彼はやっぱり妹が好き
「今日の放課後空いてる?空いてるよね。教室に残ってね」
いつもの昼下がり、神楽坂さんはオレにそう言い放つと踵を返す。もはやオレの名前さえ呼んでないためオレに言われたのかさえわからないが。オレですか?オレですね。はい。
「放課後、呼び出し……告白か。ふぅ、モテる男は辛いぜ。あんな強引に誘われるなんて」
「「…………。」」
はっはっはっ。笑ってくれよ竜胆、アリア。今日なんてずっと神楽坂さんから見られてたんだぞ。参っちゃうよ。神楽坂さんの目のハイライトは消えてたけど。
「ついに神楽坂さんにバレてしまったのね」
「ああ、りんちゃんから聞いたけど、確か華凛ちゃんの妹と隠れて仲を深めてたんだっけ」
「仕方がなかったんだよ。もはやどうやっても詰みだった」
逆に華恋に冷たく接すればよかったというのか。それはそれでバレたときに後がどうなるか怖い。これは避けようがない未来だった。しいていうならフレンドリー過ぎる華恋が悪い。つまりは育てた神楽坂さんが悪い。よし、この論理で無罪を主張しよう。
「そうね。どうやっても罪だったものね」
「うん、なんか違うよ。ああ、そうだ。竜胆に頼みたいことがあるんだけどいいか?」
「一緒に放課後に残るのはちょっと……」
いやいや、そんなことは頼まないよ。これは二人の問題だからな。
「―――――――――。」
オレは竜胆に頼みごとをした。
「それぐらいだったら別にいいわよ。けど逆に火に油を注ぐことにならないかしら」
「竜胆はすぐに逃げてくれ」
「わかったわ」
すぐに逃げることを了承できる竜胆さん、まじかっけー。
「よし、しょうがないなぁ。私も協力してあげるよ。宗介くんに何か考えがあるんでしょう?」
アリアがどんと胸を叩き、そう主張する。やだ頼もしい。まじかっけー。だけど。
「え、いや、特にアリアにやってもらいたいことはないけど」
「…………てい、てい」
可愛い声で、すねに蹴りを入れないでくださる?
「というか、今日の放課後は普通に部活があるのよね。神楽坂さんはどうするつもりかしら」
「瞬殺するつもりなんじゃない?」
「…………。」
オレはごち○さの最終回を見るまで死なん。
ごち○さは不滅なので、つまりオレは不死。
***
放課後、オレと神楽坂さんは教室で対峙していた。クラスメイトと教室で話をするだけなのに神楽坂さんの雰囲気が尋常じゃない。その雰囲気を察したクラスメイト達はそさくさと教室を出て行ってしまった。オレは時間稼ぎもかねて小島に絡んでいたが、「俺を巻き込むんじゃねぇ!」とガチ拒否されてしまった。
「やっと二人きりになれたね」
「そうだな」
何そのロマンチックな言葉。すごいドキドキするわ。これが恋?
「なんで呼ばれたかわかってるよね。誤魔化しても無駄だよ。見ちゃったから華恋のスマホ。それだけはやるまいと思っていたけど、華恋のためだから仕方がないよね」
「いや、流石にプライバシーは守った方がいいんじゃ」
ドンと神楽坂さんが机を殴る。
「大丈夫。見たのは連絡先だけだから。内容は見てないからセーフだよ。まさか日下部くんの名前が有るとは思わなかったよ。それに君のお兄ちゃんが私が探していた空だったなんてね」
「いや、空はオレの姉で」
「いいの。もう言い訳なんか聞きたくない。どうせ私とクラスメイトであることを利用して近づいたんでしょ?それで仲良くなりましたと。ひどいな。私日下部くんのこと信じていたのに」
あながち否定できない。確かに最初は姉のクラスメイトだと名乗って近づいた気がする。
「ねぇ。約束して。もう二度と華恋には近づかないって。それで許してあげる」
オレはその言葉に思わず笑ってしまった。同じような会話を前にもしたことあるな。そしてオレは失敗した。
というかみんなみんな友達や妹のことを大好きだろ。楽園か。ここは。
「それはできない」
「そう。じゃあ……」
「だって華恋が傷つくからな」
オレの方に向かおうとした神楽坂さんの足が止まる。え、怖い。「じゃあ」の後に続く言葉は一体何だったの?
神楽坂さんの顔がゆがむ。そんな顔は見たことがなかったな。
「華恋?馴れ馴れしく名前を呼んで……!華恋があなたと離れたぐらいで傷つくわけないでしょ!」
「オレもそう思ってた。オレごときが離れたぐらいで傷つくことなんてないと思ってた。でもそれ違うんだとよ」
オレは一度息を吐きだした。こんなことを言うのはキャラじゃない。でも神楽坂さんには本音で話してもらわないといけない。
「オレは華恋ともう知り合ってしまった。それで喋って、遊んで、一緒に笑いあった。その分だけ華恋は傷つくぞ。もしかしたらそれはすごい小さい傷かもしれない。けど、神楽坂さんはそれを許容したりしないだろ」
「くっ……」
しないよな。だってお姉ちゃんだもんな。
神楽坂さんはきっとオレを信用していないわけではない。妹のことを相談するぐらいだ。でもオレは男だから。華恋を傷つく可能性を極力排除したいのだろう。
「でも、それでも、私は、あなたを」
「なぁ、神楽坂さん。どうして華恋を不良だと思った時、オレに相談したんだ?」
「え?」
「オレなんかを頼らずとも華恋に直接聞けばよかった。それに『空』を探すときもそうだ。なんだか迂遠な方法で探してたみたいだけど、華恋に聞けばよかったんだ。それが一番早いだろ。なんでだ?」
「そんな話、今は関係ないでしょ……」
「ある」
オレは逆に神楽坂さんへ踏み込んだ。神楽坂さんは一歩後ずさった。
「なあ、なんでなんだ?」
「そんな、そんなことしたら……」
神楽坂さんは一度ためらう。だがオレに気圧されたのが気に入らなかったのか、そのまま続ける。
「そんなことしたら、私がカッコいいお姉ちゃんじゃいられなくなっちゃうでしょ!私は華恋に不安げな顔なんて見せられない。華恋のことをなんでも知っているわかっているお姉ちゃんなの!わかっていなきゃいけないの!華恋のどんなことでもかっこよく解決できるお姉ちゃんじゃなきゃいけないのよ!そうじゃなきゃ私は、私は華恋のお姉ちゃんじゃない……」
神楽坂さんはそう地面に向かって吐き出した。ガタッと教室のドアが揺れる。神楽坂さんは気づいていない。
そしてごめん神楽坂さん。オレはシスコンの味方だけど、妹キャラの方が好きなんだ。
「華恋は言ってた。自分がお姉ちゃんの迷惑にしかなってないって」
神楽坂さんの顔がのろのろと上がる。
「だから不良になったんだと。強くなるために。お姉ちゃんに迷惑をかけないように。どう思う?お姉ちゃん」
「そんなわけ……そんなわけないでしょ!私は華恋がいるから頑張れる。華恋のためなら何だってできる!華恋が迷惑?そんなこと一度も一ミリも思ったことなんてない!華恋と触れ合っているときが私の幸せなの!私は……華恋が大好きなのよ……!」
だよな。知ってる。好きなものために人はなんだってできる。あまつさえそれが迷惑だなんて重荷だなんてあるはずがない。
だってよ華恋。全く見栄っ張りなお姉ちゃんだ。
教室のドアが開く。入ってきたのは神楽坂さんと全く同じ顔の少女。いや、頬が濡れているから違いがわかるな。
「お姉ちゃん……」
「華恋!どうしてここに!?そんなことより聞いてたの?」
「うん、全部」
「そう……幻滅したかしら……こんなわがままで嫌なお姉ちゃんで」
「ううん」
そう言って華恋は神楽坂さんをぎゅっと抱きしめる。
「宗介が言ってた。姉妹はわがまま言ってもいいんだってさ。それにどこにもわがままで嫌なお姉ちゃんはいなかったよ」
「そ、宗介……こほん。そう。そんなことを。ごめんね。華恋。私が何も言わないから華恋に辛い思いさせちゃったみたいで」
「こっちこそごめんなさい。色々心配かけた」
神楽坂さんも華恋のことを抱きしめ返す。そうして二人は少し悩んだあと同時に口を開いた。
「「大好きだよ」」
そう言って二人の少女は笑った。もう二人の違いはわからなかった。
オレは教室から静かにでた。
「生き残ったようね」
「まあな」
教室を出るとジャージの竜胆がいた。
「あれ、部活は?」
「見てわからない?ランニング中よ」
わからないよ。先生ーさぼっている人がいます。
「それに私のペアの人も来てないみたいだしね」
そう言って、教室の方を優しく見つめる。
「ありがとうな。ここまで華恋を連れてきてくれて」
「いいわ。またどっかで返してもらうから」
「お手柔らかにお願いします」
「それはどうかしらね。私はもう部活に行くけど。あなたはどうするの?」
「こんな美味しいシチュエーション盗み聞きしていくに決まってんだろ」
「そう見張るのね。確かに今誰かが教室に入ったら台無しだものね」
そんなこと言ってませんけど。竜胆はクスリと笑うと去っていた。
「ふぅ。あ、部外者入れたことバレたら怒られるかな」
あーあ、折角優等生だったのに、そのキャラが崩れてしまう。
教室のドアに寄りかかりながらちらりと中を見る。二人はまだ抱きしめあいながら話していた。だが確かにどちらも笑っている。
まあ、この光景が見れただけでおつりがくるな。オレはそう思いながら廊下の先から歩いてきたバーコード先生に突撃するのであった。




