


 「見てない。聞いてない。私は何にも知らない。あの手際絶対初犯じゃないよう……私のせい?いや私が電話して欲しかったのは、事務室であってこんなことは指示してないよ……共犯?共犯かな……?」


 「先輩?」


 「ど、どうしたの!やっぱり開かなかったから事務室に電話する?うん、そうしよう」


 「開きました」


 「開いちゃったかぁ……」


 先輩は顔を両手でパチンと叩くと立ち上がる。


 「ありがとう!もうここまで来たらどこまでも突き進むよ!さあどこに行く!」


 「まずトイレじゃないですかね」


 「屠畏礼だね!」


 「どこですかそれは」

 

 トイレを我慢しすぎて変なテンションになった先輩を落ち着かせながら、オレたちは屋上から脱出を果たした。


 


 さて近くのトイレへと先輩を連れて行き、それから薄暗い校舎を突き進む。途中電気が付いている教室もあったが、無事に廊下を通過することができた。


 そんな中昇降口まで辿り着いたが、やはり鍵は閉まっている。そしてここの防犯関係がどうなっているか知らないんだよな。もしかしたら鍵を開けた瞬間、警備会社に連絡がいくかもしれない。だから安全策をとろう。


 「ということで、先輩。やはり職員玄関から出るしかないですね」


 「でも、まだ事務室に先生がいるよ」


 オレたちは柱の影から、事務室を観察する。ドアはすりガラスだが、当然職員玄関の方に窓口はある。そこをこっそり通るのは不可能だろう。


 「オレにいい考えがあります」


 「それって合法?」


 「当たり前じゃないですか?何言ってるんですか?」


 「…………。」


 今、ボケる余裕があるなんてさすがは先輩だぜ。


 作戦はこうだ。


 姿勢を低くして、窓口の下まで向かう。そして立ち上がり、さも今職員玄関から入って来たような雰囲気で忘れ物をしたと事務員に話しかける。そして適当に教室まで忘れ物を取りに行くふりをしてから、職員玄関から堂々と出る。


 完璧な計画だ。


 「どうですか。先輩」


 「普通の作戦で安心した」


 「いや、成功率を聞いてるんですけど」


 「それなり?」


 それなりかぁ。まあ、いい。この作戦で進めよう。


 オレたちは二人してこそこそと窓口の下まで行く。


 そして先輩とハンドサインでタイミングを合わせて、3、2、1、0!


 タイミングを合わせて二人で立ち上がる。この時事務員がこちらを向いていたら作戦は失敗だが、事務員はこちらを向いていない……!作戦は成功だ!


 先輩と顔を見合わせて笑顔を交わす。ここまでくればあとはただ堂々とするだけだ。


 「すみません」


 オレは事務員さんに声をかける。


 「はいはい。あら?忘れ物?」


 事務員さんはなんの疑いもなくそう言った。


 ええ、そうなんです。そう答えようとしたその時。


 ガシャン!


 乱暴にドアを開ける音。


 振り向くとそこには息をきらした海神先輩が立っていた。


 生乾きで乱れた髪。紺色のよれよれのスウェットにTシャツ。いつも割と綺麗にしている先輩からは想像ができない姿。だが、それは先輩の必死さを物語っていた。


 そして海神先輩と百瀬先輩の目がばちりと合った。


 「えっと、貴女も忘れ物かしら?」


 事務員さんが驚きながらもそう尋ねる。


 「はい、とても大切なものを忘れました」


 海神先輩はそう答えるが、海神先輩の目は百瀬先輩から離れない。惹かれ合う様にして二人の距離が縮まる。


 そしてーー


 

 えんだぁぁぁぁぁでぃぁぁぁぁぁぁ!


 どうやらオレの役目はここまでのようだ。お節介焼きの日下部宗介はクールに去るぜ。


 オレは邪魔しないように、静かに職員玄関を開けると振り返らずに歩いていく。


 今日は気持ちよく眠れそうだ……!







 



 「えっと……貴方達……忘れ物は……?」



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