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女友達がこんなに可愛い(仮)  作者: シュガー後輩
第四章 文化祭がこんなに楽しい
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彼らはスポーツをする

第四章です。よろしくお願いします。

 はぁはぁはぁ。


 オレは息を荒くしながら走り回る。あの夏の日を思い出す。ただ黄色い球を追いかけることだけに集中していたあの夏の日を。


 芝生に滑り、一瞬反応が遅れる。


 「ほらほら段々足がついていってないよ」


 悪魔の声が聞こえる。


 「華恋も遠慮しないでいいよ。どんどん投げちゃって。大丈夫。日下部くんならできる」


 「それもそうだな!」


 天使も悪魔の囁きに惑わされて堕天する。


 無造作に厳しい所にボールを投げてくる。だが頑張れば届くという範囲。オレは本能で全ての球を追いかけてしまう。だがそれでもオレはラケットにボールを当てて、良い打球が反対のコートへと突き刺さる。案外オレもまだできるもんだ。


 この地獄のような時間も終わる。もうカゴの中にはボールが残っていない。


 「さーいご!」


 華恋はそう言って最後のボールを高く高く投げた。


 オレの身体は自然に動きだす。漫画を読んで練習して、そんなの試合で使えるかとめちゃくちゃ怒られた技。


 そうその技の名は、ダンクスマッシュ!ボールに向かって大きくジャンプ。そしてラケットを振り抜く!


 空振りした。


 ポーンと後ろでボールが弾む音がするオレはそのまま着地して両手両膝を地面につく。


 ぜぇぜぇぜぇぜぇ。


 「……じゃあ空振ったからもう一周ね。」


 「ちょっと待って!」


 オレは慌てて声を上げる。


 「どうしたの?最後の一球をミスしたらもう一回っていうのはあるあるだよ?」


 確かに運動部あるあるだけども。


 「そもそも、今日は華恋に楽しくテニスを教えるっていう主旨じゃなかったの?」


 そう、オレと神楽坂姉妹は約束していた通り一緒にテニスをしにきていた。うちの高校近くのコートを借りて3人楽しくテニスをするはずだったのだが。


 なぜかオレが厳しい練習に取り組まされていた。一番必要ないのに。


 「というかどっから持ってきたの?このカゴ一杯のボール」


 それもこれも準備運動が終わった後、神楽坂さんが笑顔でガラガラガラと買い物カートに乗せてボールを持ってきたところからおかしくなったのだ。明らかにエンジョイ勢には不必要なボールの量。部活の量だ。


 「ここのコートの管理人さんとは仲良いからね。倉庫から借りたの。ボール一杯あった方が楽しいかなと思って」


 ええ、小学生の発想じゃん。ボールひとつでドッジボールがこんなに楽しいなら2個あれば楽しさ2倍じゃねと、衝撃的発見をしたような顔で言った川上くんを思い出す。


 「華恋だってまだ全然ボールを打ててなくて楽しくないでしょ」


 「え?私は宗介を翻弄するの楽しいけど」


 誰だ。華恋をSに目覚めさせたのは。


 多分オレだな。


 「小悪魔な華恋もかわいい……!」


 もうダメだなこの姉妹。


 「というか普通に宗介が打つのを止めれば良かったんじゃないのか?」


 「久々のテニスちょーたのしー!」


 打つのに夢中になっちゃった。


 結論、テニスは楽しい。


 まあ、沢山ボールがあることだし、華恋にも沢山ボールを打ってもらおう。やっぱり打つのが一番楽しいからね。


 ボールを拾い今度はオレが華恋にボールをふわりと投げてあげる。


 「ほい」


 「ふんっ!」


 バヒューン。


 「ほい」

 

 「ふんっ!」


 ガッ。  


 「ほい」


 「ふんっ!」


 ボスッ。


 ゆるく上げたボールに対して、全力のフルスイングをする華恋。


 その姿に神楽坂さんと一緒にほっこりする。なんか良いよね。女の子が頑張る姿って。


 「むぅ」


 ちょっと不満そうな姿もまたかわいい。それをこのまま見ているのも良いが、今日の主旨に反するので神楽坂さんが動く。


 「華恋。最初はそんなフルスイングをしなくてもいいの。まずはラケットの真ん中にボールを当てることを意識しようね」


 「でもお姉ちゃんや宗介みたいなカッコいいボールを打ちたいし……」


 「「はぅ」」


 二人して胸を抑える。


 神楽坂さんはその衝撃から何とか復帰すると、華恋に身振り手振りで教えはじめる。自分でもラケットを振りながら、華恋の願いを叶えようと真剣に取り組んでいる。


 まさか華恋と関わっている時に、神楽坂さんが真剣な顔になるとは。いつもは常に口元と目元がゆるゆるのだらしない顔なのに。何で華恋は気にしないんだろうと疑問に思うほどだ。


 ああ、そうか。ずっとだらしないから、その顔が普通だと思っているのか。納得。


 華恋の指導にも熱が入り、神楽坂さんは華恋の後ろに回り密着して華恋の手を取りラケットの振り方を教えている。


 幽〜体〜離〜脱〜という言葉が頭の中を流れた。


 ふとピタリと神楽坂さんが止まる。


 「お姉ちゃん?」


 「神楽坂さん?」


 神楽坂さんは自分の両手と腕、そして自分の胸をあたりを見る。全部華恋と密着している部分だ。


 「テニスやってて良かった……」


 絶対もっとそれを思うタイミングあったよな。竜胆と一緒に県大会行ったときとか。


 「ありがとう。私にテニスを教えてくれたコーチ」


 まさか恩師もこんな時に感謝されるとは思わなかっただろう。


 だが、気持ちはわかるぞ。オレはうむうむと頷くのだった。



 ***



 「ふぅ」


 華恋と二人でベンチに座って一休みをする。神楽坂さんはオレたちの休憩中にサーブの練習をするようで、一人淡々とコートにボールを打ち込んでいく。


 さっきのトリップした顔とは打って変わって真剣な表情だ。神楽坂さんをまともにするなんて、やっぱりテニスはすごい。


 「そういえば、ありがとうな。宗介のお陰で文化祭の準備は順調に進んでるぞ」


 「ホラー映画のやつか。あれが役に立ってるんだったらよかった。あの時間が無駄にならなくて」


 結局、一本しか見てないけど。残りは誰か視聴したのだろうか。


 「ああ、わたしはあの映画を見てとても重要なことに気がついたんだ」


 「おお」

 

 「人は突然驚かされると驚く」


 「学びが薄い」


 もう誰でも知ってるよ。小さい子だって物陰に隠れて、人を驚かすことぐらいやるよ。もっとあっただろ。例えば……ねぇ、あれとか。あー後ろに急に立たれると怖いとか。同レベル。


 というか目的は怖がらせることであって驚かすことではないだろ。まあ暗闇から突然驚かされたら怖いか。


 「華恋もお化けの格好して驚かしたりするのか?」


 頭の中で猫耳をつけた華恋がシャーと驚かしてくる。かわいい。かわいすぎて怖い。


 「わたしはスライム係だ」


 「それ本当にお化け屋敷か?」


 某有名RPGのスライムを模した被り物をした華恋が物陰から出てくる。


 『野生の華恋スライムが あらわれた!』


 戦えないよー。


 「お化け屋敷だぞ。わたしは釣り竿でスライムをきたお客さんの首筋にぶつけるんだ。最初はこんにゃくだったんだが、やっぱり食べ物は粗末にしちゃいけないからな」


 「なるほど。やっぱり時代かね」


 オレが小学生の時にやった肝試しでは実際のこんにゃくを使ったもんだが、最近はすぐ炎上するからな。いや、まあ食べ物を粗末にするなと言われればその通りなんだが、この後スタッフが美味しくいただきましたってテロップをつけてもダメですかね?ダメですね。


 「本当は宗介にも来て欲しかったんだが、うちの文化祭は外部の人来ちゃいけないんだよな。残念だ」


 「本当に残念だ……」


 エデンの園はすぐそこにあるというのに。


 ギリリィ。


 なんだか不快な音が鳴る。オレの歯軋りか。


 「宗介は文化祭で何をするんだ?」


 「まだ決まってないなぁ」


 クラスの方もそろそろ次のホームルームで決めるらしい。部活の方もまだ先輩達から何も言われない。


 「そうか。でも楽しみだな。宗介とお姉ちゃんたちの文化祭」


 およそ一ヵ月で文化祭が始まる。高校入って初めての文化祭。一年生の行事では一番大きいと言っても過言ではないだろう。


 その非日常的な空間で女の子たちがどんな顔を見せてくれるのか。


 「期待に応えられるように頑張るよ」


 今からワクワクが止まらない。



 ***



 「お疲れ、お姉ちゃん!」


 こちらへと帰ってきた神楽坂さんへ華恋がタオルと飲み物を持って駆け寄る。


 「ありがとう。華恋」


 華恋から受け取りながら何かを考え込む神楽坂さん。サーブの精度がいまいちだったのだろうか。悪くはなかったような気がするけど。やっぱりテニスに対して意識が高いのだろう。


 「華恋×マネージャー……マリアージュ……!」


 違った。やはり彼女の頭の中は華恋一色のようだ。


 「何とか華恋をうちのテニス部のマネージャーに……」


 頭の中に唯織が浮かんだ。他校の生徒ながらうちの部室に入り浸る彼女が浮かんだ。口には出さなかった。


 「いや、ダメよ。華恋には私だけのマネージャーでいて欲しい。欲張っちゃダメよ私」


 解決したようで良かったです。


 神楽坂さんの世話を甲斐甲斐しくやく華恋というのも何だか珍しい光景だ。それが楽しいのか華恋はすごくニコニコしている。


 そんな彼女たちを温かい目で見つめる。


 テニスやってて良かった……!


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