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女友達がこんなに可愛い(仮)  作者: シュガー後輩
第二章 不良娘(偽)がこんなに可愛い
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彼は耳を塞ぎ目を閉じた

 「今日は、帰りたくはないんだ」


 そういって神楽坂妹は捨てたられた子犬のような目でオレを見る。ぐっ、オレには抗いようがない。さっき猫をやたら適当に処理したと思っただろう?オレは犬派なのだ。


 着替え終わり、控えめにちょこんとオレの学ランの袖を握りオレを上目遣いでみる神楽坂妹。髪の長い小泉〇陽かと思った。オレはすぐさま頭を公衆トイレの壁へと打ち付けた。現実と架空の境目がわからなくなったらオタクは終わりなのだ。一生理想を求めて彷徨い歩くどちらの世界にも属さない浮遊霊になってしまう。


 これが妹の力というものか。神楽坂さんがあんなに狂ってしまうのも頷ける。オレも数多の日常系アニメで慣らしておかなかったらどうなっていたかわからない。むしろそれが原因?何を言っているのか本当にわからない。


 そんなことはどうでもよくてこれ以上神楽坂妹を連れまわそうものならオレはどうなってしまうのか恐ろしくて仕方がない。コスプレをさせ、オレのYシャツまで着せているのだ。いや、言い方に語弊がある。ほぼ自主的に神楽坂妹が着たものだが。これを知ったらあの姉はうらやま死ぬだろう。そしてオレにこの世の苦しみの詰め合わせをプレゼントした後にオレを消滅させるだろう。


 「お、おい!お前頭大丈夫か?血が出てるぞ!」


 頭の怪我をちゃんとした意味で心配されたの久しぶりではないだろうか。いや突然頭を打ち付けたわけだしどちらの意味も含んでるかもしれん。


 「大丈夫だ。これぐらいの方が頭から血が抜けて、人間は冷静になれるもんだ」


 「本当か!その判断は本当に冷静か!?」


 大丈夫、大丈夫、大丈夫だと思えば大丈夫。妹の魅力にくらくらのオレは神楽坂妹を先導して帰路につくのであった。


 ***


 「ただいま~」


 「おじゃまします……」


 シーン。鍵がかかってない時点で嫌な予感がしたが今日姉ちゃんは家にはいないようだ。大学生である姉ちゃんは全く家にいる時間帯が予想できない。いつもなら姉ちゃんがいないことで、今から一国一城の主になったと狂喜乱舞するのだが、今日に限ってはお客さんがいる。いなくて良いときにいて、いて欲しいときにはいない。本当に傍迷惑な姉である。


 「そうだ、家には連絡いれたか?遅くなったら心配するだろ」


 「うん大丈夫。さっきバスに乗っているときに連絡入れたから。『わかったわ……もう高校生だものね……』ってママから返ってきたから」


 「ちょっと待て。お母さんなんでそんなに意味深なんだ」


 「すごいよな。高校生は。少し遅くなっても怒られないんだぞ」


 「そうだな。神楽坂妹はそのまますくすくと育てばいいよ」


 はっ!みんながこういう姿勢で見守るからいけないのか。しかし顔がそっくりとはいえこんなにも雰囲気が違うものか。今も頬を膨らませて神楽坂さんが絶対にしなさそうな表情をしているし。


 「それ!」


 「どれ?」


 「その神楽坂妹ってやつ。なんか嫌だ。私は神楽坂華恋だ。華恋でいいぞ」


 「そうか華恋。オレは日下部宗介だ。正真正銘、梓山高校の生徒だ」


 自己紹介がてら生徒手帳をみせる。身分証明は大事~。孔明は軍師。


 「男の子に下の名前で呼ばれるのなんて久しぶりだからちょっと照れるな」


 「オレは女子の下の名前呼び慣れてるけどな」


 「そうか。共学はやっぱり違うな」


 ツッコミの不在。オレのこれはどつかれて、みんなの溜飲を下げるまでが1セットなのにこのままではオレはキモ面白いからただの気持ち悪い奴に成り下がってしまう。


 「まあとりあえず上がってくれ、洗面所に案内するから」


 「わかった」


 オレたちは靴を脱いで家に上がる。うげぇ。オレも靴下がびちゃびちゃだ気持ち悪い。靴下を脱いで洗面所までダッシュするとタオルをひっつかんでまた玄関に戻ってくる。


 「ほれ靴下脱いで、足をふいて上がってくれ」


 「わかった」


 「ここが洗面所でそっちがお風呂。もう手遅れかもしれんが風邪をひかないようにシャワーをあびておいたほうがいいぞ」


 「わかった」


 「セーラー服は脱いでおいてくれればこっちで乾燥させとく」


 「わかった」


 「下着とかインナーは脱水させるから、洗濯機に入れて電源つけてこのボタンを押してくれ。洗濯ネットはそこにある」


 「わかった」


 「着替えはオレが適当に姉のから見繕ってくる」


 「わかった」


 「ああ、オレがシャワー中に入ってくるの気まずかったら着替え持ってくるまで待っててくれ」


 「わかった」


 「…………洗濯物はオレが干しとくからほっといていいぞ」


 「わかった」


 「わかるな」


 「え?」


 きょとんとした顔でこちらを見る華恋。本当になんで窘められたのかわかっていない顔だ。オレか。今日のツッコミはオレなのか。いいやそっちがその気ならダブルボケというはたから見れば狂気の空間を作り上げる準備はできているぞ。


 「脊髄反射で話してるの?どこかで危機感もしくは忌避感覚えて止めようね」


 「いや、宗介はてきぱきしててすごいなーと思って。ママみたいだなーと思って」


 だから唯々諾々と従ってしまったと。男の中の男であるオレをとってママみたいとは華恋は見る目がないな。


 女の子というのはこんなに恥じらいがないものなのか。男の夢見る女の子の全ては妄想だというのか。それにしても少しサバサバしすぎてはいないかい。一体オレは何を信じればいい。オレは本当に現実と架空の区別がついているのか。実は現実に理想を投影していた気持ち悪いオタクではないのか。オレはどうしたら……


 「あ、でも一つ気になったかも」


 「なんだ?」


 「お姉ちゃんの服を勝手に持ってきちゃだめだろ」


 「果たしてそこか?」


 もっと突っ込むべきところはたくさんあったのではないか。


 「え?だってうちのお姉ちゃん言ってたぞ?お互いのクローゼットは開けないようにしようって。姉妹にもプライバシーがあるからって」


 「うん。そうだな姉妹のプライバシーは大事だよな」


 あなたの姉は一体何をクローゼットに隠しているんでしょうか?きっと異世界への入り口とかだよね。向こうの世界で人間と関わるのは禁止されているから隠してるだけだよね。


 「でもな、こういう言葉があるんだ。弟のものは姉のもの。つまりは逆もまたしかりというやつだな」


 「そうなのか。姉弟はすごいな」


 そちらこそだよ。


 「まあいいや。とりあえずオレが着替えを持ってくるまで待っててくれ。下着は……さっき自分で買ってたでしょ?」


 「そうだった」


 オレは洗面所を出て2階の姉の部屋へと向かう。あんな姉ちゃんだが勝手に姉ちゃんのものを借りても怒らない。姉ちゃんの怒りの基準がわからないのが逆に怖いよね。


 姉ちゃんのクローゼットからTシャツと短パンを適当に見繕う。


 洗面所にもどりノックを2回。


 「どうぞー」 ザァーー


 やけに遠いところから声がするな。というかシャワーの音が聞こえてるんだけどな。あれ、オレさっき待っててって言ったよな。従うことをやめ自分で考えて動いたわけか。若い子は成長が早いのう。


 ドアを開け洗面所に入る。シャワー浴びている。洗濯機動いている。制服置いてある。了解です。


 「着替え置いとくから」


 「わかったー」


 お返事だけはいい。


 オレは着替えとバスタオルを準備して、セーラー服をもつと早々に退散した。




 「こんなもんでいいか」


 オレはセーラー服の水気を取り、室内物干しにかけ、除湿器と扇風機を作動させる。さすがに制服はクリーニング店にお願いしているため、洗濯の仕方がわからない。一応タグも見てみたがわけがわからない記号ばかり。本当に家庭科で習った?


 「ただいま~」


 聞いたらビクッと体が反応する声に乱暴にドアを開ける音。姉ちゃんが帰ってきたようだ。遅いよ、帰ってくるのが。


 「もう雨に濡れちゃったわ。最悪」


 ドンドンと廊下を踏みしめながら歩く音。相当機嫌が悪い。こういう時は目を合わせないのが吉だ。


 「ねぇ」


 「はい」


 「バスタオル」


 「洗面所にございます」


 「うむ」


 危機は去った。今日もオレは生き残ったのだ。おん?バスタオル?洗面所?


 「きゃぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!」


 姉の悲鳴が聞こえる。そりゃそうだ。知らない人が自分の家でシャワーを浴びているのだから。


 「可愛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


 …………。そういえば姉のあんな黄色い悲鳴ははじめて聞いたよ。


 「宗介!宗介!なんか怖いぞこの人!宗介ぇ!」


 オレはそっと耳を塞ぎ、目を閉じた。

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[一言] >そんなことはどうでもよくてこれ以上神楽坂妹を連れまわそうものならオレはどうなってしまうのか恐ろしくて仕方がない。コスプレをさせ、オレのYシャツまで着せているのだ。いや、言い方に語弊がある。…
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