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女友達がこんなに可愛い(仮)  作者: シュガー後輩
第四章 文化祭がこんなに楽しい
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彼は図書館に行く

 オレは放課後を利用して学校近くの図書館に来ていた。学校の図書室ではない。3階まである中々の蔵書量を誇る図書館だ。なお漫画やライトノベルはない。


 ああ、正しくはライトノベルの定義によるだな。オレのイメージ的にライトノベルは文庫本サイズなので、そういったものはない。


 そんなところにお前なんて用はないだろさっさと出てけという罵倒が聞こえてきそうだが、これでもオレは文学少年だった時期があるのだ。『人間失格』とか『地獄変』とか『金色夜叉』とか、色々読んでいた。何?名前のかっこよさで読む本を選んでいる?ははっまさか。読んだ感想としてはハッピーエンド厨であるオレの好みではない。


 今日は小説を読むために来たわけではなく、調べ物をしに来たわけだが。お目当ての本を見つけ。何処で読もうかと読書スペースを探す。


 読書スペースなんて図書館なんだからいくらでも近くにあると思うだろうが、どこで一番読書すればオシャレに見えるか、そういう場所を探してしまう業をオレは持っているのだ。


 中学校時代も学校の図書室で一番隅の日差しが入る棚の上で文庫本を片手に持って読んだものだ。棚の上に乗るなと司書の先生に怒られたが。日差しでは流石に読みにくかったが。あれは失敗だった。


 ちゃんと図書館の人が設定した読書スペースで一番オシャレなところを探そう。


 そしてオレは彼女を見つけた。


 文芸本の棚の奥。窓際の二人用席。ベネシャンブラインドから微かな日差しが彼女を照らす。彼女は黒髪を耳にかけた。ここだけ時が止まったように静かだ。


 オレはその場で崩れ落ちた。


 「え?誰?……日下部くん?」


 「結局、顔か。顔なのか……」


 眼鏡美人の竜胆がいるだけでこんなにもオシャレな感じに……オレがどの席に座ったとしてもこの感じは出せないだろう。


 「竜胆、オレの負けだ。君がナンバーワンだ」


 「意味不明な勝ちを貰っても怖いだけなんだけど。それに日下部くんが2位ならろくな勝負ではないわよね」


 「図書館でいかにおしゃれに本を読めるか勝負」


 「……普通に読んでただけよ」


 「ぐふっ、そうやって天才はいつだって凡人の努力を嘲笑う」


 はーそうですか!意識してませんでしたか!オレ何かやっちゃいました的な感じですか!よござんすね!


 「そんなうらめしそうな顔しないで、座ったら?迷惑よ」


 「それは確かに」


 オレは立ち上がると、彼女の後ろの二人席に座った。


 「……なんでそこに座るのかしら」


 「ですよねー。もっと離れた方が読書に集中できますよねー」


 「そんな気をつかわなくていいわよ」


 彼女は呆れたように言って立ち上がると、オレの対面の席に座った。


 「……わざわざ二人で二つの二人席を使ったら迷惑でしょ」


 「それはまあ」


 確かに知らない人と相席をするのは少し厳しい。無駄に席を広く使わないのは図書館利用のマナーだな。混んでいるのに教科書を広げて、本を何冊も横に重ねて勉強しているやつは、図書館を使う資格はない。

 

 竜胆が正面にいる。竜胆が居心地悪そうに身体を動かす。


 「何かしら?じっと見つめて」


 「いや、なんだか竜胆が対面にいるの新鮮だなと思って」


 「……そう」


 竜胆の対面に座るのはアリアと決まっている。だからオレは横顔を見ることが多い。


 「そうだな。言うなれば……」


 「……。」


 「エジプトの壁画の人たちが急に正面を向いたような違和感」


 竜胆は読書に戻った。


 

 ***



 しばらくして竜胆はパタンと本を閉じると、大きく伸びをする。なんだか猫みたいだなと思った。


 オレも調べ物をしていたが、特に成果を得られそうにないので本を閉じる。


 「そういえばアリアは?一緒に帰ってたよね?」


 今日も仲良く一緒に帰っていただろうに。図書館のキッズスペースのクッションで寝てたりしてるのかな。アリアのイメージよ。


 「途中で別れたわ。その……アリアは図書館に向いてないから」


 「向いてないってなんだ」


 気をつかって発言しようとして意味わからなくなってるじゃん。普通に本に興味がないからとかでいいでしょ。オレも酷いイメージを浮かべてはいたけど。


 「活字なんて読んだら、すぐに頭から煙があがるわ」


 いや、授業どうしてんの?


 「それに比べて竜胆は本が似合ってるよな」


 「根暗って言いたいのかしら?」


 「その発想は根暗っぽいけども。いや、知的とか清楚とかそんな感じ」


 「……。」


 読書をしている竜胆は最初にオレが負けを認めたように、すごくオシャレだった。というか綺麗だった。


 「竜胆は本が好きなのか?」


 「そうね。割と好きよ。読書中は誰も話しかけてこないし」


 「理由が悲しい」


 「中学時代はアリアと別クラスの時もあったから、ずっと本を読んでいたわね。クラスの人となるべく関わらないようにしていたわ」


 「確かにアリアがいるだけで、他に何も要らないよな」


 「そうね。私もそう思っていたわ」


 いた?


 「高校に入って無理矢理関わりに来た人がいたから」


 オレが床に正座した。土下座の準備は完了だ。いやもう本当にオレのわがままですみません。


 「あなたのせいで私はアリア以外にも目を向けるようになったわ」


 はい、全部全部オレの責任です。


 「だから」


 腹を切れ?


 「文化祭。少し楽しみよ」


 へ?


 オレは顔をあげた。竜胆は窓の外を見つめている。いやブラインド下がっているわけだけど。


 「確かに文化祭で巨大お化け屋敷を作るに至ったのは、オレのおかげという自負はあるが」


 竜胆は大きなため息をついた。


 メイド喫茶をやりたいと言っていた奴がどの口で言うのか?ってことかな。


 「でも、そうね。初めてクラスの出し物に協力してもいいと思えたわ」


 初めて……相変わらず、竜胆の過去編は暗そうだな。


 でもよかったよ。今度は楽しめそうなら。


 「今日だってこうして参考になればと本を読んでいるわけだし」


 竜胆は少し照れながら言う。おいおい文化祭に向けてウキウキじゃないか。


 華恋といい竜胆といい真面目だな。わざわざそんなことしなくても、今までの知識からなんとかなると思うでしょうに。


 オレはニヤニヤしながら竜胆が持つ本を見る。


 『黒猫』


 「よし、それを参考にするのはやめようか」


 「え?」


 不思議そうな顔をするんじゃない。読んでてわからなかったの?文化祭っぽくはなかったでしょ。


 このお話を簡単に言うと、黒猫を虐待して殺した男が、その猫と似たような黒猫によって、妻を殺め、自分も絞首台へと送られてしまうというホラー小説だ。


 一体どこを参考にしようと言うのか。


 この一連の流れを追体験をするお化け屋敷とか?子どもが泣くぞ。


 『黒猫』というシンプルかつオシャレな名前に惹かれて、中学時代に読んで後悔したなぁ。名前で選んでるじゃん。


 ちなみに作者は、見た目は子供の名探偵の名前の由来で有名な江戸川乱歩さんの名前の由来になっているエドガー・アラン・ポーさんだ。うん、ややこしい。


 「そういう心にくるような文学作品じゃなくて、そうだな児童向けの怖い本とかの方が参考になるんじゃないか」


 「そうゆうものなのね」


 竜胆は感心したように何度も頷く。本気だったのか……


 「でもあなたも随分と怖そうな本を読んでいるようだけど」


 「いや、これは別にお化け屋敷のためじゃなくて、純粋に調べものだな」


 「……その本で?」


 竜胆が引いた。

 

 そうだよ。この『黒魔術の歴史』という本でオレは調べ物をしてますが、何か?


 「いや、別に黒魔術をオレが使おうとしているわけではないぞ」


 どちらかというとオレは白魔術使いになりたい。


 「そう。良かったわ。日下部くんなら或いは、と思ったけど、流石にそこまで窮まってはいないわよね」


 「最近、封印の書を見つけてな、それについて調べていた」


 「落ち着いて。おそらくそれは普通の書物よ」


 「うるさいやい!あれは封印の書だい!」


 「薄々自分でも気づいてるじゃない……」


 何のことかわからないな。



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