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女友達がこんなに可愛い(仮)  作者: シュガー後輩
第二章 不良娘(偽)がこんなに可愛い
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彼の長い一日が終わる

 「〜〜〜〜〜♪」


 オレたちはカラオケにいた。


 そして男だということが完全に桔梗さんにバレたオレは、男女が交互に歌う系のデュエット曲を歌わされていた。今歌っているのはアニメ映画の主題歌の花火を打ち上げるやつだ。交互に歌い分けるのめちゃくちゃきつい。


 オレがヒトカラでラブ○イブ9人歌い分けを練習していなかったらできなかったかもしれない。これの何が大変ってまず9人分の歌うところを覚えなければならないこと。どんだけ暇なんだオレは。なお歌い分けられているかどうかは聞いてくれる人がいないのでわからない。


 「ゲホッ、まあこんなもんですよ」


 「すごーい!じゃあ次は……」


 あの、折角みんなで来たんだからみんなも歌おうぜ。もはや拷問ですよ。騙してたのは悪いとは思ってますけど、姉ちゃんに一番罪があると思うんですよね。そんな姉ちゃんは一人パフェを突いている。なんで自分一人だけ頼んじゃうかな。


 オレは桔梗さんの隣に座りコーラを飲む。次はキャラメルの温かいやつ飲もう。カラオケのドリンクバーもなかなか侮れない。


 華恋が懐メロを歌っている。今でもカラオケのランキングの上位に来る夏の曲だ。華恋によく似合っている。姉ちゃんはパフェを食べながらそんな華恋の撮影にいそしみ、竜胆は虚無の顔でタンバリンを鳴らしている。カラオケは初めてらしいので、歌うことを振られないように陰に徹しているのだろう。


 そんな中でオレは隣の桔梗さんに話しかける。


 「あんまり怒ってないんですね」


 「ん〜何が〜?」


 「女性だと騙していたこととか妹さんへと女装して近づいたこととかですかね」


 姉なのだから当然竜胆が男嫌いだと言うことは知っているだろう。それで竜胆を騙して近づいていたとなると極刑もあり得る。


 「まあ、思い返せば空と少し話が噛み合わないなと思っていたし、りんも君のことは知っていたみたいだしね。それに君があの日下部くんなんでしょ?」


 「ええ、そうです。噂の完全無欠の優等生とはオレのことです」


 「その噂は知らないかなぁ」


 あれ?これは言ってなかったか。何て言ったっけ?イタリアのイケメンだっけ。そんな褒めるなよ。


 「高校に入ってからさ。りんがアリアちゃん以外の人の話をするようになったんだよね」


 ああ、その話はなんかアリアにも聞いたことがあったな。


 「それにマラソン大会の日なんか私家にいたんだけどさ、すごくぼやーとしながら帰ってきたわけよ。ぶかぶかのジャージを着てね。もうすごくキュンキュンしたわけ」


 「わかる。大きめの服を着てる女の子っていいですよね。萌え袖なんてあざといはずなのに、それがわかってるのに、逆らえない魅力がある」


 「え?」


 「え?」


 聞こえなかったかな?確かに周りはうるさいけど、今まで普通に会話してましたよね。


 「でもその後かな。ちょっとだけ、りんが落ち込んでいた時があったんだよね」


 「……。」


 「おっ。それは心当たりがある顔だ」


 そうだな。そこまで時期が特定されてしまうとわかるな。最近のやらかしが頭に浮かぶ。


 「まっそれも別にそれも良いわけよ。すでに解決してるみたいだしね。今日だってりんはすごく楽しそうにしてた。それは、宗くんが居てくれたからでしょ」


 「楽しそうにしてましたかね」


 「してたよ。りんのことなら何でもわかる。お姉ちゃんだもん」


 そう言って桔梗さんは優しげに竜胆を見る。華恋にマイクを向けられてたじたじになっているけど。


 「いいお姉さんですね」


 「お、つまりはりんと結婚して私を姉にしたいということかな」


 「違いますよー。斬新な最低男ですねー。それに姉はもう間に合ってますから」


 一人の世話で精一杯だ。あの姉は早く自立しないかな。


 「なるほど、つまりは私と結婚してりんを妹にしたいと」


 「それは少し心惹かれますね。妹という部分に」


 「あれ、おかしいな〜個人名が出てきてないぞ〜私とかりんの要素はどうでもいいのかな〜?」


 「頬をぐりぐりしないでくださいよ」


 姉妹揃ってオレの頬に穴でも開けたいのだろうか。


 そして華恋の歌が終わる。オレの記憶が確かならこの後はまた桔梗さんが入れたデュエット曲だ。気合を入れてマイクを持って立ち上がる。


 「あ、待って待って、宗くん」


 「なんです?」


 「そろそろマイクを独占しすぎじゃない?」


 「あ、いいですね今の。すごく理不尽で姉ちゃんの友達って感じがします」


 「冗談だよぉ……。私から空になんか言おうか」


 「友の声がはたして届くかどうか……」


 「もう理性を失った化け物扱いなんだね……じゃなくて、はい」


 桔梗さんはマイクを差し出してくる。もうマイクは持ってるんだが、今度は2本持って別々の声を吹き込めと?無理ゲーがすぎるぞ。


 「そろそろ、りんにもカラオケを体験させてあげないとね。デュエットの方が気負わず歌えるでしょ」


 「大丈夫ですかね。オレの歌声を聞いた後では、一緒に歌うなんて、それこそ気負うんじゃ」


 「あはははははは!」


 一瞬虚を突かれたような顔をしたが、明るい声で笑う。何故笑う。こっちは本気で心配しているというのに。


 「本当に宗くんは面白いな。中々そんな真剣な顔でそんなことを言える人いないよ?あーおかしい……大丈夫だよ。宗くんと一緒なら。ね」


 そう言って、パチンとウインクをした。それを素面でできるのも中々だと思いますけどね。とてもあざとい。でも、悔しいことにかわいい。


 ま、そういうことならと。タンバリンを叩き続ける竜胆に近づいていく。思考を止めるな。もう誰も歌ってないぞ。


 「それに歌いわけはともかく、歌自体の上手さは宗くん普通だしね」


 嘘だろ。おい。


 それなら、あんまり上手くないですね!と言ってほしかった……


 ***



 「いや~今日は楽しかったねぇ~」


 「そうね。いい休日だったわ」


 「「「……。」」」


 最寄りの駅まで戻ってきて、姉ーズは晴々とした顔でノビなんかをしている。


 一方妹ーズ(偽も含む)は精神的と体力的にもう限界であった。


 なんで、あんなチャンスであの言葉を言ってくれなかったんだ……!言われるのも言うのも憧れていたと言うのに……!もうきっとあんなシチュエーションは二度と来ない。


 竜胆はオレと歌った後も、桔梗さんに付き合わされげっそりしている。でも最後の方は開き直ったのか壊れたのか、いい声が出てたと思いますよ。


 華恋は単純に体力の限界。電車の中からずっとオレに寄りかかりながら、うつらうつらしている。今も地面に座り込みそうだ。


 あーもうせっかくオシャレしたんだから、地べたなんかに座ったらお母さんとお姉ちゃんが泣きますよ。 


 オレは仕方がなく華恋をおんぶする。


 「……節操ないわね」


 え、何がですか?


 竜胆は鼻を鳴らすと桔梗さんの方へと歩いていった。オレも一緒についていく。


 「じゃあ解散だね」


 「そうね。華恋ちゃんももう限界だしね」


 とととっと軽やかに桔梗さんはオレに近づくと耳元で囁いてくる。


 「今日私が話したことはりんには内緒ね」


 「了解しました」


 「それじゃあ、また一緒に遊ぼうね。宗ちゃん」


 あ、次も女装なんですね。


 「ほら帰るわよ、姉さん」


 ぐいっと桔梗さんの手首を竜胆が引っ張る。


 「もうちょっと話したかったのにー。じゃあね、宗くんと華恋ちゃん。また明日ね空」


 「ん」


 「……おー」


 「はい、さようなら」


 ぴたりと足を止め竜胆が振り返る。


 「……その日下部くん。また明日」


 「おお、また学校でな」


 それだけ言うと竜胆は桔梗さんの手首を離して歩き始めた。桔梗さんは一度こちらへと手を振ると、竜胆に追いつき後ろから飛びついた。おーわちゃわちゃしてる。


 仲が良い姉妹なことで。


 「私たちも帰るわよ」


 「へーい。ほら華恋もそろそろ起きろ?家は知らないから送っていけないぞ」


 

 というか怖くて神楽坂家なんて近づけるか。とりあえず華恋がいつもオレの家から帰るときに使っているバス停を目指して歩き始める。この状態で一人で帰すのは危険かな。姉ちゃんに車で送ってもらうか。同性の友達なら大丈夫だろうし、たとえ姉が神楽坂さんに襲われようが心は痛まない。


 ま、一番は華恋がちゃんと起きて帰ることだけど。そんなことを考えながら夕暮れの道を歩く。



 

 「うん、うん。大丈夫。すぐに起きるぞ………………お姉ちゃん」


 耳元でそんな寝言が聞こえた気がした。

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