彼は見知らぬ先輩を手伝う
更新再開します。
エタるかと思いましたか?安心してください。
私も思いました。
部活で文化祭の準備が始まっているのと同様に、各クラスでもそれは行われている。放課後になるとそこかしこの教室や廊下で作業をしている人がだんだんと増えてきていた。
ここ2年生フロアの廊下でも先程から先輩が一生懸命にダンボールを切ったり彩色したりしている。ポニーテールの先輩とちょっと茶色がかったショートカットの先輩だ。二人ともお揃いの制服を着ている。私服登校の高校でわざわざお揃いの制服を着るなんて一体何アピールなのか。全く本当にありがとうございます。
「もう飽きた〜〜!」
筆を放り投げて廊下にごろりと転がる茶髪先輩。ひらりとスカートが舞う。
「こんな所で寝転ばないの。はしたない」
「大丈夫。大丈夫。これぐらいじゃスカートの中は見えないよ。下に短パン履いてるから」
「関係ないわよ」
ポニテ先輩はため息をつきながら茶髪先輩を優しく引き起こすとスカートの裾を直す。ポニテ先輩は随分とお淑やからしい。いいよね活発系の女の子と清楚系な女の子の組み合わせ。数多くの作品で目立つ組み合わせだ。何?テンプレ?テンプレの何が悪い。多くの人が愛してる展開がテンプレだ。テンプレ最高だろ。それはともかく。
「いい、よく聞いて」
「う、うん」
ポニテ先輩は茶髪先輩の肩を掴み真剣な顔で正面から見つめる。その様子に茶髪先輩は思わず気圧される。見つめ合う顔の近さからだろうか茶髪先輩の顔に少しだけ赤みがさす。そしてポニテ先輩は重々しく口を開いた。
「男の子っていうのはね、スカートが揺れるだけで興奮する獣なのよ」
「ごめん。ちょっと何言ってるかわからない」
茶髪先輩の顔から赤みが消えた。ポニテ先輩は呆れた様子でことばを続ける。
「もうそんなこと常識でしょ。ちょっと抜けてる所も可愛いけど無防備すぎるわ」
「スカートの揺れを気にするのは過剰防衛だよ」
「全く箱入り娘なんだから」
「わお、ブーメラン。というか恋ちゃんだって同じ服でスカートだって揺れまくりじゃ……」
そう言って茶髪先輩はポニテ先輩のスカートに手を伸ばす。
カンッ
「…………え?」
スカートにあるまじき金属音がした。
「これ中は鉄板よ?」
「どういう構造!?全然同じ服じゃなかった!」
「ひどいわ。制服をお揃いにしようと言ったあの言葉は嘘だったのね」
「これ。悪いの私かなぁ?」
そう言いながらも茶髪先輩はポニテ先輩のスカートを触ったり叩いたりして興味深げに観察している。もう一度言おう。スカートを興味深く観察している。
「……変態みたいよ」
「うっ。確かに傍からみたら否定できないかも。でも友達がそんな鎧みたいなスカートを履いていたら誰だって興味津々になるよ」
あははと気まずげに笑いながら茶髪先輩は目線をさ迷わせる。そしてその目がこちらの方を向いた。
「鎧と言えばあそこに置いてある鎧もすごいよね」
「露骨に話を逸らしたわね」
茶髪先輩はポニテ先輩の言葉に気づかないふりをして廊下に置いてある西洋甲冑へと近づく。ポニテ先輩もその後へと続く。
「うわ~すごいねこれ。なんていうか重厚感?金属感?がすごい。生で見たのは初めてかもしれない」
「そうね。確かに日本の鎧は博物館で見たことがあるけど、外国の鎧はないかしらね。でも何故廊下にこんなものが置かれてるかしら」
「隣のクラスがお化け屋敷とかのインテリアとして使うんじゃない?」
「でも見ての通り違うわよ」
「ありゃ本当だ」
そのクラスはどうやらお祭りの出店をいくつかやるようで、射的や輪投げ等の準備を行なっている。
「輪投げの景品?」
「どこに輪っかを通すのよ」
二人して西洋甲冑の前で首をかしげる。
「……ヴゥ」
「恋ちゃん?何か言った?」
「言って無いわよ?」
「でもうめき声みたいのが……」
おかしいなと首をかしげる茶髪先輩。
ガヤガヤと騒がしい放課後。だが近くにはポニテ先輩以外誰もいない。
いや、茶髪先輩の目が西洋甲冑を捉える。目線を辿ってポニテ先輩も同様に西洋甲冑を見る。
茶髪先輩はゆっくりと兜へと手を伸ばす。
だからオレは突然両手を振り上げると叫んだ。
「ヴァァァァァァァァァ!」
「「キャァァァァァァァ!」」
突然動き出したオレもとい西洋甲冑に驚き思わず声をあげる両先輩。その声に反応して近くの教室から何事かと他の先輩たちも顔を出す。廊下を通りかかった人も何事かと立ち止まる。
なおオレに近づいた両名はというと、ポニテ先輩は茶髪先輩をかばようようにしてオレの前に立ち、持っていた筆を構えた。茶髪先輩は思わずといった風にポニテ先輩の腕に抱き着いている。
ゴクリ。
おっと。その光景に思わず生唾を飲むが、不審者だと思われないようにオレは慌てて消火栓の陰に隠しておいた看板は持ってくる。
看板といえばお馴染みのアレだ。
「てってれ~」
『ドッキリ大成功』
オレは看板をくるりとひっくり返して反対の面も見せる。
『1-5 お化け屋敷 来てね』
周りの先輩方にも看板を振ってアピールする。それを見て納得したのか集まった先輩も徐々に解散する。中々注目されたしいい宣伝になったのでは無いだろうか。
ふう。やっとこのドッキリができた。授業が終わってからずっと廊下に立っていたのに、みんなチラ見して通り過ぎるだけで全然近くで止まってくれないもんだから、このまま廊下のオブジェとして生きることを覚悟したほどだ。
しかしあれだけ誰にも気づかれないなら、今度路上でやってお金をとれるかもしれないな。将来の選択肢がまた増えてしまった。やれやれ自分の可能性が恐ろしい。
さて次は3年生のフロアにでも。
そう思いオレは足を進めたつもりだった。
あれ?おかしいな。身体が前に進まないぞ。まさか今度はパントマイムの才能まで開花を……!
違った。
両肩に手が乗って押さえつけられている。オレは体の力を抜くとゆっくりと振り向く。
頬に赤みが差し、涙目の茶髪先輩とポニテ先輩がいた。
「すごく怖かったんだからね」
「大きい声を出してしまってすごく恥ずかしかったわ」
「大変申し訳ございませんでした」
正直、オレもあんなにいいリアクションをとってもらえるとは思わなかったです。ほら吊り橋効果がでさらに仲良くなったみたいだし、それで許しもらえませんか。現に今も手を繋いでいらしゃっるし。
ダメ?そうですか。そうですね。
二人はオレに向かってさっきまで使っていた筆を差し出して、塗り途中の段ボールを指さす。わかりました。甲冑の騎士も剣を置いて筆をとろうじゃないか。
これがペンは剣よりも強しということか……!(違います)




