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女友達がこんなに可愛い(仮)  作者: シュガー後輩
第三章 中二病少女がこんなに可愛い
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彼は校舎裏で目撃する

 下駄箱を開けると上履きの上に紙が乗っていた。ラブレター。その言葉が一瞬頭に浮かんだが、すぐに気づく。やけに薄いということに。手紙ではなく紙1枚がポンと入っている。テニス部の勧誘のチラシだろうか。入学した当時はオレが家庭科部に入るまでずっと入り続けていたものだ。


 最初は普通の勧誘のチラシ。おそらく皆にも配っていたであろうもの。次にどんなメンバーがいるのか詳細に乗っているもの。大会で会ったこと見たことがある人しか書いていなかったため、部活の実力のアピールだろう。そして次に懇願の手紙。あなたが入ってくれないと人数が足りなくて団体戦に出れないんだという。ちなみに嘘だ。テニス部は割と人気の部活だ。そして最後に呪いの手紙。この手紙を見た人はテニス部に入らなければ深爪しますという手紙だ。正直、これが一番興味をそそられた。勧誘に呪いの手紙を使うセンスと呪いが深爪という地味さ。一体どんな人が書いたのか顔が見たくなった。まあ結局入らなかったわけだが。


 オレは今上履きの乗っている紙を取る。ノートの切れ端だ。


 『放課後、校舎裏』


 端的にそう書いてあった。ラブレターの線は消えたわけだが、随分と怪しい手紙だ。目的がわからない。テニス部の人たちが強引に拉致でもしようというのか。


 ま、そもそもこんな指示に従わなければいいのだ。それが一番安全だ。オレは手紙をぐしゃぐしゃに丸めると昇降口のゴミ箱に捨てる。


 よし、今日も一日がんばるぞい。


 ***


 

 放課後、オレは校舎裏に来ていた。安全を選ぶなんて誰が言った。今日は部活もあることだし早く終わる用事だといいが。


 校舎裏はゴミ捨て場や用務員さんしか使わない用具室があるぐらいだ。余談だがオレのスマホで、ようむと打つと変換候補の一番最初に妖夢と出てくる。それはおかしいだろ。絶対一番使わない。


 清掃の時間も終わった今、人気はない。やっぱりいたずらだったのだろうか。


 校舎裏をどんどん進んでいく。


 「うぅ」


 するとどこからともなく、うめき声が聞こえる。


 「大丈夫ですか!」


 オレは数メートル前の柱の陰に座り込む人影を見つけた。慌てて近づく。熱中症にでもなってしまったのだろうか。こういう中途半端な時期に水分補給を怠るのはよくあることだ。オレは回り込むようにしてその人に近づく。


 「わ、海神先輩!」


 柱にもたれるように海神先輩が座り込んでいた。顔を土で汚しぐったりとしている。


 「女性に現を抜かして、水分補給をおろそかにするなんて何をやってるんですか!」


 スパンとオレにハリセンが襲う。オレの見間違いではなければ、先輩の右手がすごい勢いで動いた気がする。


 「先輩、今……」


 「ぐっ、後輩くんか……逃げろ……ここは危ない」


 うむ。どうやらオレの見間違いだったようだ。こんなに弱っている先輩がそんなことができるわけがない。


 「まさか、テニス部が部長を直接狙って……!」


 「うしろ……がくっ」


 今、がくって口で言った?


 そう言って先輩は顔を伏せてしまった。オレは後ろを振り向く。のそのそと柱の陰から出てくる着ぐるみ、ごほん、化け物。お化けをデフォルメしたゆるキャラのようなその可愛い姿に騙されてはいけない。可愛い姿で残虐というギャップで不気味さを醸し出すという目的あるんだろう。きっと。


 「がおおおおおおおおお!」


 やはり声まで可愛いらしい。とことんこっちを油断させようとしてくる。お化けでがおーはどうなんだろうか。


 のそのそとこちらに近づいてくる化け物。オレはとりあえず先輩の前に立ちはだかる。くそぉ、一体どうすればいいんだ。本当にどうすればいいんだ!


 「が、お」


 すると化け物は突然オレの目の前で倒れた。急に立ち止まりゆっくりと前に倒れる。オレは何もしていない。


 倒れた化け物の向こう側。そこに彼女は立っていた。


 唯織が佇んでいた。


 いつもの眼帯に包帯。いつもと違ってツインテールをほどいている。長い黒髪が風に吹かれ揺れている。そして特徴的なのは手に持つ日本刀。あと魔法少女風の服装。


 ……どうしてそうなった?オレは一度目を瞑りもう一度見る。


 至る所にフリルがついているピンクをベースとしたミニスカートの服。胸には大きなリボン、腰のあたりにも大きなリボン、スカートには所々にハートの飾りがついている。白いニーソックスに白いブーツ。


 もう一度言おう。どうしてそうなった。なんだか2つのキャラが衝突している気がする。 


 「……そんなに見ないで」


 「あ、すみません」


 あまりのマッチングの悪さに思わず凝視ししてしまった。いやありだと思いますよ。今、魔法少女って色々なものがでてきてますし、日本刀もありですよ。


 「危ないところだった」


 唯織は刀を紙で拭きながら言う。


 「あ、ありがとう唯織。この化け物は一体」


 「驚いた。あなたにも見えるんだ。これは妖夢。人の欲望が具現化した存在」


 「妖夢……」


 「でも忘れていい。あなたには関係のない話だから」


 「ま、待て!」


 オレの静止に耳を貸さずに唯織は日本刀を抜き身のまま持ちながら走り去っていた。ブーツ走りにくそうだな。


 「後輩くん……」


 「先輩、目が覚めたんですね」


 「ああ、だがまだ体の調子が本調子じゃなくてね。肩をかしてくれるかい」


 「ええ、わかりました」


 オレは先輩に肩をかして立ちあがらせる。


 「早くここから離れよう。妖夢の親玉、妖夢陰が来るとまずい」


 ようむいん……


 「先輩は何を知っているんですか」


 「言えない。それは言ってはいけないきまりだ」


 「そうですか」


 「一つ言えることは君は前を向いて歩き続ければいいということだけだ。それが君だろ」


 「先輩……」


 「いいか、だから決して後ろを振り向くんじゃないぞ。絶対だ。怪しい物音が聞こえても決して振り向くな」


 「……そうですか」


 いつからここは黄泉比良坂になったのだろうか。オレは後ろからめちゃくちゃごそごそという音が聞こえたが振り返らなかった。



 ***


 「ここの教室でいいんですか」


 「ああ、ここでいい」


 あの後、先輩はやけにのそのそ歩き、オレがおんぶを提案してもそれは心に決めた相手にしか許さないと言って断り、挙句の果てにある教室に用があると言ってそこまで連れてってくれと言い出した。


 その教室に到着すると先輩はオレから離れ普通にその教室のドアを開ける。オレは廊下でボーっと待つ。


 「何をやっているんだ。君も来るんだよ」


 「はぁ」


 オレは先輩に従い、教室へと入る。


 そこに彼女はいた。


 唯織が窓際の椅子に座っていた。メガネをかけて本を読んでいる。服装もいつもの制服に戻っていた。窓も空いていないのに風になびく髪。とりあえずメガネするなら眼帯は外した方がいいと思うよ。


 唯織はオレをちらりとみると本をぱたんと閉じる。


 「あなたもここの生徒だったのね」


 「ああ」


 唯織は違うよね。


 「でも前に見たことは言った通り、早く忘れなさい。大丈夫。世界の平和は私が守るから」


 「そんなに強大な敵なのか……」


 その時、バッと唯織は窓の方へと目を向ける。


 「妖夢の気配……!」


 唯織はそう呟くと教室から出て行ってしまった。全然落ち着かないな、これ。


 「先輩……」


 「なんだい」


 「オレは一体どうすればいんでしょうか。わからないんです何も」


 「そうか。私もきまりで詳しく話すことができない。でも君がもし勇気をもって彼女を救いたいというのなら、私にも助言できるかもしれない。後輩くん、覚悟はあるかい」


 「ええ、もちろん」


 「そうかい。なら私から言えることは一つ」


 そこで先輩は瞑目して一拍空ける。


 「十分くらい経ったら屋上に向かうんだ」


 「わかりました!」


 オレはそう言って教室の椅子に座った。


 お、唯織。黒死館殺人事件を読んでいたのか。懐かしいな。でもこれは十分では楽しめないよな。


 


***


 十分後、オレは屋上に来た。


 屋上の扉を開ける。そこには魔法少女の格好で日本刀を片手に立つ唯織。それと唯織を囲むようにして化物の群れ。具体的には総合家庭科部の部員数ぐらいいる。


 「待つんだ。後輩くん丸腰で行く気かい」


 「まだ何も言ってないです」


 「唯織から妖夢が見える人がいるという報告を受けてね。君用の武器を用意してある」


 「すごい!けど結局、先輩はどういう立場の人なんだ!」


 「これだ」


 オレはハリセンを手渡された。


 「なんでやねん」


 スパンとハリセンで先輩につっこむ。初めての割にいい音がでたのではないだろうか。まさかこれがオレ用に用意されたというハリセンの力……!なんていらない能力なんだ。


 「すまん。素で間違えた」


 「先輩……」


 こんな時に素で間違えないでください。というかハリセンを持ち歩かないでください。


 「こっちだ」


 「なんでやねん」


 渡された瞬間にまたもオレはつっこんでいた。渡された白い棒の先端には星と翼の飾りがついている。つまりは魔法のステッキぽい。


 「どう考えてもこれは唯織専用武器でしょ。なんで日本刀なんて持たせてるんですか」


 「いや、これは君ので間違いない。ほら」


 先輩はそう言って取り出したのは。黒を基調とした魔法少女の服。それとカツラとスパッツ。


 「苺ちゃん、もとい森川博士謹製の品だ」


 森川苺先輩はもともと手芸同好会所属だった人だ。服まで作れるという噂は本当だったようだ。オレはその服を受け取る。ロングスカートで首元まで隠れるタイプ。黒色の手袋までついている。一応、男が着ることを考慮して肌をなるべく隠せるようにしてある。


 「着替えるのはいいんですが、唯織たちはあのままでいいんですか」


 「大丈夫だ。変身中は時は止まる」


 「変身!」


 魔法少女の変身の仕方がわからなかったので、戦隊ヒーローやライダーのように叫ぶ。プ〇キュアを見る系男子でもなかったし。ま〇マギ?オレが見るわけなくない?あれが何で有名になったか知らんわけないでしょう。ちなみにオレはがっ〇うぐらしを日常系だーと思ってアニメを見て、トラウマを刻まれたことがある。


 装着完了。でもやっぱりファンシーなステッキにこの色合いの服は似合ってないんだよなぁ。


 「唯織。私も戦う!」


 オレはそう言って屋上に突入した。


 「「ぐっ」」


 「い、唯織!」


 その瞬間地面に手をつく唯織と化け物一匹。「私、やっぱり天才かも」化け物はそんな意味不明ことを呟いている。


 「大丈夫か」


 「だ、大丈夫。想定済みだから」


 そう言って立ち上がる唯織。その顔は凛々しく化け物を見つめている。鼻にティッシュを詰めながら。


 先輩!なんかかっこいいマスクとかありませんか!


 「バカな子。ここに来るなんて」


 そんな顔の唯織にバカとか言われても。


 「でも唯織をこのまま放ってはおけない。危険すぎる」


 「そう……ならば一緒に戦いましょう。あなたとならなんでもできる気がする」


 そう言って唯織は刀を正眼に構える。


 「さぁ、叫んで心の赴くままに。そうすればそのステッキは答えてくれる」


 だからそんなこと言われても、魔法少女ものを見たことないんだって。


 でもオレはのせられるままに叫ぶ。


 「響きわたれ鐘の音、鳴らす我、その音は天上の扉をへてなお高らかに、荘厳なる誓いは幾億年の時を超えようと色褪せることなく、誓いに従い顕現せよ」


 やっぱり魔法少女ぽくない。とっさに思いついた詠唱を言ったが召喚術だなこれ。何か顕現しちゃう。でもここまできたら最後まで行くしかない。


 「ちょ、待っ」


 先輩の焦った声がどこから聞こえた気がした。


 「顕現せよ!サンダルフォ――」


 スパーーーーーン。


 突然、頭への衝撃。詠唱が止まった。この感触はハリセン。ちょっと先輩、詠唱が暴発したらどうするんですか!


 オレは頭をさすりながら振り向く。


 そこには笑顔のアリアがいた。笑顔?かな?


 「何をしているの宗介くん」


 「今、詠唱して天使を顕現させようと」


 「そうなんだ。私をほったらかしにして随分と楽しそうだね」


 ぴたっと唯織や先輩たちが固まったような気がした。おそらくこれの主導者であろう唯織に目を向ける。オレを中二病に戻す活動の一環だろうと予想はついていた。先輩方も唯織を見つめる


 ぶんぶんと唯織は首を振る。


 「参謀はあっち」


 オレたちはその指先にそって屋上の扉のあたりでスマホをいじる海神先輩を見る。海神先輩は一つ頷くとスマホをしまう。


 「アリアちゃんへの連絡忘れてた。てへっ」


 それで許すのはあなたの彼女たちだけだぞ。


 「私、ずっと部室で待っていたんですよね。一人で。独りで」


 「「「「「「「「「「「ご、ご、ごめんさいぃぃぃぃ」」」」」」」」」」」


 化け物+魔法少女二人と参謀は一斉にアリアへと集まり、頭を下げる。先輩たちはどこからか取り出したお菓子で機嫌を直そうと試みるが、まだまだツンツンしているようだ。その表情も先輩たちに刺さったのか鬼可愛がられている。着ぐるみの集団に。


 こうして世界は守られた。一人の少女の孤独によって。


 





 なおオレと海神先輩はこの後の部活中ずっと正座を命じられた。先輩はともかくなんでオレも?

 

 一番オレがノリノリだったタイミングで見つかったからですね。はい正座しまーす。


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