彼は店長の手伝いをする
「あれ?」
オレはバイトに来るとお店には本日定休日の看板が下がっていた。ああ、そうだこの曜日は定休日だった。シフトが入っていたから来たけど、店長が間違えたのだろうか。
「こんにちわ~」
一応お店に入る。
「ああ、日下部くん。こんにちわ」
良かった店長はいるようだ。これで休みを利用して遊びに行っているようならブチ切れるところだった。店長はいつものこの店の制服ではなく、ジャージを着て頭にはタオルを巻いている。
「店長。新しい制服ですか?似合ってますね」
「そうそうやっぱり、この時期汗が凄くてね。料理も作るのも重労働だから動きやすい格好を……ってバカ!」
ヒュルルル。あれ店長、この店どっかから隙間風が。
「すみません。オレが悪かったです。店長にこんなに面白くないことをさせてしまって」
「謝るのだけはやめよう。こっちも怒りずらいから」
いえいえ、怒っていいんですよ。店長をすべらせてしまったのはオレの責任ですから。いい大人がやるノリツッコミってこんなに面白くないものか。
「そんなことより店長」
「そんなことより……」
「今日は定休日ですけど、シフトが入っていたんですけど間違いですか?」
「ああ、間違いじゃないよ。店の模様替えをしようと思ってね。それを日下部くんには手伝ってもらいたいんだ。ちゃんと時間分給料も出すから」
おお、それはいいな。結局のところバイトの何が一番大変って接客だからね。どこに怒るツボがわからない人より物の相手をしている方がよっぽど楽だ。
それはともかく。
「模様替えですか?なんでまた突然」
というかほとんどが備え付けの椅子や机だから、模様替えの余地がほとんどない気がするが。強いて言うなら壁に飾られている絵とか観葉植物とか、カウンターに飾られている小物類とかか。
「これにはね深い訳があるんだよ」
店長は重々しく言った。なおオレ調べだが、こういう時の深い訳は大体浅い。
「お店の人気がね、ないんだよ」
深刻な事情だった。
「中々、お客さんが増えなくてね。やっぱりここらへんは学生が多いから、こういう固い雰囲気のお店は入りにくいのかなと思ったんだ。だからもっとポップな感じに模様替えをしようと思い立ったわけなんだ」
「でもこの雰囲気が好きなお客さんが常連客なんじゃないんですか?その常連客が離れたら本末転倒な気もしますが」
「わかってるさ。だからちょっとだけ若い人が興味を持つものを飾ろうかなと思って」
そう言ってごそごそと店長は何かを取り出した。
「やっぱり若い子は可愛いものが好きだろう」
店長は自信満々にドンと人形をカウンターの上に置いた。
このお店は落ち着いた雰囲気の洋風の喫茶店だ。だからもし人形が西洋人形だったら考慮の余地はあった。それでもちょっと怖いと思うが。
しかし店長が取り出したのはよりにもよって日本人形。全く雰囲気に合わない。というか大きいな。滅茶苦茶値段が高いだろこれ。
「店長。若い子はこれを可愛いと思うほど、教養はありません」
「中々ひどいこと言うね。君もその若い子なんだが」
もちろん可愛いと思ってません。というか日本人形って少し怖くないかな。夜に見たらたぶん泣く。
「そうか結構自信あったんだけどね」
「その日本人形はちゃんとガラスケースにでもしまっておいてくださいよ。良いものでしょそれ」
「さぁ?」
何で知らないねん。
「私の父が収集癖がある人でね。それらを集めた倉庫から出してきただけだからね」
「なるほど」
お宝を鑑定してもらう番組にでも応募してテレビでお店を紹介するのが一番手っ取り早いのではないだろうか。
しかし収集癖か。これはもはや男の子の病だよね。みんな多かれ少なかれそういう所を持っている。オレが紙の本にこだわるのも収集癖のようなものも理由にあるだろうし。
あと本の特典とか全然捨てられないし。ファイルとかそんなにしまうものもないのにめちゃくちゃ持ってる。あと電○文庫についてくるカード。本当にあれは一体どうすればいいんだろう。全部保管はしてるけど。
「やっぱり君を呼んで正解だったよ。やっぱり若い子を取り込むには若い子の意見を聞かないとね」
「ふっ、オレはそんじょそこらの若い子と一緒にしないでもらいたい」
「おお、すごい自信だね。これは頼りになる」
「そこらの若い子を捕まえてきた方が、よっぽどセンスありますよ」
「……すごい自信だね。これは不安になる。でもまあ私よりマシでしょ」
それは否めない。
ということで、店の奥の倉庫へと移動する。
「おお」
思わず感嘆の声が漏れた。そこには至る所に雑多な物が置かれていた。店長のお父さんは中々気合の入った収集家だったようだ。
パッと目に付くのは床屋とかの前にある赤青白のグルグル回るやつとか戦国武将を模した顔ハメパネル。一体何処から持ってきた。というか盗んできた疑惑すらある。
「じゃあ好きに見ていいよ」
「あの、手袋とかは?」
何か貴重な物があるかもわからないので、素手で触る勇気はない。
「え?ないよ?」
そういやこの人、あの人形も素手で鷲掴みにしていたな。
「店長。お父さんからこの部屋に入ることを禁じられていませんでした?」
「よくわかったね。だからここを開けたのも最近なんだよ」
「店長は二度とこの部屋に入らないでくださいね」
「私の家なのに?」
仕方がないので、オレは鞄から手袋を出してはめる。手の甲に焔の錬成陣があしらわれており大変センスがある。
オレは倉庫の物色を開始する。店長は部屋の外で待機だ。
しかし若い子に人気が出るようにポップなものといっても、そんなものがここにあるとは思えない。
だからアンティーク調のオシャレな小物でも探してみる。それぐらいなら店の雰囲気を壊さず、飾りつけることができるだろう。
お、ここらへんは絵が集まってるな。数々の名画のレプリカが置かれている。
本当にここ盗品の倉庫じゃないよね。心配になってきた。
まあうちの玄関にも『夜警』のレプリカが置かれてるし、よくあるよね。それ玄関に置く絵か?
「これなんて良いんじゃないかい?」
横から手が伸びてきた。一つの絵をとる。『見返り美人図』だな。
「店長。ハウス」
「ハウスはここなんだけど」
店長の趣味はわかったから、引っ込んでてください。客を減らしたいんですか?重要なことを言っておくが決してこの絵をディスっているわけではない。店長をディスっているのだ。
とりあえず主張が激しい絵画はやめて、その横にあった落ち着いた色合いのタペストリーをキープしておく。
「他には……」
そこでオレは人影が見えてびくっとする。恐る恐る奥の棚の影を覗くとそこにあったのは西洋鎧だ。それもたぶん実際に着れるほどの大きさの。
「店長。これ店の入口にでも置いておいたら面白いんじゃないですか?」
「ええ、日下部くん。センスない」
思わず西洋鎧の横に立てかけてある剣に伸びる。鎮まれ右手よ。
「それおくならこっちの方がいいんじゃない?」
そう言って店長はさっきの戦国武将の顔ハメパネルを指さす。
店長の日本好きはもうわかりましたから。というかならなぜこんな喫茶店をやっているんだろうか。自分の店のメニュー見たことないんか。ほぼカタカナだぞ。
まあでも今のはオレも自分の趣味に走った自覚はある。
この剣なんか、すごいオレのツボなんだけどな。
試しに剣を抜いてみようとする。抜けない。くっ、選ばれしものにしか抜けないのか。オレには勇者の血が通ってなかった。
さて、西洋鎧の辺りも探ってみる。
「こ、これは……!」
とんでもないものを見つけてしまったかもしれない。それはわりと大きめな本。古びた紫色の装丁で所々に傷もある。そして鎖で雁字搦めにされており、本の真ん中にはごつい南京錠がくっついている。
「完全に封印の書……!」
一体何の本だというのか。悪魔でも封じられているのか。はたまた訪れる世界の終わりを示す予言の書か。
「あ、それは父のへそくり入れーー」
オレは店長を蹴飛ばして部屋からしめだした。全く入ってくるなって言ったのに。
オレはその本を丁寧にしまうと、ウキウキでその周辺を調べてみる。そしたら出るわ出るわ。素晴らしい物品の数々が。
意味のわからない言葉が書かれた石板。透明な髑髏。ねじ曲がった木で作られた魔法使いが使用するような杖。明らかにこの世界のものじゃない世界地図。千年パ○ル。
店長が好きなそうなものもたくさんある。巻物や手裏剣。誠の旗。勾玉、鏡、剣。
気づけば涙が頬を流れていた。
本当に惜しい人を亡くした。オレは思わず空を見上げ敬礼をしていた。心の底からの行動だった。
「店長のお父さんの元で働きたかった……」
「あれ?私酷いこと言われてる?」
「なんでこんな日本被れの元でオレは……」
「やっぱり酷いこと言われてるね」
「店長。いいお父さんだったんですね」
「今言われるのは釈然としないけど、まあそうだね」
店長は遠い目をしながら西洋鎧を撫でる。きっとこれにも買った時とかの思い出があるんだろう。かくれんぼで隠れてみて怒られたとかそういうエピソードもあるかもしれない。
それはそれとして。
「素手で触るな」
「ええ、怖い……」
オレは店長が触れたところを丁寧に布で拭き上げる。
「しかし良いものを見せてもらいました」
「それは良かった。君がそう言ってくれるならきっとうちの父も喜んでいるよ」
オレは店長と一緒に倉庫から出ると、その扉をゆっくりと閉めた。店長から守るように今度錠を持ってこよう。オレも大人になったらこういう部屋を作りたいな。
いやー今日は面白い仕事だったな。まさか店長のお父さんのコレクションの鑑賞でお金が貰えるなんて、なんだか悪い気がするな。こっちも楽しんだわけだし。
オレはそのまま高揚した気分で店を出た。今日もいい日だった。
ん?この手に持っているタペストリーは一体?




