彼と少女はデートをはじめる
今回のデートだが、オレの謝罪という側面が強い。ならば手土産の一つでも持っていった方がいいのではないだろうか。黄金色のまんじゅうは流石に用意できないので、菓子折りでも持っていこうか。
しかし待て、食べ物とは一番好き嫌いが分かれるものだ。もしかしたらアレルギーが相手にあるかもしれない。それにアリアは名前通り外国の血も入っている。それがさらに食べ物の選択を難しくしている。しかもだ。デートに菓子折りを持ってきたら相手はどう思うだろう。そうだ。かさばる。あと傷む。この時期とはいえ日中に菓子折りを持ち歩くもんじゃない。
では物にするべきか。ネットでお礼の品で検索してみる。タオル、石鹸、洗剤、油と色々出てくる。しかし、なんだろうかこの家の物置で見たことある感は。結局、使わないでほこりをかぶってしまう感は。自分で買った好みのもの使いたいよな。あとやっぱりかさばる。
ここでオレは思いついてしまった。アリアさんが好きなもので、なおかつ持ち運びの心配をしなくてもいいもの。よし決めた。アリアの喜ぶ顔が目に浮かぶぜ。
「で、竜胆を誘おうと思ったんですけど、よく考えたら連絡先知らなかったわ」
「よかった。もし連絡先知っていたら折角上がったりんちゃんの好感度が下がるところだったよ」
「まあ微減でしょう」
「激減だよ」
なんと。いい考えだと思ったんだけどな。アリアが好きなものだし、持ち運びやすいどころか自立して動く。そしてオレは休日の二人を見ることができる。誰もが幸せになるいい選択肢だったのに。それに前日の夜では他のもの用意できないし。つまるところ昨日の思考の大半が無駄。
「状況だけ説明すれば、デートに他の女の子を呼ぼうとしているんだからね」
「最低だな。クソ野郎だ」
「自分だよー」
それはともかくデート当日です。高校の校門で待ち合わせし、アリアの先導で歩き始める。
「もう怖くて、りんちゃんの連絡先渡せないよ。りんちゃんに用があるときは私を通してね。検閲が入るから」
検閲。
「あ、じゃあオレ聞きたいことが」
「何?」
「アリアに贈り物をしたいのでアリアの好みを聞きたい」
「もう私に直接聞きなよ」
「いえサプライズなので」
「失敗だよーさすがに驚いてあげられないよー」
やはり贈り物初心者にサプライズは早すぎたようだ。
視界の端でアリアの白い服がふわりとゆれる。今日のアリアは白いワンピースに麦わら帽子をかぶっている。なんかあれだね。軽井沢に別荘とか持ってそう。オレは学ランだよ。この格好を見たアリアに殺されることはなかった。やっぱり姉は特殊なようだ。
「そういえばどこ向かってるか聞かないんだね」
予想は付く。高校からこっちの方向へはだんだん過疎っていく。遊べるお店なんてほとんどない。いや、アリアが日本マニアであそこの人形屋さんに興味満々だったらオレの予想は外れるが。通り過ぎた。よし。
「たぶん、運動公園だろ」
ここでいう運動公園が指すものは前にマラソン大会を行った運動公園のことだ。目的は勿論、竜胆が滑り落ちた場所に聖地巡礼に行くこと…………なわけがない。はい、いじるにはまだ早いですよねー。自分でも不謹慎だと思いました。
あの運動公園はなにもトラック競技場だけがあるわけじゃない。子供が楽しい遊具が集まるエリア、球児たちが甲子園をめざして激闘を繰り返す野球場、そして……あーテニスの全国大会ってどこでやるんだ。有明?あ、テニスって言っちゃった。そうテニスコート場だ。
「つまりは竜胆の応援だろ?」
そろそろ大会の時期だ。一年生のこの時期から大会にでれるのかすごいな。
「正解。知らない人がたくさんいる場所でりんちゃんが緊張してないか不安で」
「おかんの発想」
「それで緊張をほぐすために宗介くんを呼んだんだよ」
「任せてください。オレと会話したときの人の反応は2通り。バカさに呆れて緊張がゆるむか、気持ち悪さに引いて緊張と警戒が強まるか」
「劇薬だねー。よく任せてくださいなんて言えたね」
ええ、任せてください。
それにもしかしたらその必要はないかもしれない。中学時代オレは自分の学校よりも他校のテニス部に友達が多くいたものだ。大会や練習試合で毎回会うたびに仲良くなれる。それに自分の学校の生徒と違って、他校のテニス部は普段のオレとコミュニケーションをとる必要がなく、その大半がテニスを通しての交流であるのも大きい。
普段のオレがコミュニケーション取りにくいってことですか?まあ中学時代は厨二病が重篤だったので仕方がない。
そしてテニスコート場に到着する。ボールの音、選手の雄たけび、拍手。懐かしい雰囲気だ。
「あ、私ちょっとお手洗いに行ってくるね」
「はいよ」
オレはアリアと別れ近くに張り出されているトーナメント表に目を通す。竜胆の試合はっと、あれ今もう始まってるね。コートの場所も確認したし、アリアが帰ってきたらすぐに行けばいいだろう。男子のトーナメントも確認する。知っている名前がちらほらというか結構ある。まあ強豪校もない地区なので県外から人が来ることもあまりなく、面子自体は中学の時と変わらないのは仕方がない。まあオレみたいにやめた奴や、高校から始めた奴もいるだろうが。
「あれ、お前日下部じゃね?」
振り向くと同じ中学時代の同級生が立っていた。比較的オレに普通に接してくれていたのを覚えている。名前は、えー、うん。
「いやー久しぶりだな。お前どこの高校に行ったんだよ」
「梓山高校」
「進学校じゃねぇか。お前頭良かったのかよ……」
うむ。なんでオレはみんなからバカだと思われてるんだろうか。不思議だ。
「それにしてもすぐにわかったよ。俺の記憶の中そのままに同じような学ランきてるしよ……なんで学ラン?」
「かっこいいから」
「いや、そうじゃねぇよ。大会にでるならユニフォームだろ。あれでもお前の名前トーナメント表でみてない。応援か?それでも学ランはおかしいし……」
「あ、オレテニス部に入部してないから」
「ええ!相変わらずに何を考えてるかわかんねーもったいねー」
まあ確かにテニス用品はきっちりそろえてあるからな。でも大丈夫うちの近くの公園では壁打ち用のコートが借りられるから。無駄にはならない。
「お待たせ―。あれ?お友達?」
アリアが帰ってきた。友達(いたんだ)?という副音声が聞こえてきた。
「あ、あ、あ、」
どうした、えー同級生よ。信じられないものを見る目でこちらを見て。
「お前。テニスを裏切って女に走りやがったなぁ!」
「うん、違うよ」
「うるせぇ!言い訳なんて聞きたくないんだよ!あーあ、お前やっちまったな!お前の成長はここで止まった!これからは彼女に見栄を張るためだけに生きていくんだからな!努力を怠りお前は落ちぶれていくんだよ!どうせ高校時代の彼女なんて卒業したら自然消滅するんだからな!全然悔しくないけどねー!へーんだ!」
「勝手にアクセルを全開にするな。こちらがついていけてないぞ」
「オレたちがこんなに必死になって大会に挑んでるなかで、お前は高みの見物ですか!そうですか!オレたちをバカにしに来たんだろう!?」
「強烈なお友達だねー」
「お前なんてちょっとテニスができるだけでちょぉぉぉぉぉぉっと顔がいいだけの分際で!」
「どうも」
「俺だって、俺だって……この大会で活躍して、女テニの桜ちゃんにカッコいいところをみせるんだあああああぁぁぁぁぁぁ!」
「「…………………………。」」
これがドップラー効果か。よい健脚で駆けて行った。あいつ今日一日オレたちに会ったらどうするつもりだろう。毎回これをやるつもりだろうか。意外と狭いぞテニスコート場は。
「類は友を呼ぶかー」
「ワタシ コトワザ ワカリマセーン」




