彼は審査委員長となる
さて先輩方と被検体……もといモデルの準備ができたとのことなので、正座から解放されて部室の隣の教室へと入った。生まれたての二人の小鹿は支えあいながら移動する。今ほど海神先輩と息があったことはないだろう。
オレは海神先輩に言われるがままに教室の真ん中の前から2番目の席に座る。海神先輩は教壇を隅に移動させそこに司会みたいに立っている。他の先輩方はオレの後ろの先にずらぁっと座っている。飲み物とポップコーン片手に完全に観戦モードだ。それどっから持ってきた。
あと森川先輩がいないのは着せ替え担当だからなのだろうか。
「先輩たちは審査しないんですか?」
「うん。そうだよ」
「いいの。いいの。私たちは」
「うん、私たちが協力した服もあるしそれじゃあ審査が公平にできないしね」
一回も服作りに協力しなくてすみません。だってそんなことやってるって初めて知ったし。オレがそんな皆さんの努力の結晶の審査を担うと思うと少しばかり緊張するが、まあ先輩も心の赴くままに言ってたし、軽く答えるか。
「あとオレにもポップコーン分けてくれません」
「「「「「「「「「「……………………………………。」」」」」」」」」」
全員無視!みんながオレから目をそらしポップコーンを体の後ろに隠した。
「ご静粛にお願いします」
海神先輩が司会風に言う。
「それではアリアちゃんと唯織ちゃんのファッション対決を始めます!」
いや、どっちかっていうと先輩たちのファッション対決だろ。服を選んだ、作ったのは先輩方なわけだし。
「第一試合、男心くすぐる和服対決!先攻アリアちゃんどうぞ」
何その枕詞。ださい。
和服。つまりは着物とか浴衣ってこと?そんなものまで作れるのか。先輩方は実はすごい人たちなのか。
カラカラとゆっくりドアが開く。そしてこれまたゆっくりとアリアが出てきた。お~と先輩たちから感嘆の声が漏れる。
あーうん。全然予想はしていなかったが確かにこれも和服なのかな?
アリアが着てきたのは巫女服。ただし一般に神社で見るよりは布の面積が少ない。ミニスカートだし、袖部分の肩から肘ぐらいまでがばっさりとない。あ、ちなみに生足ではない。真っ白なニーソックスを履いている。
よく似合ってはいる。似合ってはいるが、何分アリアが金髪のため、ファンタジーゲームのキャラが限定衣装とかで巫女服を着ている感じだ。アリアの顔が死んでいるためによりいっそうゲームのキャラ感がぬぐえない。アリア……先輩たちの相手は大変だったろうに。合掌。
「アリアちゃんは巫女服での登場でした。いやーいいですね。清楚な姿はグッときます。是非私に仕えてほしいです」
海神先輩は何を言っているのだろうか。
「さてお次は後攻、唯織ちゃんの登場です。どうぞ」
ガラガラとドアが開け、唯織がぽてぽてと出てくる。なるほどそうきたか。唯織が着てきたのは忍者の服。NA〇UTOに出てくるようなそれぞれに個性があるようなオシャレ忍者服でも、アリアの巫女服のように布の面積が少なかったり網状の部分があったりするセクシー系なわけでもない。
全身黒づくめの忍者服だ。忍者と言えばこれ!という格好だ。眼帯もしているので唯織の今の視界は激狭だろう。アクセントに腰に巻いた赤色の帯が眩しい。いやね、ぶっちゃけて言ってしまえば男心はくすぐられたよ。でもそれはオレが着たいというか意味であっておそらくテーマの主旨とは違うんじゃないの?
というかこれファッション対決じゃなかったの?コスプレ対決なんじゃ……
オレは後ろを向き先輩方の様子を見る。皆さん微妙な顔でやっぱりこれはないなーみたいな顔をしている中、一人だけうむうむと納得気に頷いている先輩がいた。どうやら戦犯は見つかったようだ。
というか唯織もこんな格好嫌なんじゃ。
「…………唯織。気にいったのか?」
こくりと指が垂直にピンと立つ忍者の一番有名な印を結んだ唯織がうなずく。
「にんにん」
「……そうか」
でもごめんなさい。オレはお手元のアリアの札を上げた。唯織は何も悪くない。悪いのは自分の趣味を押し付けた後ろの忍者先輩だから。
***
「さて気を取り直して第二試合、その娘に似合う洋服対決!先攻のアリアちゃんどうぞ!」
先ほどの反省を生かした良いテーマだと思います。
これまたさっきとは違いアリアはすんなりと出てくる。少し恥ずかしそうだが今度は顔に生気がある。
この服はなんていうのか。しいて言うならロリータファッション?でもあれほど装飾過多ではない。上下一体となった淡い水色の服で腕と胸元には少し白いフリルがついている。腰のあたりを紐で締めているので、くびれの細さが強調されている。
「ど、どうかな」
「おお、喋った」
「私をなんだと思っているのかな」
いや、今日は自分を殺してお人形に徹すると思っていたから。
「そうだな。あれだな不思議の国のアリスみたい」
「たぶんイメージ的には合ってるよ。小道具にウサギの人形が置いてあったから」
「うわ。あざとい」
「うん。私もそう思ったから。持ってこなかった。で、どう?」
「似合ってるよ」
「ありがと、でも」
アリアはふわりと笑った後、そう呟く。
「この対決は負けかなぁ」
アリアも十分似合っていると思うけど、唯織はもっとすごいのだろうか。
「では、次に後攻唯織ちゃん、どうぞ!」
入ってきた瞬間、先輩たちからうわぁという声が漏れた。さっきのようにネタに全振りした格好だから引いたのではない。似合い過ぎて引いたのだ。
唯織もロリータファッションというやつだろう。そして服装に詳しくないオレでもわかる。これはゴシックロリータと言われやつだろう。
忍者衣装と同じ全身黒ずくめではあるが、全然違う。黒のドレスに、所々濃い赤のラインが走っている。スカートも特徴的でアシンメトリーになっておりスカートの裾が斜めだ。何それカッコいい。というか眼帯とツインテ、包帯がこんな馴染むファッションがあっただろか。これを唯織に着せた先輩を是非さっきの忍者先輩は見習ってほしい。
「そーくん」
そう言って唯織はオレの目の前でくるんと回る。スカートの裾が綺麗に回る。うん。
「めちゃくちゃ似合ってるな」
「そう」
思わず何のボケもなく素の言葉が漏れてしまった。
「お持ち返したい。ジュル……」
海神先輩、素の言葉漏れてますよ。あとよだれふけ。
オレはこれ以上先輩の痴態をさらすわけにはいかないので唯織の札を手に取った。
***
「さて最終試合です」
きりっとした顔で先輩は言う。あんなにだらしない顔をしていた人と同一人物とは思えない。
「テーマは秘密です。とりあえず言えることはどちらの服も苺ちゃんの自信作です。そしてこの服は最初のインパクトが大事。ということで後輩くん目を瞑ってくれ」
「了解です」
目を瞑る。ドアを開ける音と衣擦れの音。二人分の気配が目の前に現れた。
「それでは後輩くん、どうぞ!」
オレはゆっくりと目を開けた。
「「…………。」」
そこには二人の花嫁が立っていた。
ベールをかぶり俯きげな花束を持つウェディングドレス姿の二人が立っていた。
アリアは装飾が少ないシンプルな真っ白なドレスで体のラインが綺麗に出るタイプのもの。唯織は裾の広いスカートにフリルがあしらわれたみんなイメージするウェディングドレスで青色のタイプのもの。
思わず誰もが息をのむ。
とりあえず、森川先輩すげえな。これを作ったのか。というかこれ作れるのか。どっからどこまでを作ったのだろうか。オレの魔法少女の格好を見て興奮していたイメージしかないから。ギャップがすごい。
「どうかな、後輩くん」
海神先輩がオレに感想を促してくる。
「そうですね」
なんかやけに後ろが静かな気がするがみんなちゃんといる?
「なんか結婚する前にウェディングドレスを着ると婚期が伸びるとか言いませんでしたっけ」
「「「「「「「「「「はぁ~」」」」」」」」」」
クソでかため息。良かったみんないる。というか何でだよこっちは心配してあげているというのに。
後ろからのブーイングがすごい。何?婚期が伸びるなら日下部くんが責任をとれ?うん、それはおかしい。強いていうなら責任の所在は森川先輩にある。
「まあ、二人ともよく似合ってるな」
「「…………。」」
何で二人はさっきから何も喋らないの?
「では後輩くんジャッジの方をよろしく」
簡単に言ってくれるな。これは前の2試合と違ってどちらかを選ぶ明確な理由がない。言った通り二人ともよく似合っている。オレを少し悩んだあと、心の赴くままに動きだす。
「じゃあ……」
オレが札を取ろうとしたその時。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「どべぇらぶ!」
奇声と共に側頭部に馴染みのある衝撃が及ぶ。椅子から転げ落ちるオレ。見上げるとハリセン片手に森川先輩が立っていた。どっから湧いてきた。
「はぁはぁはぁ」
目は血走り、息は荒い。怖いよ。
「……ない」
「はい?」
「させない」
させない?
「私の可愛い子供たちに勝敗をつけようなんて、絶対にさせないんだから!」
らぁらぁらぁとエコーのかかった先輩の魂の叫びが教室に響く。今までの流れを全否定し始めたぞこの人。アリアと唯織も顔を上げ、目を丸くしている。
「そんな残酷なするぐらいなら。ここで日下部くんを殺して私も死ぬ!」
なんか突然重い彼女みたいなことを言い出した。いやオレ関係ないでしょうが。
キッと森川先輩はアリアと唯織に目を向ける。ビクッとなる二人。ずんずんと二人に向かっていく森川先輩。足が震えて動けない二人。そしてオレと目が合う。オレはふいと目をそらした。
ごめん。一番危ないのはオレなんだ。先輩の可愛い子供?を身にまとっている君たちは一番安全だからさ。ここで犠牲になってくれ。安全なのに犠牲とはこれ如何に。
「あなたたちどちらもナンバーワンよ!」
ぎゅっと二人を抱きしめる森川先輩。可愛いよ綺麗だよと二人に話しかけている。二人に話しかけているのか自分の子供たちに話しかけているのか。
「先輩、強いです……」
「苦しい……」
そんな3人に目をくれず、今日の感想を言い合いながら退出する先輩方。ごとんごとんと教壇を元に戻す海神先輩。類は友を呼ぶかぁ。オレは先人たちの言葉の偉大さを再確認した。
というかあれほっといていいんですね。じゃあオレも出よう。
「後輩くん」
教室から出たオレに海神先輩が話しかけてくる。
「後輩くんはどっちを選ぶつもりだったんだい」
「何言ってるんですか?森川先輩の言う通りどっちもナンバーワンですよ」
「本当かなぁ」
なんか含みのある言い方だ。オレはなんでもないふうに答えた。
「それにウェディングドレスに優劣をつけようなんて無粋なんですよ。ウェディングドレスはただ一人の一番になればいいんですからね」
オレはそう言ってクールに立ち去る。
「後輩くん…………ドヤ顔がうざい」
全然クールじゃなかった。
いやだって、オレ良いこと言ったなぁって思っちゃったから……




