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女友達がこんなに可愛い(仮)  作者: シュガー後輩
第三章 中二病少女がこんなに可愛い
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彼はついに学ランを脱ぐ

 久しぶりに何もない平和な休日が訪れた。


 部活もなく、華恋もテスト期間中らしくて突撃してくることもない。姉ちゃんも珍しく外出している為ぱしられることもない。オレたちも2週間後にはテスト期間に入るが、そんなことは些細なことだ。バイトで資金も潤沢、ということでオレは遊び行く。


 オレはいつも通りに学ランを着ると財布とスマホだけポケットに突っ込み玄関のドアを開けた。ギラリと日射しが眩しい。うん、オレは玄関のドアを閉めた。あっついわ。学ランなんて着ていられるか。薄々気づいていたがさすがにもう学ランはきつい。オレは学ランをテイクオフすると再び玄関のドアを開けて外に出る。


 夏に学ランが着れないというのは由々しき問題だ。中学の時はどうしていたんだっけか。あ、そうだそうだ。羽織ってたんだ。学ラン。それでも暑いから滅茶苦茶Yシャツのボタンを空けてたんだった。今はもう慎みを覚えた高校生なのでそんな肌を見せるなんて恥ずかしいことできないが。いっそ学ランを改造してファンみたいなものをしこむか。ソーラーパネルとかつければ長時間の稼働もできないだろうか。うむ。一考の価値ありだな。自分の才能が恐ろしい。


 学ラン夏用計画を立てながら歩き、駅へと到着する。


 「お」


 唯織がいた。駅前のベンチに座りキョロキョロと誰かを探しているようだ。


 「おはよう、唯織。奇遇だな」


 オレは唯織に近づき声をかける。


 「そ、そーくん!おはよう!うん、そうすごく奇遇!」


 すごく奇遇とは一体なんだろうか。朝の唯織はテンションが高いのか珍しい人間だな。


 「誰かと待ち合わせか?」


 「ううん」


 「そうなのか?さっきは誰かを探していたみたいだったが」


 「……顔を振って動体視力を鍛えていただけ」


 「そうか。こんな所でもトレーニングとはすごいな唯織は」


 動体視力にそんなトレーニング方法があったとは。思えばテニス部ではあったが動体視力を鍛えてはいなかったな。動体視力がすごいキャラを見てもなんか地味じゃね、と思ってしまっていた。だがどうしてだろう今はすごく心惹かれてる。そうかこれが大人になるということか。


 「私、すごい?」


 「ああ、すごい」


 「そう」


 おっと、話している場合ではなかった電車が来てしまう。


 「じゃあな。唯織」


 「待って、そーくんはどこを目指すというの?」


 「んー街に出て遊ぼうかなと思って」


 なおここら辺の人が言う街とは、以前伊万里姉妹と出かけた駅前のあたりを指す。


 「一人じゃ危険」


 「あそこはスラム街かなんか?」


 強いて言うなら駅前に宗教家のおばあさんとかよくわからない外国人がいることぐらいだ。出会ったら逃げる一択だ。どちらもこちらが少しでも反応を示すと粘着してくる。宗教家はひたすら神についての教えを説き、外国人はひたすら何語かわからない言葉で捲し立ててくる。


 一度、もしかしてこれイベントなのでは?と思い、神の教えを黙って全部聞いてみたのだが、神聖なアイテムを売ってくることもおばあさんが女神になりオレに技を授けてくれることもなかった。話し終えたおばあさんはどこか奇妙なものを見る目でオレを見た後去っていた。なんだ罠か。


 「だから私が同行する……いい?」


 「なるほど。いいぞ」


 「!」


 「電車も来るし、さっさと行くか」


 「うん」


 思えば、中学の時のクラスメイトとこうして出かける機会来るとは思わなかったな。



 ***



 「なあ、本当にここで良かったのか?」


 「いいの。私が完璧なそーくんの未来を崩すわけにはいかないから」


 オレたち二人はカラオケボックスに来ていた。唯織に今日は何をするつもりだったか聞かれたので正直に答えたら、それ通りに進めようと言われたからだ。


 オレたちは駅前の綺麗なチェーン店のカラオケに入る。


 いつもだったら路地裏にあるぼろく寂れて人気のないドリンクバー設備もない激安のカラオケボックスに行っていた。しかしその路地裏にはここ一年ほどUFOキャッチャーの商品が変わらないゲーセンやテレビでCMをやってるのを見たことない映画ばかり上映している映画館、昼間から呑んだくれている人がいる喫茶店といった怪しい店が立ち並ぶので避けた。


 あれ?やっぱりこの街危険なのか?でもどの街でも路地裏はこんなもんだろ。


 さてそのためごく普通のチェーン店に来たわけだが。


 「浄化される……」


 どうやら唯織は陰属性だったようで陽の気に当てられてしまった。


 唯織が完全に委縮してしまっている。一人じゃ危ないと言って同行したはずが、完全にオレを盾にしている。オレの腰のあたりを掴みながら店員さんを警戒している。


 大丈夫だぞ。あの人が一番何もしない。こっちは金づるだからな。まあ、どんだけ客が入ろうときっとバイトの人たちの給料は一銭たりとも変わらないので、あの人たちの金づるではないが。何にせよ裏ではどう思ってようが表ではにこやかに対応してくれるんだから怖がることないぞ。


 オレたちはドリンクバーで飲み物を入手すると指定された部屋の中に入る。


 「おお」


 唯織はオレから離れると、興味深げに部屋の中を見る。ソファーに座ってみたり、マイクを持ってみたり、タンバリンを鳴らしてみたり、電気をつけたり消したりしてみたり。


 最後のは家にもあるでしょうが。やめなさい。目がちかちかするから。


 「ここが……キャラオケ」


 「カラオケは英語じゃないから発音良く言ってもそうはならんぞ」


 やはり唯織はカラオケは初めてらしい。まあ、中学の時の姿を見れば予想はできるが。学校では無口で実は裏でははっちゃけているということもなかったようだ。


 「そーくんは、よく来るの?」


 「よくってほどじゃないが、まあたまにな」


 多分ワンクールに一回は来てる。よくあることだが、新しいアニメのオープニングやエンディングをこれは歌わなければという使命にかられることがあるからな。


 「私は初めて」


 「そうか。ならさっそく歌ってみようぜ。唯織は歌いたい歌とかあるか?」


 「……わからない。歌なんて歌いたいと思ったことないから。それに歌えるかどうかもわからない」


 「そうか。じゃあほれ」


 オレはマイクを唯織に手渡した。


 「でも、私」


 「いいんだよ。持ってるだけで。こんなのは気分で楽しむもんだからな」


 マイクを持ってたらそれっぽいだろう。オレは適当にアニソンヒット曲ランキングから曲を選ぶ。


 「言っとくが、オレは来たからには全力で楽しむぞ。お金も払っているわけだしな」


 正確には後払いだからまだ払ってはいないが。


 「果たして、その姿を見て唯織はそのマイクを使わずにはいられるかな?」


 単純な話だ。楽しいことは誰でもやってみたい。そして楽しいことは誰かに伝えたい。あとはどれだけオレが楽しさを伝えられるからだ。


 見せてやる。姉ちゃんをも引かせたオレのノリノリ具合を。引かせたらダメじゃん。うん、オタクあるあるだけど語りすぎて逆に引かれるっていうのはあるよね。


 一曲目は最近映画をやった有名ロボットアニメもといロボットって言うと怒られるアニメの主題歌だ。イントロが鳴る。唯織もぴくんと反応する。流石に曲自体は知っているようだ。


 そうやってオレは自分の好きな曲を何曲も歌った。


 結局唯織が自分で曲を入れることは無かったけど、歌っている中で、微かに聞こえるもう一つの声には気づいていた。


 それはオレの声でかき消してしまうのはもったいないぐらい綺麗だった。

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