彼は相談に乗る
オレは例の彼女から相談を受けることになった。彼女の名前は神楽坂華凛さんという。茶色の髪をポニーテールにした彼女はうちのクラスメイトの中でも社交的で色々な女子たちと仲良く話しているところを見かける。そんな彼女の悩みとはなんだろうか。友達とケンカしちゃったとかだろうか。任せてくれこの命に代えても仲直りさせてみせる。
さて放課後早速相談に乗るわけだが。
「なんで竜胆とアリアもいるの?」
オレは振り返って言った。神楽坂さんと向き合うオレの後ろに二人は並んで座っていた。二人が一緒に居てくれるのはオレ的には嬉しいけど、できればオレから見えるように神楽坂さんの後ろに座ってはくれないだろうか。
あと二人ともハリセンを持っている。何故?
なお竜胆と神楽坂さんのダブルスは勝ち進み無事次の大会への進出を決めた。あんなにぎこちないハイタッチは初めてみたよ。
「あなたと女子を二人だけにするなんて怖くてできないわ」
「そうそう。華凛ちゃんがつい手がでても庇ってあげなくちゃだし」
その場合は手を出されているオレの心配してくれません?あと手を出そうとしているのは貴方達では?ハリセンだからセーフとかないからね。
「神楽坂さんは二人がいてもいいのか?」
「うん。二人にも意見が聞きたいかな」
そういうことなら。
「それで私の相談なんだけどね。私にはね双子の妹がいるの。あ、妹が双子なんじゃなくて、私が双子で妹がいるってことね」
ほうほう、双子の妹ですか。妹ですか。なんだかオラその言葉を聞くだけでワクワクしてきたぞ。姉ちゃんにこき使われるたびに妹が欲しい妹が欲しいと思ってきたものだ。何?妹はそんないいもんじゃない?妹を持っているやつはすぐそう言うんだ。それが持てるものの余裕ってやつか。そう言って妹にメロメロな自分を隠してるんだろう。男はすぐそうやって興味ねーしとか言って硬派ぶるんだ。それがカッコいいと思ってるのか?自分に正直なやつがカッコいいに決まってるだろ。さあ言えよ。妹は最高ですって。オレはシスコンだって高らかに叫べよ。
「双子だから私とは歳は違わないんだけど、小さい頃からお姉ちゃんお姉ちゃんって私についてきてくれたの」
「その時の写真ある?是非みたぶふぉあ」
後頭部に二つの衝撃が。振り返る。笑顔のアリアとジト目の竜胆がいる。竜胆に至っては早く前を向けよと言わんばかりに顔を動かしている。おいおい神楽坂さんに証言してもらうぞ。
「あるよー。昔の紙の写真も全部データ化して私のスマホの中に入ってるからいつでもどこでも見れるよ。後で見せてあげるね」
最高かよ神楽坂さん。
「でもね。そんな、そんな可愛い私の華恋ちゃんがね」
「私の」とな。ほうほう是非そこら辺を詳しく聞きたいですね。
「華恋ちゃんが不良になっちゃったの!」
「……。」
あーうん。不良かー。別に悪くはないんだけどね。ラブコメではよくあるヒロインだしね不良娘。他の人たちにはツンツンで強気な態度を崩さないけど、主人公にだけはデレるというのは確かにぐっとくるものがある。
だけど日常系には不良娘って出てこないんよ。だって大人も教師もやたら優しい世界だから反抗するものが一切ないからね。そうすると世界から浮くし、なんだか性格悪く見えるしね。
でもあれか。オレがイメージする不良というのはスケバンとかヤンキーとかどちらかというと昔のやつなのかもしれない。今でいうとギャル系?とかそんなイメージになるだろうか。まあギャルも日常系アニメにはそんなに出てくるイメージはないけど。でもやたら地味系女子とギャル系女子の百合漫画はいろんな人がネットにあげてるよね。最高かよもっとやれ。
「学校から帰ってきたらいつもは二人でどんなことがあったのか話すのに濁すことが多くなったし」
「それはまあ話したくないことだってあるんじゃないかしら」
「そんなの嘘だよ!少なくとも私には華恋ちゃんに隠すことなんて何もないよ!華恋ちゃんになら私の全てを見せても恥ずかしくないもの!」
「でも、その恋人とか」
「そんなのないよ」
「で、でも」
「ないの」
「ア、アリアぁ……」
はいはい、キャラ崩壊するぐらい怖かったね。ちょっとだけアリアの胸で安らいでいてね。後ろ振り向きてぇ。
「それに私に髪もとかせてくれなくなったし、一緒にお風呂も入ってくれなくなったし、あまつさえ一緒に寝てくれなかったんだよ!」
「この年なら別に普通だと思うかな」
「ありえない。由々しき事態だな」
「日下部くんもそう思うよね!」
「「…………。」」
完全に華恋ちゃんは不良になってしまった。
「しかしなんでそんな相談をオレに?オレに居るのは不良も逃げ出す怖い姉だけだよ」
「同じタイプの人を敏感に感じとったんじゃないかな……」
何言ってんだ。オレはシスコンじゃない。ただ姉ちゃんはブラコン疑惑があるけどな。オレをいじめてくるのもオレにかまってほしいのだろう。やれやれ困った姉ちゃんだぜ。
モーニングスターを持っている姉の絵が頭に浮かんだ。さすがにそれで殴られたら死ぬ。
「え、だって日下部くんも不良だよね?」
「うん、違うよ」
「良くはないという意味では不良ね」
竜胆はオレを貶すときだけ復活するのやめよう。
「え?だって私服登校の高校でわざわざダサい学ランを着てるのって不良の証でしょ?つっぱり?ってやつだよね?」
「ダサい……」
「「ぷっ」」
え?もしかして学ランってダサい?黒一色にボタンが金ってめちゃくちゃカッコいいと思うんですけど。やっぱり女の子と男の子では趣味が違うのだろうか。
「それにあんなに先生に馴れ馴れしく絡んでるし」
「ちゃんと敬語使ってますー」
「態度の問題よ」
「最近では先輩の教室に乗り込んで先輩をしめたって聞いたよ」
「しめてないよ。痴情がもつれただけだよ」
「…………。」
アリア、ハリセンで脇腹を軽く叩くのやめて。どういう感情?
「え、嘘。じゃあ華恋ちゃんの気持ちわからないってこと?」
「そもそもその華恋ちゃんが不良っていうのも華凛ちゃんの勘違いじゃないかな」
「「そんなバカな!だって一緒にお風呂に入らないんだよ(ぞ)!」」
「うん、日下部くんはややこしくなるから黙っててね」
いや神楽坂さんと同じこと言ってんだからややこしくはしてないだろ。
「それに……」
「「「それに?」」」
「昨日なんか片手に竹刀持ってたし」
「それは、ちょっと確かに不良っぽいかも」
「おとといなんか片手にヨーヨーを持ってたし」
「ん?」
「この前なんて一緒にゲームセンターに行ったら、普段はしないゾンビゲームをやってたんだよ。それでゲームが終わった後「かいかん」って。完全に不良だよ!」
随分古いタイプの不良だ。そして最後のは別に不良じゃない。不良かもしれないが不良を主題とするものではない。
とりあえずギャル系の不良ではないことがわかった。オレを不良だと思ってた神楽坂さんと確かな血筋を感じる。
というか一緒にゲームセンターに遊びに行ってるやん。仲良いやんけ。
「そういえば、華恋ちゃんはうちの高校じゃないんだね」
確かにそんな奇特な人は見たことない。
「確かに神楽坂さんだったら無理矢理にでも一緒の高校に通いそうだよな。たとえ裏口入学させたとしても」
「日下部くん。流石にそれは神楽坂さんに失礼「確かにそれも考えたよ」
「…………。」
ほらね。
「でも私にはまだそれを実現するだけの力がない……!」
「私、これから神楽坂さんと上手くやっていけるかしら。下手したら3年間ペアを組むのだけど……」
「大丈夫だよ。だってこれから1年間宗介くんと華凛ちゃんと同じクラスなんだよ。じきにスルーできるようになるよ」
「本当に手が出ないか心配だわ。日下部くんに」
「なんでオレだけやねーん」
「その場合、私が悪いことになるのかしら?」
「残念ながらね。日本ではまだウザい発言に対する正当防衛は認められてないんだよ」
どこの国でも認められてないよ。え?もしかしてアメリカとかでは認められているんですか?ハーフのアリアが言うとそういう国がありそうで怖い。
「だから決めたの私。どんなに辛酸を舐めようと力を得ようって」
そして神楽坂さんは一人ひた走る。なんかラスボスみたいなことを言い出したな。もう目がいってしまってる。
「高校3年間、大学4年間、日中華恋ちゃんに会えないのを我慢して、良い仕事についてそして私は華恋ちゃんを一生養う」
竜胆とアリアが引いている。椅子を引いた音がしたからおそらく物理的にも距離をとっている。いいのかそこはハリセンの範囲外だぞ。
「悪い虫がつかないように女子校をオススメしたのに、まさか不良になっちゃうなんて。あ……もちろん少しつんつんしている華恋ちゃんも可愛いんだよ」
「誰も別にそこは気にしてなかったわ……」
「一番大切なところでしょうが!」
「アリアぁ……」
いっちゃってる目で凄まれたら怖いよね。というか神楽坂さんはこういう人だったのか。オレ序盤で彼女のことを社交的と紹介した気もするのだが。やれやれ全く。オレの神楽坂への好感度がぐんぐん上がってくぜ。是非問題が解決した後も仲良くしていただきたい。それで二人の話を聞かせて欲しい。いつまた華恋ちゃんが不良になるかわからないからな。アフターケアというやつだ。それが相談を受けたものとしての責任。ソレ イガイノ リユウ ナンテ ナイヨ。
「あ、まさか女子校特有のいじめってやつかな。日下部くんどうやったら女子校に侵入できると思う?」
「誰に何を聞いてるのよ……」
「うむ、オレも合法的に女子校に入る方法がないか考えたことがある」
「アリア、警察」
「わかったよ、りんちゃん。悲しいけど仕方がないよね。未遂のうちに止めないと」
合法的にって言ってるでしょうが。
「ときに神楽坂さん双子の妹さんとは似ているのかな?」
「え、うん。一卵性だから良く似ているって言われるよ。華恋ちゃんの方が可愛いのに全くみんな見る目がないんだから」
うん、まあシスコンの主観はどうでもいいとして。
「じゃあ、妹さんの制服を着て普通に入ればいいんじゃね」
「え?」
「ちょ、ちょっと日下部くん。なんで実現できそうな意見出してるのかしら?」
「そりゃ建設的な意見を出すだろ」
「そ、そんなことしていいの?」
「そうよ。神楽坂さん。それは不法侵入というもので」
「か、華恋ちゃんの神聖な制服を私が着るなんてことをしていいの!?」
ふむさらに椅子を引いた音がしたな。
「神楽坂さん。これは仕方がないことなんです」
「仕方がないこと?」
「ええ、もちろん。全ては悪い道へと妹さんが進まないため。つまりは妹さんのためなんですから」
「華恋ちゃんのため」
「ええ」
「そのためならば華恋ちゃんの制服をキメることもできる」
制服をキメるってなんだ。
「ええ、もちろん」
「そっか」
神楽坂さんは晴れ晴れとした顔になった。ただ目は戻ってない。
「私、日下部くんに相談して良かった。まさかこんなに話が合う人がクラスメイトにいたなんて」
「こちらこそ。これからもよろしくどうぞ」
そう言ってオレたちは、キ◯トとユー◯オばりのハイタッチをかますと振り返ることなく別の出入口から教室を出て行った。
あ、二人を普通に置いてきてしまった。




