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女友達がこんなに可愛い(仮)  作者: シュガー後輩
第三章 中二病少女がこんなに可愛い
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彼は知らぬまに負け戦へと誘われる

ラブコメなのに、昨日や今日の冒頭のような話を書きたくなるのは私の悪い癖だなと思います。

 ざっざっとバッターボックスを足で均し、そしてオレはゆったりとしたフォームで構える。そしてギロリと対する小島を睨みつける。あちらは不敵に笑っている。小島のくせに。一章につき一度の出番しかない身分の分際で。まさかオレに勝てるとでも思っているのだろうか。


 「勝負は一打席でいいんだよな」


 「ああ、フォアボールはなし。打ったらお前の勝ち、打たれたら俺の負けだ」


 「古今東西の野球アニメを見尽くしたオレに死角はない!」


 「死角だらけじゃねえか。いるよな。ゲーム実況とか見て自分がゲーム上手くなったと思うやつ」


 失礼なやつだな。そんな輩と一緒にするな。オレはイメージトレーニングでちゃんとリアルな相手を想像することができる。オレがどれだけジャイロボールを完璧に捉えたことか。


 「ふっ、吠え面をかくがいい」


 「そっちこそ。……吠え面ってどんな顔だ?」


 「後で辞書を引け」


 おそらく泣き顔のことだぞ。多分メイビー。


 小島が腕を振り上げる。小島はもうプロ野球では絶滅危惧種のワインドアップの使い手のようだ。


 ワインドアップが少なくなった理由としては通常時のワインドアップとランナーがいる状態のセットアップ、2種類のフォームを練習するのが大変なことやクセを見抜かれやすいといった理由があるらしい。個人的には腕を振り上げるあのポーズが無くなるのは少し寂しいなと思いました。マンガとかアニメとかでもあそこにめちゃくちゃ気合が入ってることあるよね。


 それはともかく。


 小島はワインドアップから割とコンパクトなフォームで投げ込んでくる。オレに向かって飛んでくるが、オレのイメージではここから曲がる!


 「世界の王!」


 なお一本足打法を使ってるわけではない。ただの気分だ。


 パキーン!


 オレが持つ箒が小島が投げたキャップを完璧に捉えた。小島の頭上を通過するキャップ。黒板に当たりからりと落ちた。コロコロと物哀し気に転がるペットボトルのキャップ。


 「オレの勝ちだ」


 「くそぉ」


 膝から崩れ落ちる小島。オレはくるんくるんと片手で箒を回してから納刀する(訳:ロッカーにしまう)。


 「それじゃあわかってるな」


 「ああ、覚悟は出来てる」


 オレはゴトンと重量感のある箱を小島の前に置いた。


 「ゴミ捨てよろしくな」


 「うぃー。くそ、今度はバッターの方を選んでやる」


 そんな負け惜しみを言いながら、小島はゴミ箱を持って校舎裏へと捨てにいった。


 清掃当番だったオレたちは、ゴミ捨てをキャップ野球で決めることにしたのだ。見事勝利したオレはこれで労働からの解放を勝ち取った。小島は校舎裏まで行って、またここに戻ってこなければならない。敗者にはお似合いの末路だ。


 「あ、妖夢には気をつけろよ」


 「何言ってんの?お前」


 あの時空に巻き込まれたらツッコミ属性のお前じゃ戻ってこれなくなる。


 ***



 ひょこひょこと足どり軽く部活に行く。


 「こんにちわ〜」


 ガラガラと部室のドアを開ける。


 「え」


 「ん?」


 そこには後ろを向きながら上半身の服を脱ごうとしているアリアがいた。少しだけ服が持ち上がり背中がみえている。


 「「…………。」」


 アリアがピシリと固まり、周りの先輩方もあちゃーという顔をしている。唯織がしゅばっとアリアの前に立ちはだかる。今まで見たことない素早い動きだ。


 「着替えるなら鍵閉めなー」


 オレはそう言って廊下に出た。全く恥じらいというものがないのかしら。


 「ぼsjあhdhxjfvskdj!」


 部室から形容し難い声が聞こえた。そんな大袈裟なと思ったオレはきっとデリカシーがない。


 「あーあ。やってしまったね。後輩くん」


 「海神先輩いたんですね」


 「いたよー」


 海神先輩が廊下の隅で体育座りをしていた。あまりにも風景に溶け込んでいて気づかなかった。


 「見てたならドアを開けるのを止めてくださいよ」


 「私も止めようとしたんだが、まあ鍵を閉めてるだろと思ってね」


 「ですよね。普通、部室にノックして入る人なんていないし、着替えてるなら普通、鍵閉めますよね」


 「うむ。だからここにいながら後輩くんを見逃した私は悪くない」


 「ええ、それでノックをせずにドアを開けたオレも悪くないです」


 「「あっはっはっはっは」」


 ガラガラとドアが開く。少し涙目のアリアが立っている。


 「二人とも正座で」


 「「イエス、マム」」


 ピシャン。


 オレは海神先輩の横で正座をする。海神先輩も体育座りから正座へと移行する。


 「それで着替えていたってことは今日は園芸ですか?」


 でもその場合はちゃんと更衣室を使うんだよな。


 「いや、今日は苺ちゃん主導の活動だ」


 「森川先輩の?」


 「ああ、前回唯織ちゃんや君に魔法少女の服を着せたのに味をしめたようでね。今まで作りためていたが、自分と妹さんにしか着せることができなかった服を後輩たちに着せたいらしい」


 「なるほど」


 「そしたら他にも後輩たちを着せ替え人形……もとい着飾りたい人たちがたくさんいてね。ミニファッションショー開催の運びとなったわけだ」


 「事情はわかりました」


 やれやれ仕方がないな。オレはカバンからカツラを取り出す。先輩のためだ。オレも人肌脱ごうじゃないか。


 「ああ、君は今日女装しなくていい」


 「何と!先輩がオレに女装しなくて良いなんて、何か変なものでも食べたんですか?」


 「……君は一体私を何だと思っているんだい?」


 「オブラートに包んでいうなら女好き。包まないなら変態ですかね」


 「てい」


 「足はダメでしょう!」


 正座中の足を攻撃するなんて、血も涙もないのか先輩は!


 「いくら君の女姿が美人だからと言って、いかんせん身長の高さはネックでね。君に合う服は無いんだ。前にも言った通り魔法少女の服はわざわざ君のために作ったんだ」


 「森川先輩……」


 わざわざあれだけのために作ったのか。いや、おそらく虎視眈々とあれをオレに着せる機会を狙っていたんだろうけども。だから異能バトルっぽい導入なのに魔法少女の服というおかしな状況になっていたわけだし。


 「だから今日はアリアちゃんと唯織ちゃんだけだ被害に……二人だけが可愛い服を着せてもらえる」


 今、被害って言った?


 「ということは今日、オレは帰って良いってことですか?」


 それならそれでアリアの精神衛生的にもよろしいと思う。それにアリア、復讐は何も生まないと思うんだ。


 「いや、君には大事な役目がある」


 そう言いながら先輩はニヤリと笑う。


 「君は唯一の男子として審査員をやってもらおうかと思ってね」


 「審査?自慢じゃないですけどオレ女の子の服装なんて全くわかりませんよ。服のセンスがあるとも言われたことないです」


 「だろうね。でも大丈夫だ。君の服のセンスが壊滅的なのはもうわかっている」


 「そこまでは言ってないです」


 誰が服のセンスが焼け野原だ。


 「君にやってもらうことはすごーく簡単だ」


 ポンと先輩はオレの肩へと手を置く。


 「君はアリアちゃん唯織ちゃんどっちが可愛いのか心の向くままに答えれば良い」


 「服の話ですよね?」


 「もちろん」


 何の変哲もない話のはずなのに、何だこの先輩の笑みは。随分と邪悪だ。まるで蟻が蟻地獄に引き込まれるところを上から見るようなそんな目だ。


 まあいいか。つまり今日は座っているだけで良いってことか。いつもまったりした部活だが、今日はさらに楽だ。良き良き。




 「そういえば、先輩は何で廊下にいたんですか?」


 「……着替えてるアリアちゃんや唯織ちゃんを見る目が怖いって言って廊下に出された」


 「先輩……美少女に生まれてよかったですね」


 一歩間違えれば犯罪者だ。


 「神の思し召しってやつかな」


 何を誇っているのだろか。廊下に出されたことを反省してほしい。というかやっぱり変態じゃないですか。



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