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女友達がこんなに可愛い(仮)  作者: シュガー後輩
第三章 中二病少女がこんなに可愛い
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中二病少女はこうして今に至る(前編)

2話連続投稿の1話目


昨日投稿できなかった分です。

 中学一年生の一年間は私にとって地獄だったように思う。いつからだろう。私が上手く人と喋れなくなったのは。そしてそれが一番酷くなったのは中学一年生の時だろう。


 家族としか喋れず、クラスではずっと黙っていた。頑張って私に話しかけてくれる優しい子はいたが、彼女たちにさえ言葉は出なかった。ありがとうもごめんなさいも。そうして私はクラスから浮いた。単純な話。私が喋らないから誰も私に関わらない。ただ独り。


 しかし中学二年生のクラス替えで転機が訪れる。私よりもっと浮いている人が現れた。


 

 「そうか、それが世界の選択か……」


 「そこ、歴史の授業中に意味深な呟きをするなよー」



 

 「“I was very glad” はい、これを訳してください。じゃあ日下部くん」


 「ふっ、簡単ですよ……『私は欣喜雀躍した』」


 「……英語の授業で先生に国語辞典引かせるやめようね」




 「日下部!校庭に落書きしたのお前だろ!」


 「落書きではないです!魔法陣です!」


 「うるせぇ!たっく、学校の備品を勝手に使いやがって」


 「失礼な!使った石灰はちゃんと自分で購入したやつです!」


 「おし。どっちが礼を失してるか存分に話し合おうじゃねぇか」

 


 日下部宗介くん。学ランを着崩し、至る所を怪我している男の子。彼の言動は理解しがたく、異様に目立った。彼はそんなこと気にした風もなく堂々としている。しかしその悪目立ちは、私にとってはありがたかった。彼を警戒してか、日下部くんの前の席である私が注目されることはなかったから。


 だけど。


 「ふぅ、黙っているだけではわかりませんよ。わからないならわからないと答えてくれませんか?」


 「…………。」


 数学の時間、厳しい女の先生に当てられてしまった。私は直立不動で固まってしまう。答えはわかっている。でも声が出ない。何か言わなければきっと座らせてはもらえないだろう。


 視線は色々なところを彷徨う。クラスの人たちも早く喋れと急かしてくるよう。どんどん自分が小さく圧迫されるようなそんな心持ちになる。そして目から雫がたれそうになったとき、その音は響いた。


 パチパチパチパチパチパチ。


 ひどく静かだった教室に拍手の音が鳴り響く。


 私に注目していた目線が霧散し、私のすぐ後ろへと集まる。


 日下部くんへと集まる。


 「先生、わからないんですか?」


 「何がですか?」


 日下部くんが話し出す。あまりにもなその言い方に先生が少し怒ったような声色をだす。しかしそんなことを意にも返さず日下部くんは続ける。


 「黒崎女史はこうも雄弁に語ってるじゃないですか。答えないことによって答えは無いと言っているんです。つまりこの問題の答えは『無』ですよ」


 「……答えはx=3、y=4です」


 日下部くんの解答に先生が冷淡に返した。


 クラスの嘲笑が日下部くんへと集まる。申し訳ない気持ちで後ろの様子を伺う。


 え?


 日下部くんはどこか満足気な顔をしていた。何故か達成感に溢れた顔をしていた。先生に反抗することが目的?それとも、もしかして、私を助けようとした?


 「静かにしなさい……日下部くん。授業を妨害するようなら出て行ってください」


 「それもまた一興か……」


 学ランを翻し、教室を堂々と出ていく日下部くん。やはり彼は何の痛痒も感じていないよう。微かに笑いながら、まるで休み時間に出ていくように教室から出ていく。


 「はぁ、あなたももう座っていいですよ」


 「…………。」


 私は座った。どうして日下部くんはあんなことをしたんだろう。どうして日下部くんはあんなことができるのだろう。その後の授業の内容は覚えていない。ただずっと日下部くんのことを考えていた。



 教室へと帰ってきた日下部くんの方を向く。聞いてみたいことはたくさんあった。だけどやはり言葉はでてこない。


 「…………。」


 「む」


 「…………。」


 「すまん黒崎女史。オレはまだテレパシーの取得に至ってないんだ」


 「…………。」


 「いやいや、何も言うな黒崎女史」


 さっきから何も言ってない。


 「大丈夫だ。任せろ。すぐにオレはテレパシーを取得するから」


 そもそもテレパシーは私はできない。


 伝えたいことを聞きたいことを、私は頑張って声を出そうとした。その時。


 「だから、黒崎女史はそのままでいいぞ」


 「っ!」


 なんて事はない言葉。日下部くんの勘違いの産物で出てきた言葉。でもその今の私を肯定するような言葉がたまらなく嬉しかった。熱いものがこみあげてくる。さっき我慢したはずの涙が目からこぼれおちる。


 「え?え!な、な、泣いてる?す、す、すみません!いやそうだよね。オレになんか用があったんだよね!それでこんな対応されたらさすがにこれはきつかったよね!いや本当にごめんなさい!ど、ど、どうしよう」


 日下部くんが今まで見たこともないような慌てかたをしていた。それを私が原因で起こったと思うとすこしだけ愉快な気持ちになった。でもかわいそうだから誤解をとかなきゃ。


 「日下部くんもそのままでいいよ」


 「!」


 微かにだが声がでた。聞こえているかどうかわからないけど、確かに声はでた。顔をあげて日下部くんの顔を見る。にやりと日下部くんは笑った。


 「ふっ。喜べ黒崎女史。ついにオレにテレパシーが発現したぞ」


 ふふっ。日下部くんはやっぱりおかしい。



 ***


 「ふぅ」


 「…………。」ジー


 「むっ、黒崎女史。どうしたんだ?」


 「…………。」


 「そうかペアがいないのか……。仕方がない。孤高を主とするオレだが一緒にのりこえようじゃないか。この体育という時間を」


 「…………。」 こて


 「これか?これは今左右に素早くステップを踏んで動く練習をしている。そうすることでなんと分身ができるらしいんだ。どうだ、二人に見えるか?」


 「…………。」 ぶんぶんぶん


 「そうか…………やはり分身への道は遠いな」





 「なあ、やはり発表内容は古代ギリシャにしないか?メチャクチャカッコいいぞ」


 「…………。」ジトー


 「そんな目で見るな。わかっている。日本のそれも室町時代までで発表内容を決めるんだろ。そういう課題だ。でもやっぱり日本だけじゃつまらんから少しは外国のことも入れないか」


 「…………。」 チョビ


 「そうか!少し入れていいか!大丈夫心配するな。先生には上手く言うさ。多角的な視野とか適当に言えば許してくれる」


 「…………。」


 「ちゃんと日本の方も頑張るよ。黒崎女史、そこの資料集取ってくれ」




 

 「黒、暗、闇、昏、黄昏?うーん。鳳凰、竜、いや龍。麒麟はビールみたいだし、亀は、さすがにかっこ悪いよな…………」


 「…………。」 ジー


 「おおう。びっくりするな。急に後ろに立たないでくれ。オレが戦場帰りとかだったら撃たれていたぞ」


 「…………。」 


 「これか、これはカッコいい名前を考えている。いや、なんだ日下部宗介って普通だろ。介なんてなんかかっこ悪くないか?ちなみに黒崎女史はどういう名前がかっこいいと思う?」


 「…………。」 スっ


 「む、そうか…………日下部宗介か。これがかっこいいか。んーそうだな。カッコいいかもしれないな。ありがとう黒崎女史。そういえば黒崎女史の名前もかっこいいよな。黒崎唯織。字面も音の響きも完璧だ」


 「…………唯織」 にへら。


 「そうか。黒崎女史も唯織がお気に入りか」


 ***


 日下部くんとの時間は楽しかった。席が近かったのもあって私たちはよくペアを組ませられた。それがおそらく悪意あるものによるものだとわかっていた。けれどそんなのはどうでもいい。


 日下部くんは私が近くにいても気味悪がらない。日下部くんは私が喋らなくても気にしない。日下部くんは私のどんな些細な挙動でも汲み取ってくれる。日下部くんだけが私のことをわかってくれる。それでいい。それがいい。


 だけどそんな幸せな環境も長くは続かなかった。


 「なあ、黒崎。あーもしかしてなんだが、女子から、その、うん。女子で仲のいい人はいるか?」


 担任の先生は、私がクラスの人から避けられていることに気が付いた。遠回しに聞いてきたその質問はそれを確認するものだった。


 私は首を振った。日下部くんとの会話の成果か最近ではジェスチャーによる意思表示はできていた。


 「そうか。そうだよなあ。黒崎と日下部がいつも組んでるから不自然だと思ったんだよ。悪いな。すぐに気が付いてやれなくて。あいつの世話は大変だっただろう」


 不自然?悪い?大変?


 こいつは何を言っているのだろうか。その目はやっぱり節穴か何かなんだろうか。


 「ん?…………もしかして日下部と一緒に居ることが嫌じゃないのか?お前ら仲が良かったのか?」


 私の怒気を感じたのか、先生はそう聞いてきた。こくりと私は頷いた。


 「もしかして付き合ってるのか?」


 こくりと、私は頷いていた。付き合っていないのに。訂正しようにも喋れない今の私には無理だった。


 「そうか。お前らそういう関係だったのか。そうだな日下部は面倒な生徒ではあるが、悪い奴ではないからな。ある意味であれほど自己中心的やつも珍しい。周りの雰囲気、空気なんて知るかって感じだからな。割と周りを気にしすぎる黒崎とは相性が良かったのかもしれないな」


 相性が良い。うん。見る目がある先生かもしれない。


 「でもわかってるよな。お前らを二人にしてるのは、決してクラスメイトの好意ではないことを」


 「…………。」


 「先生としてはそれは止めなければならない。たとえお前らがそれを望んでいたとしてもだ。わかってくれるな」


 「…………。」 


 私はしぶしぶ頷いた。


 「まあ、安心しろ。なるべくペア、グループ学習はとりあえずは減らすつもりだし、目立った生徒にはこちらから話をしていく。日下部とはなんだ、中学生の範囲で仲良くしてくれ。それとだな黒崎」


 先生はそこで一旦言葉をきって私の目を見る。


 「そろそろ話す練習もしていこう。日下部とでもいいし、先生も協力を惜しまないから」


 先生はそんなどうでもいいことを最後に付け足した。私にとっては日下部くんとの時間が減ることの方が問題だ。


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