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女友達がこんなに可愛い(仮)  作者: シュガー後輩
第二章 不良娘(偽)がこんなに可愛い
39/142

彼は元不良娘の本音を聴く

 「お、すまん待たせたか」


 「いや、今来たところだ。全然待ってないぞ」


 そんなまるでデートの前のような会話を自分の家の前でする。自分から呼んだ手前、授業が終わり次第早めに帰ってきたつもりだったが、華恋は先にオレの家の前で待っていた。距離的には華恋が通う女子高校の方が遠いので、授業は華恋たちの方が早く終わるのだろう。


 鍵を開け、家に華恋を招き入れる。


 「今日は空はいないのか?」


 「ああ、今日はこの時間はまだ授業があるからな」


 「へー」


 そのままオレの部屋へと華恋を通す。


 「なんか久しぶりだな。こうして宗介と二人きりで会うのは」


 そう言いながら、とうっと華恋はオレのベッドにダイブする。自分の部屋か。男子の部屋に入って真っ先にする行動がそれはどうなんだろうか。


 「で、今日は何をして遊ぶんだ」


 ある程度ベッドで跳ねて満足したのか、華恋はベッドのふちに座ると聞いてくる。オレも学ランを脱ぐと机の前の椅子に座りながら答えた。


 「そうだな。まあ、遊びは考えてあるが、その前に華恋に聞きたいことがあったんだ」


 「聞きたいこと?」


 「ああ」


 オレはそこで深く息をはいた。


 「華恋はどうして姉離れをしようと思ったんだ?」


 「え……」


 そんなことを今更聞かれるとは思っていなかったのだろう。華恋の顔が少し強張った。


 「な、何でそんなこと聞くんだ?姉にずっとべったりしている方がおかしいだろう。姉から離れるのが普通だ。だからそこに理由なんてない」


 「そうだな。本来だったらそうかもな。いつも一緒に居た相手と、環境が変わって、そしてだんだんと一緒の時間が少なくなっていく。そうして自然に相手と適度な距離をとる。それは普通のことだな」


 「だろ!だからわたしも」


 「でも不良になろうとしてまで、離れようとしたことには何か理由があるはずだろう?」


 あれは早急に無理をしてでも姉から離れるんだという意思を感じる行動だった。


 「…………。」


 「神楽坂さんが嫌いになったか?」


 「違う!お姉ちゃんは大好きだ」


 「そうだろうな」


 オレはすぐにうなずいた。


 「……宗介は意地悪だな。そんなことないとわかってて質問した」


 華恋は力のない笑みを浮かべた。


 このまま何も聞かずにいつものように遊べばよかった。でもそのいつも華恋の笑みの裏には、他の仲が良い姉妹を悲しげに見つめる華恋がいる。寂しげにお姉ちゃんと呟く華恋がいる。オレはそれが嫌だった。


 「わたしがお姉ちゃんから離れようと思った理由は、すごく簡単だよ。お姉ちゃんにこれ以上迷惑をかけたくなかったから」


 そう言って華恋はベッドの上で体育座りになった。まるで自分を抱きしめて守るように。


 「お姉ちゃんはいつも私の世話をしてくれる。いつも私を構ってくれる。いつも私を守ってくれる。それなのに、自分のことだって涼し気な顔で完璧にこなして、私にとってお姉ちゃんはヒーローだった。なんでもできるんだと思っていた……でも、そんなことはない」


 それは至極当然のことだった。


 「高校に入って、お姉ちゃんはすごく無理をしていたと思う。通学時間も多くなって、勉強も難しくなって、部活も厳しくなって、時間なんか全然足りないはずなのに、私に接する時間は全然減らない。私が減らそうとしないからだ。あ、私お姉ちゃんの邪魔にしかなっていない。そう思った」


 華恋の膝を抱える手にギュッと力が入る。手は白くなり、スカートにはしわが寄った。


 その華恋と接する時間が神楽坂さんの力になっていた。そういうのは簡単だ。あの神楽坂さんのことだ、遠からず似たようなことは思っているだろう。でもそれを言うのはオレじゃない。それは神楽坂さんの口から言ってしかるべきだろう。オレが伝えること、それは。


 オレは椅子から立ちあがる。


 「それでお姉ちゃんから自立することを決意した。それで不良になって、お姉ちゃんが心配して構ってくれてうれしくなった自分が嫌だった。空に姉離れは少しずつで良いって言われてほっとした。安心した。だけどそんな自分もすごく……」


 今にも俯き隠れてしまいそうな顔をオレはむにゅっと両手で挟み込んだ。


 「ほへ?」


 思わず華恋は俯くのをやめて、顔を上げる。オレは中腰になると華恋の目をしっかりと覗き込む。


 「華恋はすごいな」


 オレが伝えるべきことはきっとこの言葉だろう。


 「わたしがすごい?」


 「ああ」


 オレの言ったことがただの慰めだと思っているのか、華恋はぎこちなくオレに向かって笑う。


 「わたしの何がすごいというんだ?わたしは何もできていないというのに」


 「姉離れをしようとしていることだよ」


 「そんなの普通だ。みんなが自分でしていることを一人でできることをただやっているだけなんだぞ!」


 「そうやってしんどいことに挑んでいるのがすごい。内容なんて関係ない」


 オレからしたらどうでもいい。


 「オレはしんどいこと自分が嫌なことからは徹底的に逃げ続けたからな。だから華恋はすごいよ」


 華恋はまだ何を言われているのかわからない顔だ。だからわかるまで言い続けよう。


 「だって今までずっと嫌な気持ちだったんだろ?」


 「……嫌な気持ちだった」


 「今までずっと寂しかったんだろ?」


 「……寂しかった」


 「そんな感情ををずっと抑えていたんだ。すごいよ華恋は」


 華恋の綺麗な目から雫がぽたぽたと落ちる。


 「寂しかった!わたしがそう望んだのに!お姉ちゃんと接する時間が減って寂しかった!お姉ちゃんが一人で何かコソコソやっていて寂しかった!わたしと話すときも上の空の時があって寂しかった!わたしからはなれていったのに、そんなのわがままだってわかっているのに、それでも寂しかった!」


 「ああ、よく頑張ってる」


 その言葉を聞いて華恋は顔を挟むオレの手から抜け出すととそのまま首元めがけ抱き着いてきた。中腰になっていたオレは華恋を受け止めながら地面に座り込む。


 泣きながらオレのことを強く抱きしめる華恋の背中を撫でながらオレは言う。


 「これは姉が言っていたことなんだが」


 「う゛ん゛」


 「姉弟っていうのは、理不尽なわがままを言っても許される関係らしいぞ」


 「っん!」


 それから華恋は堰を切ったように吐き出した。


 なんで構ってくれないの。どうしてそんなに私に構ってくれるの。なんで私を誘ってくれないの。どうして一人の時間をもっと大切にしてくれないの。お姉ちゃんと一緒の高校に通いたかった。なんで私は頭がよくないの。なんでお姉ちゃんはバカじゃないの。どうして私は努力ができないの。どうしてお姉ちゃんはそんなに頑張れるの。このまま迷惑かけつづけたらわたしをきらいになるだろう。わたしをきらいになんてなるはずがない。きらいになれたら楽だろうか。楽かもしれない。でも……なんで……どうして……。


 それは支離滅裂で雑然たる言葉の洪水だった。全部が全部華恋の本音なのだろう。華恋は泣きながらそれらを言い続ける。繰り返し、たとえ意味のある言葉にならずとも。


 オレは時折頷きながら、ただ背中を撫で続けた。いくらか華恋が楽になることを願って。


 


***


 「落ち着いたか」


 「……うん」


 ずびびと華恋が鼻をすする音が聞こえる。あーもう鼻をすするんじゃありませんよ。


 返事の通りだいぶ落ち着いてきたようで、華恋の鼓動もだいぶ……まだ早いな。さっきのはどうやら強がりだったようだ。


 「宗介はあれだな。お姉ちゃん狙いじゃなくて、わたし狙いだったんだな……なんだ、それは、ちょっと困るな」


 「へ?」


 「意地悪してから優しくする、口説きのテクニックだよな」


 「口説いてない。口説いてない」


 全くそんなこと誰から教えてもらったのか。


 「むう。じゃあ、わたしをこんなにしてどうするつもりだ」


 「どうもしないよ。言ったろ。オレはシスコン姉妹の味方なんだよ」


 「またそれか。宗介は照れ屋なのか。そうやってはぐらかして。姉妹を愛する姉妹なんてそんな当たり前の……」


 そこで華恋は何かに気づいたかのように言葉をきった。


 「そうだよ。妹を愛していない姉なんかいるかよ」


 「がぶっ」


 「っなんで!」


 「なんか全部宗介の手のひらの上かと思うとムカついて」


 「だからって噛むことないでしょうが」


 学ランを着たままでいればよかった。そしたら肩パットで防げたし、華恋の涙でYシャツがびしょびしょになることもなかったのに。つまり学ランは最強!


 「よっ」


 華恋はそう言って、オレから離れて立ち上がる。


 「久しぶりに泣いたらスッキリした。でもやっぱりわたしは姉離れを止めないぞ。だってわたしもお姉ちゃんが大好きなシスコンだからな」


 それは華恋の決意であり。姉からの自立の一歩目でもあるのだろう。


 「やっぱりすごいな華恋は」


 「ああ、わたしは不良を経て強い女になったんだ」


 そう言って筋肉がほとんどない力瘤を見せる。オレにできることはここまでだろう。あとは神楽坂さんとの問題だ。


 あ、でももう一つだけオレにできることがあるかもしれない。


 「じゃあ、遊ぶか」


 「え?今日はさっきの話をするために呼んだじゃないのか?」


 「違うよ。遊ぼうって言ったろ。華恋、ジャージを持ってきてくれたか?」


 「おお、そういえばそんなこと言っていたな。ちゃんと持ってきたぞ」


 「よし」



 ***



 オレたちがジャージに着替えて来たのは近くのテニスコート場。その中の壁打ちコートだ。


 「華恋。テニスはやったことあるか?」


 「んー小さい頃に少し。わたしは直ぐにやめちゃったけど、お姉ちゃんはその時もすごかったんだぞ。辞めた後もお姉ちゃんのカッコいい姿が見たくてテニスコート場にはよく行ってたっけな」


 それはきっと今でも神楽坂さんがテニスを続けている理由の一つなんだろう。妹にカッコいいところを見せたいから。いい理由だ。


 「さっきの話の続きなんだが、華恋は結局神楽坂さんに迷惑をかけたくないってことだろ。だから離れる。でも寂しい」


 オレは華恋にラケットを渡す。


 「じゃあ、新しいつながりを作ればいい。普通の姉妹がファッションの話とかするようにな」


 「それが、テニスか」


 そうだテニスはすごいんだぞ。なんてたって中学時代のオレとまともにコミュニケーションをとれる手段だったからな。それにオレは神楽坂さんのこと何にも知らないから、テニスぐらいしか思いつかなかった。


 「神楽坂さんはテニスを好きだと思うか?」


 「たぶん」


 「誰だって自分の好きなものに興味を持たれて嫌な気持ちになる人はいない」


 「たしかに」


 オレだって自分の好きなことに興味を持たれたら、その興味の三倍くらいの情報を与えて、興味を失せさせるところまではっきり見える。ダメじゃん。


 華恋は手に持ったラケットをじっと見つめている。


 「ま、とりあえず今日はテニスで遊んでみよう。それでテニスに興味を持てなくても、神楽坂さんと話す話のタネぐらいにはなるだろう」


 ほれっとオレは少し柔らかめのボールを投げる。


 「ほっ」


 おお上手い。華恋はちゃんとボレーをして山なりにオレに返した。オレも優しめにボールを返す。時折ボールを落としながらもオレたちはボールを打ち合った。


 ポーン。ポーン。ただボールを打つ音がコートに響く。



 「なあ、宗介」


 「んー」


 「すごく楽しいな」


 「そりゃ良かった」


 「それにすごくワクワクしてて、ドキドキが止まらない」


 オレもきっとテニスを始めた時はそんな気持ちだったんだろうな。



 「なあ、宗介」


 「んー」


 「今の気持ちをどう表現していいかわからないんだ」


 「おん?」


 「わたしはバカだからな。だから一番単純な言葉で伝えようと思う」


 そうして華恋は言った。



 「ありがとう」


 

 オレは思わずボールを打ちそこなった。


 その時初めて華恋の心からの笑顔をみたような気がした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 見返してたけどやっぱこの回いいな
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